EWCはEndurance World Championshipの略で、正式名を「FIMロードレース世界耐久選手権」と言います。現在二輪ロードレースの世界選手権と呼ばれているのは3選手権開催されており、EWCはその中の1つとなります。
2024シーズンのEWCは、年間4戦で開催される予定です。
EWCは6時間から24時間までの耐久レースで、ライダーは2名か3名で戦います。12時間以上又は1800km以上の耐久レースの場合はさらに1名の補欠ライダーが予選走行まで認められ、エントリーチームは最大70チームと規定されています。
鈴鹿8耐はEWCのうちの1戦で、日本バイクメーカー4社が力を入れておりGPライダーやWSBKライダーが参加したりするEWCの中でもレベルの高いレースです。2015年からこの選手権のプロモーターとなっているユーロスポーツが鈴鹿8耐をヨーロッパでライブ放映を行ったところ非常に盛り上がったという事で、タイトルが決定する場としてふさわしいとして来場者数も多い鈴鹿8耐が近年まではシリーズの最終戦にもなっていました。
EWCのシーズン
2019-20シーズンまでは年を跨ぐシーズンだったが、2021年からは単年開催に戻り、2024年シーズンも年を跨がないスケジュール(*)が予定されています。4月のルマン24時間で開幕、7月に第3戦の鈴鹿8耐、最終戦となる第4戦は9月にフランス・ボルドール24時間となります。
*2020年の新型コロナ感染拡大でスケジュールが大幅に変更となった為、2021年からは単年開催
2024年シーズンのスケジュール(2月29日時点)
4.20-21 Rd.1 ルマン24時間 (フランス/ブガッティ・サーキット)
6.8 Rd.2 スパ8時間 (ベルギー/スパ・フランコルシャン・サーキット)
7.21 Rd.3 鈴鹿8時間 (日本/鈴鹿サーキット)
9.14-15 Rd.4 ボルドール24時間 (フランス/ポールリカールサーキット)
EWCのレギュレーション
EWCのレギュレーションについて、概略の説明をしましょう。
(1)マシン
EWCに参加出来るマシンのカテゴリーは、下記3種類となります。
①Formula EWC(EWC) ②Superstock(SST) ③Experimental(EXP)
メインとなるEWCマシンの規則は、全日本ロードレースのJSB1000にかなり近く、サスペンションやブレーキ、スイングアーム変更等、改造範囲が広くなっています。SSTマシンは全日本ロードレースのST1000クラスと同様で改造範囲が狭く、市販されているスタンダードに近いマシンです。欧州ラウンドの24時間耐久レースでは、SSTクラスの参加が多くなっています。また2022年からヨーロッパで開催されるレースでのSSTクラスは他社タイヤメーカーのワンメイクとなりました。EXPは鈴鹿8耐では無いのでなじみが薄いですが、過給器やハイブリッドシステムも認められたEWCクラスよりも改造範囲の広いカテゴリーです。
ベースマシンはFIMによって認可を受けた、通常公道を走れて普通に購入出来るバイクで、販売価格の上限や、最低生産台数が決められています。
EWCとJSBの最も大きな違いは、EWCで夜間走行の為のライトが装備されるので、最低車重が少し重くなっています。
WSB(ワールドスーパーバイク)のレギュレーションと比較すると、ベースマシンは同じながら改造範囲がWSBの方が広くなっています。
EWCとJSB、WSBのレギュレーションを比較したのが下記表です。
EWC / 鈴鹿8耐
JSB
WSB
マシン最低重量
168kg(燃料タンク除く)
165kg(2気筒170kg)
168kg
ガソリンタンク容量
24L
←
←
レース距離
3時間以上24時間以内
70km以上~130km
85km~110km
予選方式
各ライダー20分2回
上位2名の平均ベストタイム計時予選1or2回 又はノックアウト方式
1時間2回の予選後
各15分のSP1,2でグリッド決定
タイヤ使用本数
予選7本、
決勝 本数制限なし予選で2セット、
