まずはドライビングシミュレータで練習を積み重ね、その経験をもとに実車走行に臨む。そんなハイブリッドなプログラムを、ブリヂストンが運営する「Bridgestone eMotorsport Institute(ブリヂストン イーモータースポーツ インスティテュート)」が開催しました。
東京・麻布のブリヂストングローバル研修センターにおいてドライビングシミュレータによる講習を行ったのち、実車走行の舞台となったのは千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイです。
「Bridgestone eMotorsport Institute」は、ドライビングシミュレータを使用しながら、プロドライバーの講師から直接指導を受けられるレッスンプログラム。インドアでどなたでも気軽に受講でき、モータースポーツのドライビング技術の向上を目指すことができます。
レッスンでは、ドライビングシミュレータを用いて、参加者のサーキットでの運転スキルをチェックします。この結果をもとに、講師がそれぞれの参加者に合わせた指導やアドバイスをきめ細かく行っていくのが特徴です。
今回は、「オーバーステアプログラム」と「袖ケ浦フォレストレースウェイ克服プログラム」を用意。ライビングシミュレータによる講習でも、各プログラムに合わせて特別なレッスンが実施されました。
オーバーステアプログラムは、クルマの挙動を自在に操れるようタイヤをスライドさせる技術を習得することを目的としています。参加者はサーキット走行未経験という方がほとんどで、事前にドライビングシミュレータを使い、講師のアドバイスのもと、定常円旋回を繰り返し練習。ブレーキングでの荷重移動、さらにハンドリング操作やアクセルのタイミングなどのレッスンを行いました。
■楽しく上達する雰囲気づくりに配慮した実車走行体験
ドライビングシミュレータでの反復練習を経て、いよいよ実車走行にチャレンジしますが、まずは「オーバーステアプログラム」の様子をレポートしましょう。
実車走行は、ラジオパーソナリティ、DJとして活躍しながら、モータースポーツに積極的に関わっていることでも知られるピストン西沢さんによって、レッスン内容がプロデュースされました。
袖ケ浦フォレストレースウェイのパーキングスペースを利用して、直径17〜20mの定常円をふたつレイアウト。さらに散水車によってウェット路面とし、スライドさせながら旋回しやすいよう配慮されました。参加者が所有するクルマでトライできますが、レンタルカーとして用意したトヨタ GR86とマツダ ロードスターを使用して受講することも可能となっています。
講師は、スーパー耐久シリーズでチャンピオンを獲得し、ドライビングレッスン講師としても活躍している高橋 滋 選手と、レーシングカートやF3、スーパー耐久シリーズなど各カテゴリーのレースに参戦してきた富澤 勝 選手。さらに、ピストン西沢さんが進行役を務めました。
実車走行は、講師が運転する助手席での同乗体験からスタート。高橋選手と富澤選手による、ハーフスピンやカウンターステアなどの定常円旋回に必要な動作を、ひとりずつ助手席で体験します。これに続いて、講師を助手席に乗せて同じ操作に挑戦。そして、いよいよひとりでクルマに乗り込み、定常円旋回レッスンに挑みます。
車内にトランシーバーを積んで、講師からの説明を耳にしながら約2分ずつ繰り返し練習します。今回はGR86を富澤選手、ロードスターを高橋選手が担当し、ひとりひとりの走りをチェック。ドライビングシミュレータでのレッスンさながらに、個人のスキルに合わせて、走行しながらアドバイスを受けられるのが特徴です。
ピストン西沢さんは、進行役を務めつつ、順番を待つ参加者とともに走行をチェックしながら、定常円旋回のコツを解説。目線の置き方やタイヤのグリップが大切であること、路面状況の変化による操作の注意点など、日常走行においても参考になる事例を交えながら分かりやすくアドバイス。待ち時間も楽しめるレッスンとなりました。
さらにピストン西沢さんは、レッスンを終えたばかりの参加者にマイクを向けるなど、親しげに話しかけながら場を盛り上げます。単独で参加していた方がほとんどですが、そんなフレンドリーな進行により、上手に走行したドライバーに拍手が沸き起こったり、お互いの走りを撮影し合うなど、その場に一体感が生まれていきました。
