"Tipo/Daytonaロードスター”が2年ぶりに王座奪還で最多勝記録を更新
2022年12月3日(土曜日)、茨城県の筑波サーキットで「第33回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」が開催された。優勝したのは過去9回の優勝を誇る名門“Tipo/Daytonaロードスター”。
ドライバーもお馴染みの佐藤孝洋/永田 郷/斉藤慎輔/橋本洋平の4名だが、最後は2位の“サムライホイールズ×GTロードスター”が1.233秒差に迫るという大接戦を制しての最多勝記録更新となった。このレースは初代ロードスターがデビューした1989年から、自動車専門誌やテレビ、ラジオ、インターネットなどメディア関係者のチーム対抗として行われている伝統の一戦だ。年に一度、業界の腕自慢たちがギネス世界記録を誇るベストセラーのオープンカーで真剣勝負を楽しみ、その模様を自らのメディアで発信することで、モータースポーツの振興にも一役買っている。
車両はすべてマツダからの貸与で、安全にレースを楽しむための装備以外は現在、ほぼ市販車と同様の状態。タイヤの空気圧以外は一切の調整・改造が不可という、厳格なイコールコンディションが保たれている。主な専用装備はマツダ製ロールバー、ビルシュタイン製ダンパー、エンドレス製ブレーキパッド、ブリッド製バケットシート、CUSCO製レーシングハーネスなど、いずれも市販されている部品だ。タイヤは開催初年度からブリヂストンがサポートを継続し、前々回からはロードスター・パーティレースⅢの指定タイヤでもある「POTENZA Adrenalin RE004」のワンメイクとなっている。
また、本イベントは9月・第1土曜日の開催が恒例となっていたが、新型コロナウイルスの影響が及び、2020年の第31回大会は決勝レースを2.5時間に短縮。ドライバーも最大4名までで、使用できるガソリンは満タンの40リットルのみとされた(通常は最大5名までで、決勝中に20リットルの給油1回あり)。昨年の第32回大会はスケジュールを変更して今年3月19日に開催も、同じく2.5時間で行われた。そして第33回大会も、当初は恒例にしたがって9月4日の開催を予定していたが、3カ月遅れの12月3日に延期されたのだ。
しかしながら今回は第30回大会以来、3年ぶりに決勝が4時間のレースに復活。ドライバーも最大5名までとなり、途中1回の20リットルの給油も許される。つまりフルスペックでの開催に戻ったことになる。一般ファンの皆さまの観戦もOKとなった。
エントリーは前回の19チームから、23チームまで増えた。009号車「テリー土屋とくるまの話」と71号車「BRIDGESTONE」が初出場。また2号車「SAMURAI WHEELS×GRAN TOURISMO」は3大会ぶり、44号車「カー・アンド・ドライバー」は28年ぶりという長いブランクからの復活だ。なおチーム事情により、3号車「ピンクパンサー」が残念ながら欠場となった。
【予選はパーティレースⅢの初代王者が今回もポールを獲得】
恒例の9月開催の場合、決勝は16時スタートで20時にゴールというのが定番だった。しかしながら、今回は季節も12月ということもあって、全体が前倒しのスケジュールとなった。8時ジャストから30分間の公開練習のあと、9時05分から20分間の公式予選から戦いが始まる。予選後はもう一度満タンにするので、ここは各チームのエースドライバー(ただし助っ人認定されたドライバーは担当できない)が全開アタックで真剣勝負となる。
前回の3月開催の時も似た状況だったが、初めての12月開催ということで、予選では各チームがタイヤの空気圧に悩んだ。気温は5℃台で路面温度も一桁というコンディションでは、さすがにタイヤがすぐには温まらない。しかしながら、最初の1〜2周のアタックでベストラップが生まれることも多いタイヤの特性から、「温めるのを優先する」か「フレッシュな状態を活かすのか」という選択を迫られた。
