著者:山田 弘樹 写真提供:ビースポーツ事務局

ロードスター・パーティレース合同テスト 佐々木雅弘選手ドライビング講座 

4月4日(日)、岡山国際サーキットでロードスターパーティーレースの参加者を対象とした合同テストが開催されました。
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このグラスルーツレースに2002年から現在までPOTENZAのスポーツタイヤを供給し続けているブリヂストンは、参加者のみなさんのさらなるスキルアップのため、特にタイヤの使い方をより深く知ってもらうことを目的に、開発ドライバーである佐々木雅弘選手を講師として派遣しました。その根底にあるのは、ブリヂストンがマツダ「ロードスター」というスポーツカーが“走る楽しさ”を提供していることに共感していること。また、このロードスターで競い合うパーティレースが、モータースポーツの魅力を、多くの人々に伝えているという事実です。そんなレースに参加する皆さんに、装着タイヤとなる「POTENZA Adrenalin RE004」の特性や使い方を正しく理解することによって、タイヤが持つ魅力を、もっともっと知って頂きたいと思っているのです。
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というわけでここからは、当日開催された佐々木選手による講義の模様を見て行くことにしましょう。今回は合同テストに参加できなかった方々のために特別企画にも挑戦してみました。具体的には1名の参加者に協力を頂いて、1回目の走行をデータロガーでロギング。その走りを佐々木選手が自身のデータと見比べながら解析することで、2回目の走行でタイムアップを目指すというものです。今回比較したデータと佐々木選手の車載映像は、このレポート内で確認することができます。今後はこうした企画をブラッシュアップさせて、参加者の皆さんが楽しみながらスキルアップできるコンテンツを充実させていきたいと思います。

■佐々木選手によるコース攻略と「POTENZA Adrenalin RE004」のレクチャー
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まず走行に先駆けて、佐々木選手によるコース攻略と「POTENZA Adrenalin RE004」のレクチャーが行なわれました。折しも当日は天候がわるく、厳しいウェット路面に。ここで佐々木選手は極めて実践的な講義を行ないました。
佐々木選手は「まずみなさんに学んでほしいのは、タイヤの“美味しい”使い方です。たぶん皆さんは速く走るために『タイヤを潰す』ということばかりに注目しているんじゃないかと思います」。
「しかしある程度上達してくると、タイヤが潰れてから『起きていく』過程で最大のグリップが発揮されていることに気づきます。ブレーキングでタイヤを潰したあと、タイヤの変形が戻って行くときに一番“美味しい”(すなわちグリップする)ところがある。そこを使ってクルマを止めて、ターンインするんです」。
「さらに言うとコーナーではタイヤのグリップを使い切らず、脱出に残しておくイメージを持つとよいですね。ロードスターはコーナリングが速いクルマなので、コーナリングで頑張らないことをイメージしにくいかもしれません」。
「しかし立ち上がりで100%グリップを使い切るイメージを持つと、クルマは手前から早くアクセルが踏めるようになるんです。それがブリヂストンのいう『縦方向のグリップを使う』ということなんですね」と言います。ただ単にタイヤを潰すのではなく、タイヤの最大グリップが発生するポイントを考えながら走る。タイヤの縦グリップを意識することで、手前からアクセルが踏めるようになる。岡山国際サーキットでいうと、アトウッドコーナーの立ち上がりがその好例。「その後に長いストレートが続くこともあり、これを実戦するだけで楽にタイムアップできる」と、佐々木選手は言います。
さらにコーナーで頑張らない理由についても、佐々木選手は明確な答えを示してくれました。
「コーナーで頑張ってしまいスライドが起きると、タイヤの表面温度が一気に上がってしまうんです。その熱が冷めないまま次のコーナーを迎えれば、さらには温度が上がってゴムが性能を発揮しづらくなる。これから夏になっていくほどに、その傾向は強くなって行きます」。こうした部分も意識しながら走ると、決勝レースでも安定して速く走れるはずだとアドバイスしてくれました。
そして「ただし予選は別です。タイヤの一番美味しいところは、やっぱり1周から2周。ドライだと特にそのピークが明確にあります。これを感じ取って、自分のピークと合わせて走らせることが予選では大切になります」と付け加えてくれました。


