ギネス世界記録に認定された記念大会で“ベストカー×おと週”が念願の初優勝
2024年9月21日(土曜日)、茨城県の筑波サーキットで「第35回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」が開催された。1989年から続く名物レースに今回「最も長く続いている自動車のワンメイクシリーズ」として、ギネス世界記録に認定される勲章が授与された。さらに今回は20台のロードスター全車が改良型ND5REに一新され、地球にやさしいカーボンニュートラル燃料を使用したこともトピックだ。
このレースは初代ロードスターがデビューした1989年から、雑誌やテレビ、ラジオ、インターネットなど媒体関係者のチーム対抗として行われている伝統の一戦。年に一度、業界の腕自慢たちがギネス世界記録を誇るベストセラーのオープンカー(こちらは2000年5月に認定)で真剣勝負を楽しみ、その模様をメディアで発信することで、モータースポーツの振興にも一役買っている。
車両はマツダからの貸与で、安全にレースを楽しむための装備を除いて市販車と同様の状態。タイヤの空気圧以外は一切の調整・改造が不可という、厳格なイコールコンディションが保たれている。装備はCUSCO製のロールバー&ハーネスをはじめ、ビルシュタイン製ダンパー、ENDLESS製ブレーキパッド、BRIDE製バケットシート、Gulf製オイルなどが各社から提供されている。タイヤは初年度からブリヂストンがサポート。第31回大会からはロードスター・パーティレースⅢの指定タイヤ「POTENZA Adrenalin RE004」のワンメイクとなっている。
主なレギュレーションを列記すると、1チームは4名または5名で構成。メディア関係者を基本とし、それ以外は助っ人ドライバー扱いとなる。決勝はローリングスタートから4時間で争い、連続運転時間の上限は52分(合計は100分までで、助っ人認定者は42分の1回限り)。燃料は前述の通りでCNF(カーボンニュートラルフュエル)を今回初めて使用するが、満タン40リットルに加えて途中1回の20リットルの給油が許される。さらに前年の上位チームなどに対しては、決勝開始から30分以内に90秒から270秒のピットでの停車がハンディキャップとして課されることで、勝負を面白くする工夫も凝らされている。
なお、ブリヂストンはこの記事を掲載している「BRIDGESTONE Motorsport WEB」を媒体として第33回大会から参戦を開始。3年目の今回はPOTENZAの開発も担当しているプロドライバーの佐々木雅弘選手を監督に招聘。執行役員Global CTOの坂野真人、常務役員で製品開発管掌の草野亜希夫、グローバルモータースポーツオペレーション部門長の内田達也、実車試験第2課長の岩崎匡宏、PSタイヤモジュール設計第1課長の平石朋大という5名のドライバー編成で臨むことになった。
当日は9時25分から30分間の公開練習から、メディア対抗の走行が始まった。9時30分時点の気象状況は気温29.1℃・湿度75%・路面温度40.4℃で、路面はドライ。湿度はやや高いが、心配された雨の気配は感じられず、その状況は午後の公式予選まで続いた。その直前の正午は気温28.2℃・湿度75%・路面温度41.5℃と、コンディションの変動幅が小さいことが見て取れる。
サポートレースの決勝が2本終了した12時05分から、20分間の公式予選が始まった。各チームが気にしていたのがやはり、燃料がCNFになって動力性能や実際の燃費がどのくらい変化するかという問題。唯一それを知るマツダチームの関係者によれば、ハイオクガソリンに比べると若干パワーが落ちるものの、調整の範囲内でカバーできる程度で、その調整や車重増によって燃費が少し落ちることは考えられるということだった。
この改良型ロードスターでの耐久レースは当然初めて。昨年までのマシンと異なり、助手席も残された状態なので、100kgほど重くなっているとのこと。各チームとも練習走行と予選を通じて、消費燃料などできる限りの情報を集めて、その分析に注力していた。いずれにしても出場している20台は同じセッティングとなっているから、新しいイコールコンディションにどのチームがアジャストできるかの戦いでもあるのだ。
全チームがタイムアタックを終えた結果、1分11秒623のタイムでポールポジションを獲得したのは74号車「REVSPEED」の梅田 剛。現行ND型の導入を機にロードスター・パーティレースが「Ⅲ」となった2015年に、全国王者に輝いたドクターが5年連続での快挙を達成した。ちなみに昨年の第34回大会はウエットのため比較しにくく、一昨年の第33回大会は12月開催で、1分9秒751が梅田の記録したポールタイム。気象条件が異なるものの、やはり現状は一発の速さでは少し及ばない印象だ。
もうひとり、1分11秒971と11秒台で続いたのが500号車「FMドライバーズミーティング」の金井 亮。ちなみに金井は前回の予選でも2位となった実力者だ。さらに008号車「ベストカー×おと週」の大井貴之が1分12秒012で3番グリッドを獲得。以下、100号車「LOVE CARS TV」の木下隆之、最多優勝を誇る27号車「Tipo/Daytona」の橋本洋平、前回優勝の13号車「ENGINE」の島 拓海と続いて、ここまでが入賞圏内となる3列目までのグリッドで決勝をスタートする。