このほかレンタル車両での参加者は、GR86とロードスターを交互に運転し、車両特性による挙動の違いにも対応できるよう配慮。また、目覚ましくスキルアップした参加者には、反対回りの旋回もしてみるよう促すなど、技術向上を目指して時間の許す限りレッスンを続けました。
最後は、もう一度同乗走行。2つの定常円旋回を組み合わせた8の字のコースを作り、講師たちのドライビングを助手席で体験しました。この同乗走行にはドライバーとしてピストン西沢さんも飛び入り参加。コーナーへの進入スピードやスムーズなハンドリングなど、プロの走りに参加者も改めて驚いていました。
このレッスンをプロデュースしたピストン西沢さんにうかがうと、「とにかく楽しめるように」気を配ったとのこと。「参加者のみなさんとレッスンを見ているときには、その様子を言葉にして、エンタメ性を持たせながら必要な情報を伝えました。そうすると耳に入りやすいんです。学ぶというと、どうしても堅苦しくなってしまいます。緊張がほぐれるように工夫しました」とピストン西沢さん。
定常円旋回は人気のレッスンで、日常の運転でも大切なことだそう。タイヤのグリップの限界を超えたときになにが起こるのかを体験しながら、さらにコントロールする技術を身につけることでリスクを回避する。それをドライビングシミュレータで安全に学んでから実車でリアルを体験することは、スキルアップの近道とのこと。今後も、シミュレータとリアルを組み合わせたプログラムを続けていきたいと話してくれました。
■ドライビングシミュレータの経験がリアルに活かせた!
さらに、この特別プログラムを体験した参加者の感想を紹介します。
【石川さん】
本来は自家用車で参加の予定だったのですが、ピストン西沢さんのすすめがあってレンタル車両へ変更しました。実車走行レッスンでは、まずスライドするまでのクルマの姿勢のつくり方をレクチャーしてもらいました。ドライビングシミュレータでも実車でもステアリングの操作やアクセルの開け方は同じですね。シミュレータレッスンがあったおかげで、すんなりと理解が進みました。定常円も連続で回れるように上達しましたし、雨や雪など、不安定な路面での起こり得る挙動を体感できたのも良かったですね。丁寧な操作を心がけることが大切だと実感しました。
【日髙さん】
実車でのレッスンでは、より楽しさを感じました。Gがかかった状態での旋回やコーナー進入時の加速感などを体感できました。カウンターステアの操作は実車で行ったことはないので、事前にドライビングシミュレータで練習できたことが今回のレッスンに生きました。まず最初に同乗走行で講師から具体的な操作のコツを教えてもらえたのが良かったと思います。また、実際にレースに参戦されている方たちの話は奥が深く、クルマやタイヤの知識も得られましたし、満足度の高いレッスンでした。モータースポーツの世界も体験してみたいという気持ちになりました。
■レッスンを担当したインストラクターもスキルアップを実感
レッスンの講師を務めた高橋選手と富澤選手にも感想をうかがいました。
【高橋 滋 選手】
ドライビングシミュレータは自身でもしばしば使用するのですが、実車での挙動に近くとても練習になります。今回の実車走行においては、ドライビングシミュレータを使った運転の予習がよくできているなと感じました。みなさんが今までにやったことがないアクセルワークやステアリング操作だったと思いますが、すぐにできるようになっていましたね。定常円旋回は、一般道での運転にも大きく関わる技術なんです。例えば雨や雪でクルマが滑った際に、どうすればいいか頭で考えていたら遅い。まず身体が反応することが大切です。今回のようなレッスンを一度受けるだけでも、とっさの動作が身体に染みつきますから、ぜひ受講してほしいですね。
【富澤 勝 選手】
たった半日のレッスンでしたが、上達幅がとても大きいことに驚きました。普段はあまりクルマに乗らないという方が多かったのに、少しのアドバイスでテールスライドができてしまう。事前にシドライビングミュレータのレッスンを受けていたからこそと思いました。また、指摘に対して、すぐその場で修正に挑戦する方が多かったですね。これもシミュレータレッスンで、その場でアドバイスを受けていたからかもしれません。ブレーキの戻し方やステアリングの切り方など、アドバイスに対して瞬時に反応でき、技術の吸収も早い。リアルタイムでアドバイスができる効果を実感し、もっとみなさんの技術を伸ばしたくなりました。