まず序盤のアタックで上位に顔を見せたのが、500号車「FMドライバーズミーティング」の金井亮忠。2周目に記録した1分10秒150はかなり長い間、ラップモニターの最上段に居座った。これに続いたのがポール争いの常連、13号車「ENGINE」の大井貴之の1分10秒211で、同じく業界最速を競う立場の27号車「Tipo/Daytona」の橋本洋平も1分10秒252で肉薄。以上の2名はアタック3周目にマークしたタイムだ。しかしながら2016年、ロードスター・パーティレースでND初代日本一に輝いた74号車「REVSPEED」の梅田 剛が見せてくれた。すでに直近の2大会連続でポールポジションを獲得している実績もあるが、今回もやや遅れてのコースイン。それでも全チームで一番少ない5周のアタックで、最後に出したタイムが1分09秒751。すかさずピットに戻って待機に入るあたりも、「自分が一番速い」という確信が持てた証拠だろう。梅田には予選トップのドライバーに与えられる「ブリヂストン賞」が授与された。
そして予選の最終盤にも、ベストラップを更新するチームが続出する。2号車「SAMURAI WHEELS×GRAN TOURISMO」の若手、山田和輝は14周目に1分09秒840と10秒の壁を突破。74号車に続く2番グリッドを獲得する。さらに初出場の009号車「テリー土屋とくるまの話」の山中智瑛が1分10秒165を15周目に叩き出して、500号車に続く4番グリッドを確保。3列目には13号車に続いて、これも強豪チームの813号車「J-WAVE」の高橋 滋が12周目のアタックで1分10秒252を記録。6番グリッドに滑り込んだ。
【セレモニーから決勝スタート】
11時10分からはコース上で、決勝スタート前セレモニーが始まった。最初に橋本 弘大会実行委員長が登壇して挨拶。前回優勝の55号車「Start Your Engines」から持ち回り優勝カップが返還され、代わりにレプリカが授与された。
そしてポールポジションを獲得した梅田が代表して、3大会連続の選手宣誓を行った。
さらに予選結果順に各チームが登壇し、代表者がチーム紹介を兼ねて、意気込みを語っていく。
進行が順調に進み、定刻より少し早い11時59分32秒にマツダの東堂一義執行役員が補助信号となるマツダ社旗を振り下ろすとともに、ローリングスタートで戦いの火蓋が切られた。
今回も優勝を争うと見られるチームのスタートドライバーには、実行委員会が決めたハンディキャップを30分以内に消化する義務がある。前回優勝の「Start Your Engines」には270秒、準優勝の「J-wave」に210秒、3位の「人馬一体」など、有力チームには120秒のほか、90秒あるいは60秒というピットストップが課せられた。このピット義務が一段落すると、当然のようにノーハンデのチームがリーダーボードの上位を占めていく。今回もトップに立ったのは、やはりハンデのなかった60号車の「CAR GRAPHIC」。ところが28分過ぎ、60号車の背後にはすでにピットストップを終えて、周回遅れとなったのを挽回しようとする100号車「LOVECARS!TV!」が迫っている。1コーナーからサイドbyサイドのまま差し掛かった第1ヘアピンの進入で、60号車が止まりきれずに接触。2台とも損傷は軽微だったが、100号車はタイヤがパンクして緊急ピットイン。60号車にドライブスルーのペナルティが課されるとともに、100号車は大きくタイムロスして勝負権を失ってしまった。
【序盤から活躍が目立っていた88号車】
レースが落ち着きを見せはじめた1時間経過時点で、2位以下に1周以上という大差でトップに立っていたのが88号車「carview/みんカラ」だ。このチームは2011年に一度優勝しているが、近年は全員が社員というチーム構成で臨んでいて、今回はハンデなしでの戦いとなる。1時間30分を経過しても2位の27号車に28秒も先行し、3位の69号車「GOETHE」と4位の08号車「ベストカー/おとなの週末」に対しては1分以上もリード。5位の2号車以下はラップダウンという快調な走りを見せていた。
そしてレースが折り返しとなる2時間経過時点で、首位の座に立っていたのは27号車「Tipo/Daytona」。91ラップを走破して、120秒のハンディキャップをすでに帳消しにしていた。2位には2.667秒差で先ほどの88号車が食い下がっている。以下、3位から5位まではトップから約1分のビハインド。2号車と69号車、86号車が続いて、ここまでが同一周回だ。
