
2025年シーズン、ブリヂストンが投入した最新スペックのPOTENZA RE-10Dは、ドライバーからのフィードバックをもとに、予選での“もうひと押し”を狙った設計思想が貫かれています。
安定したロング性能とウエットでの競争力を維持しながら、一発のピークグリップをどのように引き上げていったのか。
開発ドライバーの佐々木雅弘選手と、設計担当の渡辺が語る開発の背景と手応えをご紹介します。
佐々木選手らドライバーの声を受けて、今季のタイヤ開発では「予選での一発の速さ」を高めることをテーマに、これまでの決勝での安定性を損なうことなく、さらなる性能を引き出す設計が追求されました。
「これまでも決勝のロングでのタイムは、常に安定した速さを見せていて、特にウエットでは圧倒的な競争力がありました。ただ、唯一さらに改善したいと感じていたのが、予選での一発のタイム。そこを底上げするようなタイヤをお願いしていました。
とはいえ、ただ単純にコンパウンドを柔らかくするだけでは、ロングの安定性や路面との相性が崩れてしまう。ですので、決勝でのパフォーマンスを落とさずに、予選の一発を引き上げる。そういう方向でテストを重ねてきました」と佐々木選手。
この要望を受けて、開発担当の渡辺は、設計の方向性を根本から見直しました。
「今回の大きな変更点はコンパウンドです。ピークグリップをしっかり出せるよう配合を見直し、それに合わせてタイヤ構造を最適化しました。接地性を高め、グリップを確実に路面に伝える――そのバランスが非常に重要だと考えています。
また、グリップ性能を支える構造の強度や接地の仕方、さらにはドライバーが反応を感じ取りやすい“フィーリング”まで含めた“トータルバランス”も重視しました。サイドの構成や内部の造りが接地性に影響するため、各種の指標をもとに構造を検討し、試行錯誤を重ねました」
開幕からこれまでのレースで、佐々木選手はバージョンアップされたRE-10Dに手応えを感じていました。
「予選で速さを出すためには、路面状況や走行タイミングなど、さまざまな要素を見極める必要があります。RE-10Dは、それらの要素によって変化する路面に対して、タイヤがどのように反応するかといった挙動の傾向が掴みやすく、内圧をしっかり管理すれば、ドライバーのセッティングにしっかり応えてくれます。
“足りない部分”を詰めていく必要はあるものの、広くデータを見ていくと、昨年と比べて“ネガティブな部分”は確実に減ってきています。特に高速コーナーの立ち上がりでは明らかにアドバンテージがありますし、手応えもあります。一方で、低速コーナーではまだ多少改善の余地があると感じています」
これまでのレースを踏まえて、開発担当の渡辺は、現状の評価と今後の展望についてこう話しています。
「開幕戦と第3戦での堤選手のポールポジション獲得をはじめ、他の選手の好結果が証明するように、一発のタイムがしっかり出せていることは、開発段階で狙っていた性能がきちんと結果につながったという点で非常に嬉しく思っています。
また、ドライバーの皆さんからも『ピークのグリップがしっかり感じられるようになった』というコメントをいただいています。設計として伝えたかった思想や狙いが、実際のフィーリングとして伝わっていると実感できるのは、開発者として何よりの成果です。
一方で、タイヤに込めた設計上の特性や意図、そしてそれを最大限に活かすための使い方については、チームやドライバーの皆さんと丁寧に共有していく必要があると感じています。
これから迎える夏場のレースでも、RE-10Dはしっかりとピークグリップを発揮できるように仕上げています。ロングスティントの性能も昨年から確実に進化していますから、予選での一発のタイム、決勝での安定性、そのどちらにおいても高いレベルで貢献できるタイヤになっていると思います」
予選での速さと決勝での安定性――その両立を目指してアップデートされたRE-10Dは、実戦のなかで着実に成果を見せています。
夏本番を迎え、タイヤへの負荷が一層高まるこれからのレースでは、ドライバーと設計陣の緻密なやり取りを積み重ねて磨き上げてきたRE-10Dの進化が、いよいよ真価を問われることになります。
GR86/BRZ Cupを戦うブリヂストンドライバーたちの走りに、ぜひ注目してください。