BRIDGESTONE F1活動14年の軌跡
  • ブリヂストンのF1チャレンジはこうしてはじまった
  • ブリヂストンF1スタッフ歴戦の記憶
  • 内外の関係者が語る、F1活動の意義 F1参戦がもたらしたもの
  • 参戦年表
  • テクノロジー&レギュレーション
  

ブリヂストン全社のDNAを
F1は社内外に向かって雄弁に物語った

現:(株)アクシス 代表取締役社長 / 当時:(株)ブリヂストン 広報宣伝部 宣伝課 課長

谷 研次

社外に対してはブリヂストンのブランド価値を高めていくためのツールとして、そして社内に対してはブリヂストンの社員がひとつになるためのツールとして、F1活動を活用してきたのが、F1参戦当時に宣伝課の課長を務めていた、谷 研次氏である。当時のエピソードを振り返るとともに、F1を宣伝に活用したことの成果について語っていただいた。




ブリヂストンは「ものづくりに真摯に取り組み、そこで生まれた技術でさまざまな製品をつくりだす会社」であると考えています。使う人に喜んでもらえるものをつくるための技術ということにかけては「どこにも負けないぞ」というプライドがあるのです。
それは、タイヤはもちろんのこと化工品やスポーツ用品、自転車と、ブリヂストングループのすべてに共通し、ライバルメーカーとブリヂストンを差異化するものであるとも思います。世界最高峰の自動車レースであるF1で使われるタイヤは、まさにブリヂストンの技術の粋が集められた究極の「商品」であり、ブリヂストンの商品開発に対する姿勢、企業としてのDNAを雄弁に物語るものでもあります。
ブリヂストンが「これから世界に打って出る」という1990年代後半のタイミングで始まったF1参戦。日本国内のみならず、海外においても唯一無二の存在となるために、これを利用しない手はないと思いましたね。


F1のイメージを活用したブリヂストンのキャンペーンや広告は、世界の多くの方にご覧頂いているかと思います。しかし、実は写真の使い方からロゴマークに至るまで、細やかに規定が決まっており、F1に参戦しているというだけではそのすべてを利用することはできないのです。そのうえ、国によって訴求するイメージがバラバラであれば、せっかく全世界的に統一的なイメージを発信することのできるツールでもある「F1」を活かしきれなくなる恐れもあります。
そこで、ブリヂストンとしてまずはF1を活用し、世界に向けて共通のメッセージを発信していくためのしくみをきちんと整備するところから始めました。
日本の中だけでコミュニケーションをしているときには、言わなくてもなんとなくわかってしまう部分がありますが、ものづくりにかける情熱や哲学といったものを世界に広めていくために、表現の方法もしっかりとマニュアル化するということを行ったのです。
世界的なハンバーガーチェーンのように、「どこの国のお店に行っても同じ味のものが、注文を受けてから何秒以内に、笑顔とともに出てくる」といった共通のイメージが保たれているようなもの......と申し上げればわかりやすいでしょうか。
まだデジタル化されていない時代に、何百枚にもなるレースの写真を海外から取り寄せ、きちんと整理して企業活動に使えるようにするなど、非常に骨の折れる作業もありましたが、ブリヂストンが既に知名度の高かった日本国内のみならず、世界においても「ブランド」を確立していくためのマニュアルづくりの技術は、ここで磨かれる部分も多かったですね。

F1のイメージを活用したキャンペーンや販促物といった、社外に対するアプローチだけでなく、ブリヂストンで一丸となってF1活動を盛り上げていけるよう、社内に対してF1活動に貫かれる精神を広めるということも、重要な仕事でした。
F1活動は、ブリヂストンのものづくりに対する姿勢を象徴するものなのですから、最前線はもちろんのこと、全社的に盛り上がって応援していくような空気をつくっていくことも大事だと考えました。
そのために「技術センターのスタッフ100人くらいに出てきてもらって広告に出演してもらう」といったことから、「F1の結果を社内報にして配る」「ブリヂストン装着チームが勝ったら垂れ幕を作る」「鈴鹿サーキットまで応援に行く」といった地道なことまで色々と試みました。こうして社員が一丸となってひとつの活動を推進するというのは、想像する以上に意義のあるものです。
社員として働いていると、自分たちの会社の強みに対して鈍感になっていってしまうこともありますが、ブリヂストンに関しては意識的であれ、無意識的であれ、そういうこともなかったように思いますね。


14年間続いたブリヂストンのF1参戦は、一度ここで幕を閉じます。個人的にとても寂しい想いがあります。しかし、F1に代表されるスピードやダイナミズムは、どんなに時代が変わっていったとしても、自動車の根源的な魅力であり続けますし、決して過去のものになるわけではありません。
いま、自動車はCO2の排出量を削減するという観点から、ハイブリッドカーや電気自動車へのシフトも進んでいます。でも、それがゆっくりと緩やかなスピードで走るものばかりかというと、そうではありません。たとえばヨーロッパのメーカーがつくるモデルを見ると、スポーツカーがずらりと並んでいることからも、世界中で「速さ」が依然として人の心を捉え続けていることが、わかる気がしますよね。極限の世界では技術が磨かれていきますし、市販タイヤの安全性や耐久性といった部分にも大いに活かされていくはずです。
それは、自動車の根源的な魅力とともに、社内外の人々の心に刻まれたブリヂストンの商品開発に対する姿勢、企業としてのDNA。
ブリヂストンのF1活動によって得たものはきっと、これからも末永く、会社にとっての宝となり続けるのではないでしょうか。

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F1をブランディングに活用するためのマニュアル。F1に関する表現の方法をしっかりと規定することで、ものづくりにかける情熱や哲学を世界に広めていくことを狙ったものだ。

ブリヂストンがF1で手にした勝利を目に見える形で残すためのピンバッジ。1997年のオーストラリアGPから、すべての勝利にひとつずつ制作されている。

新聞広告

1998年、最終戦日本GPでマクラーレンとミカ・ハッキネン選手が、コンストラクターズチャンピオンとドライバーズチャンピオンを獲得したことを祝し、新聞広告を掲載した。タイトルは「ありがとう」。"ここから旅立っていったブリヂストンのタイヤが、マクラーレンの'98 F1チャンピオンという栄光をのせて帰ってきました。"という見出しで、"いまは、ありがとう、のひと言しかありません。"というブリヂストン・テクニカルセンターのスタッフの気持ちを、彼らの笑顔いっぱいの写真とともにファンのみなさまへ届けるための広告だった。