さらに1時間が経過し、すでに全チームが給油を終えて、残りは1回のドライバーチェンジを残すのみという段階でも、トップ3は変わらない。27号車は淡々と走り続ける一方、少しペースに劣る88号車も36秒差で2位の座は守っている。一方で2号車のドライバー構成をここで紹介すると、ピーター・ライオンと片山右京というベテラン勢から後半を託されたのは、車名にあるゲームの名手2名と開発者という若き3名。すでに88号車を10秒以内の射程圏にとらえていた。この時点での同一周回は3台のみとなっている。
さて今回は、アンカー勝負となった残り30分からも事件が起こる。まずは複数回の走路外走行のためペナルティ(60秒)ストップを課され、周回遅れになっていた74号車「REVSPEED」の冨林勇佑の鬼神の追い上げだ。彼もGRAN TOURISMO出身で、かつパーティレース王者を経てプロ入りした若者だが、今シーズンSUPER GTのデビューイヤーで第3戦2位入賞、更にTOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ CUPでは初代チャンピオンに輝いた。そんなヒーローが、あっという間に2位まで浮上。最後はガス欠でストップしたが、残り10分の段階まで場内を大いに沸かせてくれた。
大きな嵐が去った後、チェッカーに向けてひた走る27号車だが、2号車が最後に猛然とプッシュ。182ラップを走り終えた時点で、なんとそのギャップは1.233秒。この大会でも屈指の名勝負を演じてくれたが、栄冠は27号車「Tipo/Daytona」のもとに輝いた。2号車「SAMURAI WHEELS×GRAN TOURISMO」が惜しくも2位。そしてノーハンデの88号車「carview/みんカラ」も最終盤はペースを上げて11.982秒差の3位。知らない間に再びトップ2を追い詰めていたのは“あっぱれ”だ。
以下は1周遅れとなり、4位に813号車「J-wave」、5位に08号車「ベストカー/おとなの週末」、6位に12号車「人馬一体」までが入賞となった。
優勝チームに送られる「POTENZA賞」は27号車が獲得
決勝開始から1時間経過後のトップチームに与えられる「ブリッド賞」は88号車が
同じく2時間経過後のトップチームに与えられる「エンドレス賞」は27号車が獲得
さらに完走チームの中で最も順位を上げたチームに与えられる「クスコ賞」には、予選19位から決勝で7位と健闘した44号車「カー・アンド・ドライバー」が輝いた。
優勝チームを代表して佐藤孝洋Tipo編集長は「今年はハンディキャップが2分だったので、節目の10勝目を狙っていました。74号車のプッシュに少し惑わされたのは反省材料ですが、計算ではもう少し走れたと思います」と振り返った。
2号車のピーター・ライオンは「ベテランと若者たちのチームワークが最高でした。あと1ラップあったら勝てたかもですし、途中で30秒ロスしちゃったのが痛かったですね」と悔しがった。
監督も兼任する88号車の宇田川敦史は「全員がしっかりペースを守った我慢の戦いだったと思いますが、報われました」と嬉しそうだった。
最後は恒例のシャンパンファイト
最後に、冒頭でもお知らせしたように今回は「Team BRIDGESTONE」から、71号車“ブリヂストンMSロードスター”が初参戦となった。掲載媒体はまさに今、皆さんがご覧になっている「ブリヂストンモータースポーツWEB」となる。
監督兼ドライバーに佐々木雅弘を招聘したが、本田真哉/大堀敏行/安達元気の3名はいずれも弊社の評価ドライバー。第30回大会に「Support Companies」で参戦した本田以外は初めての4時間耐久レースだった。
予選は安達が担当して14位からのスタート。徐々に追い上げてアンカーの佐々木が渾身のアタックで6位まで浮上したが、ゴール70m手前でまさかのガス欠。コース上でのストップで皆様にご迷惑をかけてしまい、失格の処分を受けてしまったことは痛恨の極みだ。この場を借りてお詫びしたい。この償いはやはり、次回大会にてしっかり完走することで果たしたい……というのが担当者の弁であった。
なお今大会の模様は、YouTubeチャンネル「Mazda Official Web」にて無料でライブ配信された。MCは中島秀之さん、解説はロードスター・パーティレースで連戦連勝を誇った加藤彰彬さん、ピットレポートは自動車ジャーナリストの伊藤 梓さんがそれぞれ担当。アーカイブは以下で視聴することができるので、ぜひ一度ご覧いただきたい。
次回の第34回大会は2023年9月9日(土曜日)に、ここ筑波サーキットでの開催が予定されている。