SC導入で素早くピットインを決断した“ENGINE ROADSTER”が、5年ぶり3度目の王座に

【レースレポート】第34回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース

2023年9月9日(土曜日)、茨城県の筑波サーキットで「第34回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」が開催された。台風13号の接近が心配されたが、決勝は一度も雨に降られることもなく無事に終了。レース半ばにセーフティカー(SC)が導入された影響で、最後の最後までどこが勝つのかわからないドラマチックな展開となったが、13号車「ENGINE ROADSTER」の国沢光宏/大井貴之/鎌田卓麻/大田優希/村山雄哉が、5年ぶり3度目の優勝を果たした。
このレースは初代ロードスターがデビューした1989年から、雑誌やテレビ、ラジオ、インターネットなど媒体関係者のチーム対抗として行われている伝統の一戦だ。年に一度、業界の腕自慢たちがギネス世界記録を誇るベストセラーのオープンカーで真剣勝負を楽しみ、その模様を自らのメディアで発信することで、モータースポーツの振興にも一役買っている。
車両はマツダからの貸与で、安全にレースを楽しむための装備を除いて市販車と同様の状態。タイヤの空気圧以外は一切の調整・改造が不可という、厳格なイコールコンディションが保たれている。装備は万一の際にドライバーを守るロールバーをはじめ、ビルシュタイン製ダンパー、ENDLESS製ブレーキパッド、BRIDE製シート、CUSCO製ハーネスなどが各社から提供されている。タイヤは初年度からブリヂストンがサポート。第31回大会からはロードスター・パーティレースⅢの指定タイヤでもある「POTENZA Adrenalin RE004」のワンメイクとなっている。
また、本イベントは9月・第1土曜日の開催が恒例だったが、2020年以降はコロナの影響で紆余曲折があった。同年の第31回大会と2022年3月に延期された第32回大会は決勝を2.5時間に短縮。ドライバーはひとり減って最大4名まで、ガソリンは満タンの40リットルのみに変更された。ただし昨年12月3日にリスケされた第33回大会では、3年ぶりに決勝が4時間に復活。ドライバーも5名までとなり、途中1回の20リットルの給油も許された。つまりフルスペックでの開催に戻ったのだ。
そして迎えた第34回大会は9月の第2土曜日となる9日に設定されたが、フルスペックでの開催を継続。今回のエントリーは23チーム。前回はコロナの影響で参戦を断念した女性ジャーナリスト連合の3号車「ピンクパンサー」が復活してくれたのは嬉しいニュースだ。

●予選
9時20分から30分間の公開練習から、メディア対抗の走行が始まる。9時30分時点の気象状況は気温25.6℃・湿度95%・路面温度28.7℃で、路面はもちろんドライ。湿度は高いものの、まずまずのコンディションに恵まれた。各チームのいわゆる実力者たちが1分13秒台から12秒台へとタイムを削っていく中で、レベルの違いを見せつけた1台がいた。それが直近の3大会連続でポールポジションを獲得している74号車「REVSPEED」の梅田 剛。アタック2周目で1分11秒749を記録すると、次の周回では唯一の10秒台となる1分10秒863まで削り込むことに成功。2 番手の500号車「FMドライバーズミーティング」の金井亮忠ですら1分11秒933がベストなので、早くも1秒以上の大差が付いたことになる。今年も予選は、梅田の独り舞台となる予感に包まれた。ところが、当日は天気予報が大ハズレ。練習走行が終わった直後の10時くらいから雨が降り出し、さらに雨脚は強まる一方で、あっという間に筑波サーキットがフルウエット路面に変貌した。気温25.6℃・湿度95%・路面温度28.7℃という気象コンディションかつ、雨はほぼ止んでいる状態で、11時20分から20分間の公式予選が始まった。
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最初にモニター最上段に顔を見せたのは、前回優勝チームである27号車「Tipo/Daytona」の橋本洋平で、タイムは1分20秒740。実はこの20秒台で走ることが、かなり難しい状況だった様子だ。さらに先ほどの梅田が最初のアタックで1分19秒290を記録し、続けて1分18秒789まで削ってみせたが、この梅田以外のアタッカーはウエットの筑波に翻弄されていた印象が強い。やっと6分過ぎに13号車「ENGINE」の大井貴之が1分20秒559から20秒520、同じようなタイミングで500号車「FMドライバーズミーティング」の金井亮忠が1分20秒940から20秒207へと削り込む。
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さらに10分が経過しようとする頃、99号車「CARトップ&WEB CARTOP」の中谷明彦が1分20秒603をマーク。
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つまり上記5チーム以外は1分21秒以上という状態で、予選は後半戦に入っていった。
この膠着状態が崩れたのは、残り5分を切ったあたり。つまり実際にタイムが記録されたのは、16分経過時点ぐらいから。まず99号車の中谷が1分19秒783と、梅田以外で初めて20秒切りを達成すると、最後に19秒374まで縮めてみせた。ここで走行を続けていた梅田が1分18秒429まで削ったあと、最終アタックで1分17秒406というスーパーラップを披露。
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結局、梅田以外の上位ランカーたちは1分18秒台での戦いとなった。中でも突き抜けたのが500号車の金井で、残り2周を1分18秒947から18秒034まで刻んだのは天晴れ。堂々の2番グリッド獲得だ。これに45号車「ahead」の丸山 浩が1分18秒631、13号車の大井が1分18秒683で続いて2列目を獲得と思いきや、いずれもホワイトラインカットでベストラップ削除の判定。代わって009号車「くるまの話」の山中智瑛と、27号車の橋本が繰り上がった。そして5番グリッドは88号車「carview/みんカラ」の宇田川敦史が1分18秒951で獲得し、ここまでが18秒台。
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明らかに路面状況が改善された残り4〜5分の間に、連続して2周のアタックができたチームが最後にベスト更新という流れになった印象だ。
ポール獲得で「ブリヂストン賞」をゲットした梅田選手は
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「アタック2周目に18秒台が出たあと、いろいろ工夫したのですが、タイムが縮まらないので困っていました。でも最後にチャンスがくる可能性も踏まえて(クーリングなどで)準備できてたのはよかったです」とのこと。
実際、梅田のアタック3周目から5周目のタイムは1分19秒666→同19秒724→同19秒449。多くのチームが21秒を切れない状況の中で、少し次元の違う挑戦をしていた証拠だろう。
ちなみに参戦2年目となった71号車「ブリヂストンMS」は、実車実験部に所属する安達元気がアタック。ベストラップはもちろん最終14ラップ目の1分19秒241で、6番グリッドを獲得した。前回の予選が14位だったので、ここは2年目の成長を見せた部分かなと自負させていただこう。

