BRIDGESTONE F1活動14年の軌跡
  • ブリヂストンのF1チャレンジはこうしてはじまった
  • ブリヂストンF1スタッフ歴戦の記憶
  • 内外の関係者が語る、F1活動の意義 F1参戦がもたらしたもの
  • 参戦年表
  • テクノロジー&レギュレーション
  

ブリヂストンの情熱と闘志は
世界数十億人の視聴者に届いた

株式会社フジテレビジョン スポーツ業務部長

峰岸 淳

ブリヂストンのF1活動は、テレビ観戦をする年間数十億人のファンたちに、どのように受け止められてきたのだろうか。
1987年から、日本国内におけるF1放映権を持ち、2010年現在、地上波とCS放送で番組を放映しているのがフジテレビである。
1990年から2002年まで番組制作やプロデューサーとして、2006年からは権利交渉の担当としてF1の放映に携わる峰岸 淳氏から、ブリヂストンのF1活動についてのお話を伺った。




タイヤというのはレースをするために必要不可欠、ときに勝負を左右するほどの存在である一方、当然泣きもしないし笑いもしません。それにエンジンやマシンと違って、なかなか理解しにくい部分も多い。番組制作を行う側からすると、表現しにくいものであったのも事実です。
しかし、ブリヂストンが参戦してきて変わりました。
浜島さんはカメラの前で、誰にでもわかりやすい表現でタイヤについて語ってくれましたし、何よりブリヂストンのタイヤは強かった。日本のタイヤメーカーが参戦2年目にはすでにチャンピオン争いを展開し、F1で長きにわたって覇を唱えてきた巨人、グッドイヤーに勝つというのは非常にインパクトがありました。どうしても地味な存在だったタイヤが、一躍F1をドラマチックにする存在に変わったように思えましたね。そういう意味では私たちにとってありがたいことでしたし、多くのモータースポーツファンにとって、ブリヂストンがこれまで以上に身近な存在として認識されたのも確かではないかと思います。


日本のみならず、テレビでレースの行方を見守る世界中のF1ファンにとっても同じだったのではないでしょうか。
タイヤの重要性を見せつけるレース展開だけにとどまらず、世界中のサーキットのコースサイドに立てた看板で、常にその存在をアピールし続けました。
テレビのプロである私たちから見て、あの看板はかなり強力な効果を持っていたと思います。これは、日本GPで我々フジテレビも国際映像制作に関わらせていただいたからわかることですが、コースサイドの看板というのは、どのように画面に映るのか、どのくらいの時間映るのか、完璧に計算し尽くされていますから。
まず、そのグランプリでホストとなるテレビ局──日本GPなら我々フジテレビですが──が、20台以上のカメラをサーキットのどこに配置するか、という計画をF1の全世界の看板を管理する会社(APM)に提出します。そして、彼らはそれにあわせて各カメラから見て一番効率よく、また目立つ位置に看板を設置するのです。また毎年少しずつ映り方を改善するのはもちろんのこと、フリー走行の金曜日、予選の土曜日、決勝の日曜日、この3日間を通して各セッションの合間に看板の位置を微妙に調整して、綺麗にテレビに映るよう最後まで細心の注意を払っています。
F1参戦によって、ブリヂストンの世界における知名度とシェアを拡大できたと聞いていますが、レース中継の間に常に画面のどこかに映っている、この看板の効果によるところは大きかったはずです。


「看板」と聞くと簡単なことのように聞こえるかもしれませんが、これも勝てるタイヤを開発する技術と同じで、誰にでもできることではありません。
なぜなら、F1はヨーロッパ発祥の「文化」であって、外に向かって誰にでも広く開かれているものではないからです。本当の意味で内側に入っていくためには、いくつものハードルを越える必要があります。日本の「文化」である相撲でも、外国からフラッとやって来て、1年や2年では認められず、簡単には横綱にはなれないように......それこそ、腰を落ち着けて「骨を埋める」覚悟のない者は、受け入れてもらえないのです。
そんなF1で、ブリヂストンはコースサイドのいわば「特等席」で世界に向けてブランドを訴求することができた。それがなぜかといえば、古くからF2やDTMなど、モータースポーツの本場である欧州のカテゴリーに真剣に取り組んで来る中で、浜島さんをはじめとする技術部門の方がすばらしいタイヤをつくり、F1活動をマネージメントする安川さんや堀尾さんが、ヨーロッパにおける信頼関係を何十年にもわたってきちんと築き上げてきて認められたからだと、私は思います。我々も1987年からF1の放送に携わってきましたから、ブリヂストンがF1で常にサーキットの一番目立つ位置に看板を置いていたことの凄さ、難しさはよく理解できます。


F1をテレビで視聴している人の数は、世界で数十億人にもなると言われています。その魅力は何か?というと、個人的にはやはり世界一流のドライバー、チーム、ハードウェアを集め、世界中を転戦しながら一番速い存在を決めるという点に尽きるのではないかと思います。
私が番組制作に関わってきた中では、仕事であることを忘れて中継車の中で感極まってしまったこともありますし、中には一生忘れられないような思い出のワンシーンもあります。F1をご覧になっている方ならば、似たような経験がおありの方も少なくないのではないかと思います。
ブリヂストンのつくるプロダクトのすばらしさや、企業の姿勢といったものは、そんな感動的なスポーツとともに世界中のファンの心の中にしっかりと刻まれたのではないかと思います。

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フジテレビは1987年以来、ホスト局として日本GPの国際映像を製作している。

浜島によるタイヤについてのわかりやすい解説は、F1に「タイヤ」という新たな見所を与えてくれた、と峰岸氏は語る。

コース脇の看板やロゴマークなどは、テレビに映ったときにいちばん効果的に見えるよう、研究し尽くされている。