■タイヤの内圧を調整する
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佐々木選手は、こうしたタイヤの“美味しい使い方”をする上でタイヤの内圧調整が大切だと言います。
「そのためには、タイヤの“よれ”を感じ取ることが大切です。タイヤの“よれ”には、内圧とゴムのグリップ力、そしてケース剛性(※1)が大きく関係しています。そしてこの内圧を調整してケースをしっかりさせると“よれ”が少なくなり、操作からタイヤが反応するまでのタイムラグを短くすることができます」。
「ボクはこのパーティレースに参加した経験がないので正確な数値は分かりませんが、かなり高めになるかな……と思います。タイヤの内圧が高いとグリップしなくなると思いがちですが、ゴムがしっかり路面を捕らえていれば、速さは引き出せる」。
「大切なのは数値ではなく、ケース剛性とゴムのバランスを合わせること。また、ドライバーの技量によっても扱いやすさは変わってくるので、自分の運転しやすさとタイヤのレスポンスを調整しながら、テクニックを向上させていくことが大切です」。

※1 カーカス、サイドウォール、ビードなどで構成され、内圧を保持しているタイヤの骨格部分を「ケース」と呼びます。これを断面で見たとき、その変形度合いを「ケース剛性」が高い、低いと表現します。


■ウェット路面の内圧
折しも今回はかなりのウェット路面となりましたが、佐々木選手はこうした難しいコンディションでの内圧管理についても言及しました。
「たとえばボクがやっている86レースだと、ウェット内圧という考え方があります。それは簡単に言うと、ドライよりもさらに空気圧を高めに設定する調整方法です。タイヤの内圧を通常より高めることで、トレッドを面ではなく点で接地させ、ゴムを動かすようにする。そうするとゴムが発熱して、かなり手応えが出ます」。
「空気圧を落としてタイヤを柔らかく使った方がいいんじゃないか? という人もいるのですが、実際にデータも取れているので、内圧はドライ時よりも高めていった方がグリップしやすいと思います。ロードスターはテストをしていないので何kPaとは言えませんが、これも今日の走行で試してみたいですね」。

■ウェット路面の走り方
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そしてウェット路面の走り方、タイヤの暖め方にも具体的なアドバイスをしてくれました。
「今回のような路面で走るときは、まず光っていないところを走る。光っているところは水たまりなんです。水たまりのないところを走れば、ゴムも早く暖まってくれます。こうした路面はグリップ力も高いので、ブレーキングも安定するし、トラクションもかかります」。
「あとロードスターはFRなので、比較的リアタイヤが暖まりやすいのですが、おっかなびっくり走っていると、フロントが暖まらないと思います。そんなときは安全を確かめた上で、いつもより手前から思い切りブレーキングをします。ABSが効くほどブレーキングして構いません。そうすることでタイヤが潰れて、路面にこすれ、いち早くタイヤの温度が上がって、手応えが出るようになってきます。ウェービングでタイヤを暖めると状況によってはスピンにもつながるので、まずはこの方法を試してからがよいとボクは思います」。
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■走行第1回目
レクチャーを終えて、1回目の走行が始まりました。参加台数は全部で18台。ここで佐々木選手は、今回の生徒である岡田 衛(おかだ・まもる)さんのロードスターにデータロガーを装着し、岡田選手が走行した後に、わずかな時間を使って自らもコースインしました。そしてわずか1周のアタックで記録したタイムは、なんと2分13秒839。当然ながらそれは、今回のトップタイムとなりました。対して生徒役となる岡田さんのタイムは、2分20秒637となりました。ただし初めての岡山国際サーキットであることや、初めての雨での走行、予想外の雨量でウィンドウが曇ってしまったこと、アタックを始めた2周目に1コーナーでコースアウトを喫してしまったことなどを考えると、本人的には「まだまだこれからだったのに!」という状況だったはずです。
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さてこうした厳しい状況の中で、たった1周のアタックラップを佐々木選手がどのようにまとめたかは、非常に興味深いところでしょう。また、岡田選手のデータからも参加者のみなさんが参考になる要素がたくさん抽出されたので、次からはさっそく佐々木選手のレクチャーを交えながら、そのログデータを見て行くことにしましょう。
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赤線・・・岡田選手
黒線・・・佐々木選手