●スタートセレモニーから決勝スタートへ
16時スタートの予定だった決勝レースだが、諸般の事情で15分のディレイが宣告された。ただ予選のあとは空模様も安定し、路面もドライに回復。この季節としては比較的過ごしやすい午後になったとも言えるだろう。16時現在のコンディションは気温29.5℃・湿度80%・路面温度35.6℃となっていた。コースインを先導したのはCNF(カーボンニュートラル燃料)で走るスーパー耐久参戦車両の♯12ロードスターで、ステアリングを握ったのはマツダの毛籠勝弘社長。
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全車がグリッドに整列を終えて、コース上で決勝スタート前セレモニーが始まった。毛籠社長は引き続いてセレモニー開催の挨拶を行い「このレースでもカーボンニュートラル燃料を投入したり、モータースポーツでも持続可能性を模索したい」とも発言された。その後、前回優勝の「Tipo/Daytona」からの持ち回り優勝カップ返還を受け取り、代わりにレプリカの授与までを担当した。
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このあと、ポールポジションを獲得した梅田が4大会連続の選手宣誓を行った。
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さらに各チームの代表が紹介を兼ねて、意気込みを語って、いよいよ戦いの時が近づいてきた。盲目のギタリスト・田川ヒロアキさんの国歌独奏を経て、今回も恒例のローリングスタートを採用。16時15分25秒に毛籠社長がスタートポディウムからマツダ社旗を振り下ろすとともに、4時間先のチェッカーフラッグを目指してのバトルが始まった。
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なお今回も、実力上位と見られる13チームのスタートドライバーには、実行委員会が決めたハンディキャップを30分以内に消化する義務が設定された。前回優勝の「Tipo/Daytona」には270秒、準優勝の「NHK×GT×」に210秒、さらに「carview/みんカラ」に150秒という決定。そのほか、前回3位の「人馬一体」と「ベストカー×おと週」「J-wave」に120秒、「REVSPEED」に90秒、さらに有力6チームに60秒というピットストップが課せられた。