ちなみに参戦3年目となった71号車「BSMS WEB」は、実車実験第2課長の岩崎匡宏がアタックするも1分13秒223で14位に終わった。ウエットだった前回の予選では安達元気が6位と健闘したが、ドライ路面では2年前の初挑戦の時と同じ成績に逆戻り。ここは大いに反省してデータを持ち帰り、次回は再び入賞圏内の予選グリッドと決勝での上位入賞を目指したいところだ。
先ほども書いたように、今年からのレース車は公道走行も可能なパーティレース仕様車に準じることにしたため、助手席が残されている。これを活用して予選終了後の12時30分から30分間、この実際のレース車両への同乗体験試乗会が開催された。ほとんどのチームは出場ドライバーの誰かが担当したが、71号車のステアリングを握ったのは、モリゾウの師匠としても知られる佐々木監督。人気のプロドライバーはファンサービスを大切にしていることも知らされた。
また、Aパドック内には協賛企業のブースが出展されたほか、最近注目のeSPORTS体験コーナーも設置。ロードスター35周年記念のトークショーも開催されて、一般の来場者(入場無料)の方がレース観戦以外に楽しむコンテンツも目白押しだった。とくに好評だったのが、タイヤサービスの前に置かれたキッチンカーで提供された「ブリヂストン モータースポーツカフェ」。本イベント特価のワンコインから提供された本格的な味わいに、舌鼓を打った来場者も多かったはずだ。
そして15時10分からは全車がグリッドに整列を終えて、コース上で決勝スタート前セレモニーが始まった。マツダの毛籠勝弘社長が挨拶を行ったのち、前回優勝の「ENGINE」からの持ち回り優勝カップ返還を受け取り、代わりにレプリカを授与。ポールポジションを獲得した梅田が5大会連続の選手宣誓を行った後は、各チームの代表が紹介を兼ねて意気込みを語った。そして盲目のギタリスト、田川ヒロアキさんの国家独奏を経て、今回も恒例のローリングスタートを採用。16時07分19秒に、4時間先のチェッカーフラッグを目指してのバトルが始まった。
セレモニー中の15時30分に計測した気象条件は気温25.5℃・湿度78%・路面温度36.6℃。なお今回も、実力上位と見られる10チームのスタートドライバーには、実行委員会が決めたハンディキャップを30分以内に消化する義務が設定された。前回優勝の「ENGINE」には270秒、準優勝の「REVSPEED」に210秒、3位だった「CARトップ&WEB CT」に150秒。そのほか「CAR GRAPHIC」と「J-wave」に120秒、さらに6チームに90秒ずつというピットストップが課せられた。
今回の序盤は、各チームの戦略の違いがよく見えた。ポールの74号車や27号車がプッシュしてきた一方で、2番グリッドだった500号車はRACER KASHIMAが運転しているのに、あえてペースを落としている印象。さらにハンディを課せられた10チームのうち、100号車の「LOVECARS!TV!」などは1周でピットイン。混雑した状況で燃費を悪くすることを避けた作戦だろう。一方で70号車の「StartYourEngines」はギリギリまでコース上にとどまった。もし序盤にセーフティカーが導入されてピットに入れば、普通にレースしている状況よりロスが小さくなるからだ。
いずれにしても30分が経過し、先ほどの10チームがハンデを消化してコースに復帰した時点で、本当の戦いが始まるのは例年同様。もちろん、この時点ではノーハンデ組が上位を独占した。先頭は12号車「人馬一体」で、44号車の「CAR&DRIVER」と008号車「ベストカー×おと週」がそれに続いていた。今回は新型のレース仕様の開発とセッティングを業務として行ったため、唯一12号車だけがデータを持っていることは有利。マツダ関係者も「最大の優勝のチャンス」と認めて、自らを鼓舞していた。
またスタートしてしばらくの時点で、コースの一部で雨がパラついてきた。常時ワイパーを動かすほどではなく、路面にもこの時点では影響がなかったが、長丁場だけに気がかりな要素だった。1時間経過時点での首位は、早くもエースの大井貴之を2番目に乗車させた008号車。さらに44号車が5.879秒差で続き、88号車「carview!」と12号車も15秒以内で追走。そして今回は90秒という比較的軽いハンデだった27号車がトップと同一周回まで挽回して5位となり、71号車も6位と入賞圏内につけていた。
1時間20分が過ぎた頃、本格的に雨が降り出して、全車ワイパーがせわしなく動くようになった。その約30分後にはさらに雨脚が激しくなり、2時間8分が経過した時点で「ウエット宣言」が発令。これ以降はソフトトップを閉めた状態でのドライブも許されることになった。2時間経過時点でのトップは相変わらず008号車だが、88号車が0.940秒というテールtoノーズ状態で続き、44号車も6.373秒差で3位。依然としてノーハンデ組の3台がトップ3にいるが、27号車は4位で、210秒という重いハンデを克服した74号車も同一周回の8位まで挽回してきた。