決勝はフリーFP1からレースまで
24本(F:11、R:13本)
使用リム
フロント:3.50×17インチ
リア:6.00×17インチ
材質はアルミに限る
(除く認定品)←
←
(2)タイヤ
使用するタイヤは、競技専用の公道走行不可(NOT FOR HIGHWAY SERVICE=NHS)のタイヤか、公道走行可の場合は規格に則っている必要がありますが、通常はNHSのタイヤを使用します。トレッドパタンについては規制がありませんが、メーカーが製造したもののみ使用可能で、グルービング等の溝追加加工等は認められません。
ウェットタイヤに関しては、メーカーがグルーブパターンの図面を提出し認められたウェットタイヤのみ使用する事が出来ます。
タイヤ使用本数制限は予選で7本(8時間耐久レースでライダーが2名のチームは5本)となっています。以前は決勝でも本数制限が設けられていましたが、2019‐2020年シーズンからは決勝でのタイヤ使用本数制限は撤廃されました。予選でのタイヤ使用本数制限は具体的にはタイヤのサイドに貼るステッカーが各チームに渡され、予選で走るタイヤには、必ずこのステッカーが貼って無ければいけません。各ライダーが予選でのコースイン/アウトの時に、オフィシャルがタイヤステッカーの確認をします。
フロントタイヤとリアタイヤの区別はないので、どのような組み合わせでも構わなく、フロント2本、リア5本でも良いのです。決勝では使用本数制限が無いとは言え、鈴鹿8耐の場合、上位チームは7回ピットの8スティント走行なので、毎回フロントリア共に交換して8セット使用が一般的な使用で、それ以上タイヤを交換するとピット作業のロスタイムが増えてしまうので不利な状況となってしまいます。
24時間耐久レースでは、上位チームでも26-28回ピットをするので、毎回新品タイヤに交換するか、場合によってはリアのみ交換や前後2スティント使用する等、様々な戦略が出来るようになりました。
(3)ライダー
ライダーは2名か3名で走る事となります。24時間レースに関しては、更に1名の補欠ライダーが認められています。決勝の前に補欠ライダーを含めた中から3人を登録してレースを行います。各ライダーの走行時間に関しては、以前は一人の連続走行時間に制限がありましたが、現在はありません。
(4)ピット作業
レース時ピットインした時、ピット前のワーキングエリアでマシン作業することが出来る人は、腕章を付けた特定の4人と決まっています。この点は、2017-18シーズンまでマシンに直接触らずに補助する人(例えば外したタイヤを受け取るや、メカニックに工具を渡す等)は除外されていましたが、2018-19シーズンからは、この4人は他の人から作業を援助してもらってはならないと決められました。
そのため以前の鈴鹿8耐では、ワークスチーム等では外したタイヤをメカニックが投げて他の人が受け取るという事がありましたが、2019年の8耐からは受け取る人も4人に入ってしまうのでそのような光景は見られなくなりました。(今はタイヤラックに入れるスタイルになっています)
マシンをピットボックスに入れた場合は、作業人数の制限はありません。ガソリン給油はピットアウト直前にピットレーンで行い、ガソリン給油中はマシンの作業を行ってはなりません。
又レース中のピット作業に関しては、消火器の準備やピット内保管のガソリンの量、タイヤウォーマー使用法や電源プラグ使用の位置等、又作業員は規格に沿ったヘルメット(自転車用やスノボ用が多い)を着用し、綿製の長袖長ズボンか、耐火服を着用するなど、安全に関する項目が細かく規定されています。
(5)予選
各ライダー20分の計時予選が2回行われます。それぞれのライダーのベストタイムを出し、2021年まではライダー全員(2名又は3名)の平均ベストタイムを使用していましたが、2022年から変更となりライダーが3名走行する場合は速いタイムを記録した2名の平均ベストタイムがそのチームの予選タイムとなり、グリッドが決定されます。
