【S耐に集う人々】Honda R&D Challengeの視点──人材育成の場としてのS耐

Hondaで働く従業員の有志で立ち上げたプライベートチームHonda R&D Challengeでステアリングを握る石垣博基(いしがき・ひろき)選手。2023年に2輪駆動車で初となるST-2クラスチャンピオンを獲得したチームで部長を務める。
幼少期から自然にクルマへ惹かれ、学生時代は仲間に誘われて走行会に参加していた。その後も社内でのモータースポーツ活動を通じてレースに参戦するが、活動を本格化させたのは40代に入ってから。「自分でレースをやってみたい」と家族を説得し、2020年にヴィッツレースへ参戦(関東3戦・東北3戦、コロナ禍で変則日程)。この経験で手応えを掴み、2021年からはドライバーとしてS耐を戦う。社内ではアシスタントチーフエンジニアという肩書を持つ石垣選手に、S耐とチームについて話を伺った。

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「Honda R&D Challengeは、2016年に人材育成を目的とする業務の一環としてスタートしました。2018年に「業務としては一区切り」となりましたが、新型車のレースカーがそろそろ完成するというタイミングだったこともあり、代表の木立や前チーム監督・部長だった望月が「業務ではない形で続けさせてほしい」と会社に掛け合い、さらに「このクルマでS耐にスポット参戦しよう」と旗を振って、2019年にもてぎでスポット参戦できる環境を整えました。
活動の計画とクルマづくりは、S耐のレギュレーションを読み込み、経験が豊富なターマックプロの川口さん(現在はチームのテクニカルサポート)に教わりながら進めました。クルマは、N1プラスαの規定で、自分たちで作らなければなりません。外部の方に大きく支えていただいていますが、我々も仕様検討や車両製作作業に加わり、「どう造るのか」を学びながら進めています。FK8のレース車両製作時はマイナートラブルもあり、いろいろと試行錯誤しました。現在のFL5に変わった時はFK8とコンポーネントが共通の部分が多く、比較的スムーズに造ることができました。
社外の方々にご支援をいただきながら活動を拡大していくなかで、2021年から会社からのサポートも得てフル参戦へと移行しました。やはりスポットとフル参戦では得られるものが違い、人もチームも大きく成長できました。しかし、当時はチャンピオンを獲りたい想いはあっても現実的とは思えませんでしたし、クルマの速さで劣る部分があったとの認識もありました。それでも毎戦、全力で取り組み、完走し、ポイントを積み重ね、2023年の最終戦でST-2クラスのチャンピオンを獲得することができました。タイトルを獲得したことで、周囲にレースチームとして認知してもらえるようになったと思います。
クルマのメンテナンスはレースウィークの合間に自分たちで行っており、埼玉を拠点とするメンバーもいますが、中心は栃木です。メンバーの固定化はできるだけ避け、新しい人が経験できるようにしつつ、高いレベルが求められるS耐の活動継続に支障が出ないようにバランスを取っています。新規に加入したメンバーは、メカニックやエンジニアとして参加します。チーム活動では他のレース(もてぎENJOY耐久レースやN-ONE OWNER'S CUPなど)にも参戦しており、いろいろな役割を経験した上でドライバーに回る者もいます。
S耐を通じた人材育成という観点では、走行テストを行う上での車両評価能力向上につながっていると感じます。業務では、安全に狙った通りに車を動かす中で評価する運転技量が求められます。しかし、一定の性能マージンを保っていると思っていても、実際にどのような車両状態で走行できているかは曖昧になりがちです。一方で、S耐では“ほぼ100%”の性能を維持できる運転技量が必要となり、結果がタイムとしても表れるので、自分が車両性能をどの程度思い通りに走れているかが明確です。
ブリヂストンのタイヤは、性能が安定しているという印象が非常に強いです。ジェントルマンドライバーが乗ってもピーキーさがなく、性能を感じ取りながら走行できますので、レースを通じて運転技量を磨く上で非常に助かっています。
その他にも、同じクルマを複数人で乗ることによってドライバー同士の感覚のすり合わせができたりエンジニアへのフィードバックを通じて言語化能力も鍛えられたりします。ドライバー以外の役割でも、セットアップを進める中で仮説と検証を繰り返し経験することができますし、チーム運営を行う中ではマネジメント能力やコミュニケーション能力も磨かれます。そういった様々な経験が、将来のヒトづくりや量産車開発への貢献につながると考えています。」

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ブリヂストンは、スーパー耐久を支える“ひと”の力とともに、
その想いがゴールまで届くよう、足元から走りを支えていきます。