ここで今回の決勝で特筆すべき一点をお知らせしておこう。こうして雨が降って滑りやすい路面になったにも関わらず、コースアウトしてのクラッシュなどが一度もなかったことだ。どうやら複数のチームが改良型に装備された「DSC-TRACK」をONにして、コントロールを乱した際にアシストを受けて立ち直ったらしい。これにウエット路面でも十分に機能する「POTENZA Adrenalin RE004」のパフォーマンスが加わって、一度もセーフティカーやFCYが導入されることがなかったのだ。
3時間経過後のトップも008号車。レース経験の少ない編集部2名がスタートと3番目の担当スティントをしっかりこなした後、ベテランの武井寛史が雨の中でもしっかりとリードを拡大。この時点での48秒差は少し突出している印象だった。一方で2位争いは大激戦になっていた。ハンデ組の74号車と27号車がダンゴ状態でバトル中。そして4位の45号車から44号車、88号車、12号車、8位の813号車までがトップと同一周回で最後の1時間の戦いに突入した。
コース上のアクシデントが少なかった今回だが、レギュレーション違反で後退を強いられたチームは多かった。この時点で4位走行中の45号車はスタート手順違反(フライング)でドライブスルーのペナルティを受けていたことが最後に響いてしまったかもしれない。また連続運転時間の超過でペナルティストップを課されたのが6チームもいて、実は71号車もそれを犯して順位を落としてしまい、3年目の挑戦を13位で終えている。耐久レースではこうしたミスが勝負を決めてしまうこともあるのだ。
勝負はまだわからなかった。ここから全チームがアンカーに乗り換えてチェッカーを目指したが、2位争いは依然として一触即発。残り30分の段階で74号車から813号車、45号車、27号車、44号車に12号車までが追走。しかも雨が少し弱まってきて、ここからラップタイムが一段と速くなってきた。もう燃料が尽きかけていたとしても、アクセルを緩めることは難しい。結局、74号車と27号車はピットには戻ったがチェッカーを受けることは叶わず、44号車はコース上でのストップにより失格になった。
つまり2位を争っていた6台のうち、3台だけが生き残ったのだが、戦える燃料が残っていたのは45号車の三宅陽大だけ。なんと彼はここから1分12秒659という決勝中の最速ラップも叩き出しながら008号車の追撃を開始した。
ところが、先頭をいく008号車の尾崎俊介はベストカーWEBで働いているが、昨年のスーパー耐久(ST-3クラス)のチャンピオンでもある。
最後は2.935秒という僅差に迫られたが、逃げ切ってチームに初優勝をもたらした。そして3位には最終盤に追い上げた88号車が浮上。4位には12号車、5位には813号車が共に少しペースを落としての完走で続いて、6位には777号車「ル・ボラン」が入賞した。
チェッカー後の表彰式の冒頭に、今回35回目を迎えた本大会は「最も長く続いている自動車のワンメイクレースシリーズ(英名:Longest running one-make automobile racing series)」としてギネス世界記録に認定された。
レース入賞チームへのトロフィー贈呈に加えて、様々な特別賞が贈られた。
1時間経過後のトップに与えられる「ブリッド賞」: ベストカー×おと週
2時間のトップに与えられる「エンドレス賞」: ベストカー×おと週
完走チームの中で最も順位を上げたチームに与えられる「クスコ賞」:予選12位から決勝では3位に入賞した carview!
予選ポールを獲得した「ブリヂストン賞」: レブスピード
優勝チームの大井貴之選手は、実は昨年を制した13号車から乗り換えての2年連続優勝だが、姉妹メディア「ベストモータリング」のドライバーとして第1回大会を制しているOBでもある。
「分母のないレースだから最後までわからなかったね。でも、いいクルマになったおかげで、35年目の奇跡が起こせました」とコメント。
アンカーの尾崎俊介選手は「先輩たちが燃料を残してくれたおかげで、楽しく走ることができました」と振り返った。
次回の第36回大会の開催予定は決まり次第、以下のイベント公式サイトにて掲載予定となります。
https://www.media4tai.com
レース配信はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=Jpe82r4Ocn0
MAZDA MOTOR SPORTS
https://www.mazda.com/ja/innovation/motorsports/
MAZDA ROADSTER NR-A
https://www.mazda.co.jp/cars/roadster/grade/nr-a/
メディア対抗ロードスター4時間耐久レース
https://www.mazda.co.jp/experience/event/media4tai/
BRIDGESTONE POTENZA Adrenalin RE004
https://tire.bridgestone.co.jp/potenza/re004/