●ノーハンデの5チームが序盤は上位独占
レースが落ち着きを見せはじめる1時間経過時点で、トップに立っていたのは99号車の「CARトップ」。
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スタートを務めた石田貴臣が見事な走りで中谷にバトンをタッチ。60号車「CAR GRAPHIC」も加藤哲也から久保 建というベテランのリレーで続き、100号車「LOVE CARS TV」も山本シンヤから河口まなぶ、777号車「ル・ボラン」も萩原 充から島下泰久と繋いで、ここまでが46ラップで同一周回。さらに5位に71号車「ブリヂストン」が続いており、序盤はノーハンデ組が上位を独占する展開なのは例年同様だ。
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その後、折り返しの2時間経過時点(上位4台が91ラップ)まで、大きなドラマは起きなかった。唯一残念だったのは64号車「Car Watch」に、ファンベルト切れという不幸なアクシデントが発生したこと。ピットに戻って修復が終わるまでに5ラップ以上のロスとなった模様だ。
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そして3人目のドライバーに助っ人の手塚裕弥を起用した60号車が85周目にトップまで浮上。
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99号車と100号車も同一周回で続いていたが、4位に今回は60秒ストップとなった13号車「ENGINE」が早くもラップダウンを解消して追い上げてきていた。
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と、それから1分ほど経過したところで、44号車「カーアンドドライバー」が最終コーナーでスピン。グラベルにはまって動けなくなった。その救出のため、先頭が93周目に入ったところからセーフティカー(SC)が導入されたことで、各チームは悩むことになった。連続運転時間が50分(助っ人の一部は40分)で(ひとりが2回以上乗った場合の)合計も96分までと決まっているため、この時点では2度目のドライバー交代を終えたばかりというのが大半。3度目のピットインをすぐにすると、あと1回のピットストップでは運転時間の上限を超過してしまうのだ。
ただし、SC導入中はペースが極端に遅くなるため、ピットインした際のロスタイムを節約できるメリットもある。そこで13号車が選んだのが、ピットストップを1回増やしても、このSC中に3度目のドライバー交代と給油を済ませてしまおうという作戦だった。
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一方で74号車は時間のかかる給油だけを済ませて、ドライバー交代をしないでコースに復帰させる方法を選んだ。いずれもピットインが1回増えることは承知の上での作戦変更だ。
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さらに99号車と100号車の2チームは、ピットインせずに走り続けることを選択した。99号車は中谷がもう1回乗車予定につき、合計運転時間を超過しないためにはこれがマスト。
100号車も同様で、すでに2回目の乗車中だった山本シンヤが、残り2回のピットインに余裕を持たせるため、そのまま引っ張る道を選択したものと思われる。
そして先頭が98周を走り終えるタイミングでSCがコースアウト。再びバトルが開始された。
その3周後、99号車と100号車がピットロードに向かうと、先頭には再び60号車が立ち、
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13号車がそれを追うという展開になった。60号車は助っ人2名を含む合計4名という構成のため、最初から5回のピットストップを予定していたが、13号車は前述のSC導入でプラス1のピットインを決断。つまり、まだ2回のピットストップを残しているため、まだ先がまったく読めない状況だった。したがって、3時間経過時点の順位はあくまで暫定的なものだと言える。
ようやくトップ争いの図が見えてきたのは、残り10分くらいになってから。5人目の大井が飛ばしに飛ばして貯金を作った13号車「ENGINE」は、初参戦の26歳・大田優希が必死に逃げ切りを図る。
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これに対して、4人目の梅田とアンカーの蘇武喜和がもの凄いペースで追い上げてきたのが74号車「REVSPEED」。
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約50秒あったギャップが、周回ごとにグングン詰まったが、大田が176周を走り終えた時点で4時間を40秒ほど経過していたためにチェッカーフラッグが振られた。
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その時、わずか5.798秒差の後方まで迫っていた74号車にも拍手を送りたい。
さらに、3位争いも激甚を極めていたが、先着した009号車「くるまの話」に衝突行為が認定されたために10秒加算のペナルティの判定で4位に降格。99号車「CARトップ」が3位に繰り上がった。以下、5位には60号車「CAR GRAPHIC」、6位には813号車「J-wave」で、ここまでが入賞となった。
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優勝チームに送られるPOTENZA賞は「ENGINE」
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予選トップタイムドライバーに贈られるブリヂストン賞は「梅田選手」
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また1時間経過後のトップに与えられるブリッド賞は「CARトップ」
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同じく2時間のトップに与えられるエンドレス賞は「CAR GRAPHIC」
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完走チームの中で最も順位を上げたチームに与えられるクスコ賞は「J-wave」
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優勝した13号車の村山雄哉は若干23歳。今年4月からという若手編集部員だが、ロードスターをすでに4台乗り継いでいるマニアでもある。筑波のコースは20分を2回走っただけで、JAF公認レースは初出場での快挙達成だ。
「弊誌主催のドライビングレッスンで腕を磨きました。初めてで怖かったけど、やはりレースは楽しいですね」と感想を語った。
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なお71号車「ブリヂストン」はチームメンバーは、監督に今季限りでSUPER GTを引退する立川祐路選手を迎え入れ
助っ人ドライバーとして全日本ジムカーナ選手権で5度のシリーズチャンピオンに輝いたユウ選手、
社員ドライバーとして、坂野真人(執行役Global CTO)、草野亜希夫(常務役員製品開発管掌)、宮下貴明(実車実験部)、安達元気(実車実験部)で挑戦した。
なんとか完走は出来たもののレース終盤、ドライバーの連続運転時間違反で120秒のペナルティストップ。さらにピット作業人数の違反でドライブスルーペナルティを受けて順位を大幅にダウンさせたのは痛恨の極み。大いに反省するとともに、もしチャンスをいただけるならば「3度目の正直で表彰台へ」という決意を表明させていただく。


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今大会の模様は、YouTubeチャンネル「Mazda Official Web」にて無料でライブ配信された。
MCは中島秀之さん、解説はロードスター・パーティレースで連戦連勝を誇った加藤彰彬さん、ピットレポートは自動車ジャーナリストの伊藤 梓さんがそれぞれ担当。
アーカイブは以下のURLで視聴することができるので、ぜひ一度ご覧いただきたい。
https://www.youtube.com/live/b6llOxWxoRg


次回の第35回大会は2024年9月21日(土曜日)に、ここ筑波サーキットでの開催が予定されている。