■意外にも、詰め過ぎていたブレーキング
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グラフを見比べてまず佐々木選手が述べたのは、2人のブレーキングの違いでした。意外にもタイムを出している佐々木選手の方が、遙かにブレーキ踏力が弱く、早めにブレーキを終えてコーナーへと進入していたのです。
「2人の一番の違いはブレーキの液圧(つまり踏力)です。ボクの場合はここで、ABSを効かせないように走らせています。そうすることでタイヤのグリップを最大限に使って、クルマを止めているんです。対する岡田さんは、ドライの路面と同じイメージでブレーキングしているのだと思います。およそボクの倍くらいの踏力ですね」。
「ブレーキはただ強く踏めばよいというものではなくて、タイヤと路面の様子を感じ取って踏むことが大切です。そうしないとタイヤのグリップを、ブレーキパッドの制動力が追い越してしまうんです。ABSはタイヤをロックさせないようにブレーキ圧を減圧させる方向で働くので、今回のようなコンディションだと、制動距離はかえって長くなります。また、そのままコーナーに進入してしまうとリアの挙動が不安定になります」。
「現状ロードスターに装着されているブレーキパッドが、ちょっと効きすぎてしまう傾向もあって、初期踏力を上げすぎない方が今回の路面にはよいのだと思います」。
今回のようなコンディションでは「ABSを効かせないようにして、路面にタイヤを食い込ませることが大切」だと佐々木選手はレクチャーします。通常、ABSを効かせることは制動距離を縮めることへの最短距離だと思われがちですが、路面コンディションとクルマのバランスに応じて運転させることが、一番大切だと言うのです。ABSを効かさないようにしてタイヤを回すことで、ウェット路面でもタイヤを発熱させてグリップ力を上げていく。今では常識となってしまったワザとのことですが、佐々木選手のとっておきのノウハウとのことです。これは、まさにタイヤを感じ取りながら運転することに他なりません。このブレーキング以外にもコーナー立ち上がりのアクセルの踏み方やタイミングを、スロットル開度を見ながら指摘。コース1周を見比べる形で、コース攻略を兼ねながら詳しい解説が行なわれました。

■1本目の佐々木選手車載動画(岡田選手の車両を佐々木選手が運転)


■第2回目走行
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そして2回目の走行で岡田さんは、このアドバイスをもとに2分18秒719をマーク! 実に最初の走行から1秒918ものタイムアップを果たしました。また、今回参加した皆さんのブレーキングポイントも、明らかに制動ポイントに違いが現れており、2回目の走行ではタイムアップだけではなく、コースアウトする車両が1台もありませんでした。
今回のレクチャーに対して岡田さんは、「2回目の走行は電子制御を切って走ってみたのですが、雨の方も激しくなってしまって、1回目よりもオーバーステアが強い状況でした。それでちょっとビビってしまったんですが(笑)、そんな中でもタイムアップをしたので驚きました」。
「そのベストが出た周も、他のクルマと交錯していたときだったので、クリアが取れていたらもっと出てたかな! と思うんですが(笑)。でも、とにかく全然無理していないのに帰って来たらタイムが出てました」と感想を述べてくれました。
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一方で佐々木選手は、スクールカーを使ってアタックを行ないました。そのタイムは走るほどにベストを更新していき、最終的には2分12秒138をマーク! ちなみにその空気圧は1回目の390kPaから、420kPaまで引き上げられていました。しかし佐々木選手は、ただ空気圧を高めたから速く走れたわけではありません。点接地を使い、タイヤの温度を高める過程において、その内圧が高いほどタイヤの反応はシャープになります。こうした挙動に対しても、佐々木選手は余裕を持って反応できるから速く走れます。そして、こうした内圧設定が可能となるのです。
「教えるという運転からタイムを出すという運転に変わっていったとき、こうしたセッティングが必要になります。それでも一番大切なのは、落ち着いて、コースアウトすることもなく、カウンターをいかに少なくしてロスなく走るかなんです。そしてタイヤと路面の関係を感じ取ることだとボクは思います」

■2本目佐々木選手ベストラップ車載動画(MAZDA様所有 ロードスターNR-A パーティレース仕様を佐々木選手が運転)



今回はかなりヘビーなウェットコンディションとなりましたが、それでも18台全ての参加者が無事に走り切り、ドライコンディションでは得がたい講習を佐々木選手から受けることができました。今後もブリヂストンではこうしたドライビング講習を積極的に行ない、パーティレースに参加するエントラントの方々と一緒に、モータースポーツ活動を行なっていきたいと思います。
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