但し鈴鹿8時間耐久レースでは、恒例のトップ10トライアルが実施されるので、1位から10位までのグリッドはトップ10トライアルの結果が適用されます。上記計時予選後ライダーの平均タイムによる順位で、1位から10位までのチームがトップ10トライアルに出場し、各チーム2名のライダーがトップ10トライアルを走って、そのベストタイム順にグリッドが決定します。
EWCのポイントシステム
EWCではチーム、ライダー、コンストラクターズ(バイクメーカー)にポイントが与えられ、それぞれのランキングが決定します。
EWCのポイントシステムは、レース時間によって獲得ポイントが異なり、また24時間レースの場合は途中経過順位にもポイントが加算される等、やや複雑なシステムです。
基本ポイントは、1位から20位までに与えられるポイントで、レース時間が8時間以下と8時間を超え12時間以下、12時間を超え24時間までのレースで3段階のポイントとなっています。1位はそれぞれ30点、35点、40点と時間が長いほどポイントが多く、20位が1点となっています。
このポイントは2016-2017シーズンから少し変更され、最終戦では1.5倍になるので、最終戦までタイトルを争うチームには逆転チャンピオンを獲得する可能性が大きくなりました。
次に12時間以上のレースの場合、8時間と16時間経過時の順位にボーナスポイントが加算されます。その時点の1位が10点で、10位が1点となります。ですから24時間レースでは、例えば16時間までトップを走っていたら、その後リタイアしても20点獲得となるのです!
このボーナスポイントは、チームとライダーに与えられるもので、コンストラクターには与えられません。そしてコンストラクターのポイントは、各コンストラクターの上位2チームのポイントが加算されます。
また2018-2019シーズンからは予選上位5チームに予選ポイントが与えられるようになりました。予選順位が1位には5ポイントが与えられ、以降4ポイント、3ポイントと予選5位までのチームに付与されます。
SSTカテゴリーの各ランキングは、ワールドカップという名前になり、ヨーロッパ内のレースで年間ランキングが決まりますので、鈴鹿8耐の結果は加算されません。
タイヤについて
EWCは現在ロードレース世界選手権の中で、唯一複数のタイヤメーカーがタイヤ供給を行い開発でしのぎを削るレースとなっています。
これまでブリヂストンはYART-YAMAHAとF.C.C. TSR Honda Franceにタイヤを供給してきましたが、2021シーズンからヨシムラSERT Motulを加えた3チームにタイヤを供給しております。
EWCを戦うタイヤはグリップと耐久性が勿論重要ですが、更に幅広いコンディションに対応出来て、乗り易いという事も重要となります。特に24時間耐久レースでは、日中と夜中の気温差が大きく、更に雨が降ったり目まぐるしく条件が変わる事もあります。各サーキットのコースや路面の特徴も違うので、レースには何種類かのコンパウンドを準備するのですが、幅広く対応出来るタイヤでなければなりません。
例えばルマン24時間のレースでは、明け方に路面温度3℃と極寒の状況に対し、真夏の鈴鹿8耐では路面温度が60℃近くなる事もあるのです!
どのレースでもほぼ1時間で給油、ライダー交代の為のピットインをするのですが、24時間レースでは夕方から日没、気温が最も下がる夜中や明け方、日の出時刻になり気温・路面温度が上がり始める早朝等、温度に合わせてタイヤスペックを変更する場合はどちらのスペックが適しているか?と迷う事も多く、温度に対して幅広くカバー出来て性能変化の少なくロバスト性の高いタイヤが求められます。もちろん長い時間を安定して走行出来る耐久性は重要、寒い時にはピットアウト直後やセーフティーカー解除後のタイヤの温まりも大事な性能となります。
雨が降った時使用するWETタイヤも雨の量による状況変化に対応出来なければなりません。一度WETタイヤに交換したら、雨が止んで路面が乾きだしても、ある程度走れないと再びピットインしてタイヤ交換をしなくてはならず、タイムロスしてしまうのです。