• 開催場所:ニュルブルクリンク(ドイツ)
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ADAC Qualification Race (QFレース)


 本番の24時間レースを5週間後に控えた5月18〜19日、ニュルブルクリンクのフルコースを使用して24時間レースに向けての最終調整となる予選レースが開催された。このレースで結果を残せば、24時間レースのトップ予選へ無条件で進めることができるため、ニュル耐久シリーズ(VLN)で結果を残せていないチームは真剣であるし、車両のチェックを確認するためにも大事なイベントとなる。

 予選レースは6時間で行われ、101台の車両がエントリーした。ブリヂストンユーザーはTOYOTA GAZOO RacingのレクサスLC(SP-PROクラス)で土屋武士、蒲生尚弥、松井孝充、中山雄一の4名が乗り込んだ。タイヤは330/40 R18サイズのドライタイヤ3種類、ウェットタイヤ3種類を持ち込んだ。
 18日に行われた予選1回目はドライコンディションで30位。予選2回目はウェットコンディションとなり30位。トップ30予選はウェットコンディションながら雨量が減り24位だった。
 19日の決勝6時間レースは99台が出走。雨は上がっていたものの路面は濡れており、ウェットタイヤでのスタートとなった。しかし路面は急速に乾き始め、1周目でピットインしてドライタイヤに交換し34位まで後退。しかしその後は順調に周回し順位を24位に戻してチェッカーとなった。この予選レースでは、ドライ/ウェット両タイヤの性能を確認することができ、大きな収穫となった。

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ADAC TOTAL 24h Race (ニュルブルクリンク24時間耐久レース)


 今年で47回目の開催となるニュルブルクリンク24時間レース(通称:ニュル24時間)。かつては”世界一の草レース”と呼ばれ、さまざまな参加者たちが思い思いのクルマを持ち込み、プロアマが一緒くたになって楽しむものだった。それが21世紀に入ったころからドイツのメーカーが力を入れ始め、さらには2010年からはFIA-GT3車両をトップクラス(SP9-GT3クラス)に設定して以降は、ドイツ以外の英国や日本のGT3マシンも参加するなどヒートアップ。毎年150台前後の車両がエントリーする中、30台前後のGT3マシンによるメーカーの威信をかけたバトルが演じられるようになった。
 2007年にチームGAZOOが2台のアルテッツァでニュルに初挑戦した。それは当初、”クルマが持つ本当の魅力と楽しさを伝えたい”というテーマであったが、2009年には未発表だったレクサスLFAを、世界中の路面コンディションがそろうと言われるニュルのノルトシュライフェ(北周回路)に投入。プロドライバーと開発ドライバー、さらにレース経験のないメーカーのメカニックらで組んだチームで、レースが人を鍛え、クルマを鍛えるというチャレンジを始めた。
 そのGAZOO Racingのスタイルに共感したのがブリヂストンだ。もともとニュルブルクリンクはブリヂストンのスポーツタイヤであるRE71の開発を行ったコース。GAZOO Racingと共にレーシングタイヤの開発を行うと共に、若い技術者を派遣して新しい人材を鍛え上げるようになった。
 そして今年、ブリヂストンのタイヤを履くのは、GAZOO RacingのレクサスLC。市販車をベースにしたレーシングカーで、さまざまな改良&開発を担った試験車両であり、FIA-GT3車両のようなピュアなレーシングカーではない。この1台のために持ち込んだタイヤは110セット(450本)。乾いた路面をしっかりグリップするために表面に溝が刻まれていないドライ用スリックタイヤ、路面の雨を排水するためにしっかり溝が刻まれたレインタイヤ、それぞれに柔らかさの異なるソフト/ミディアム/ハードというコンパウンドを準備。路面状況がフリープラクティスから予選、決勝を通じて同じだったとしても走りきれるように対応した結果だ。
 またブリヂストンからは、10名ほどが現地へ赴き、現地のコーディネーター・フィッターと共にサポートを行った。この中には設計の部署から3月に異動となりこのニュル24時間、SUPER GT等の運営にも携わる20代の若手、乗用車のタイヤ設計からアメリカ勤務を経て昨年よりSUPER GTやニュル24時間を担当する30代前半の開発者もいて、世界一過酷な耐久レースのひとつで”人を育てる”ことを実践している。

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レースウィークは、車検の行われた火曜日の6月18日に始まった。さらに19日にはドライバーの受付やヘルメットやスーツ等の所持品検査などをこなし、記念撮影も実施。そして木曜の20日から走行が開始された。
 ニュルブルクリンクはドイツ北西部、ベルギーとの国境に近い山間にあり、天候の変化が著しい。また一周20kmのノルトシュライフェは標高差300mもあり、コーナーの数も200近くあるというまるで箱根周辺の公道のようなコースながら、平均速度は非常に高い。そしてコースの大きな特徴は天候が変わりやすいということ。ピットのあるグランプリコースは晴れていても、ノルトシュライフェでは雨が降っていることも珍しくもない。今年もレースウィーク最初のセッションである20日午後のフリー走行では、開始1時間で雷雨に見舞われセッションは途中で中断&終了となった。溝のないスリックタイヤでコースインした車両は、コースにとどまるのがやっとという雨量だった。
 しかし雷雨はすぐに去り、20時半から日付が変わる直前まで行われた予選1回目は、ドライ路面に。GAZOO RacingのレクサスLCは、4名のドライバーが基準タイムをクリアすることを優先し9分14秒186で54位という結果だった。21日午後の予選2回目はドライ路面でトップ予選に残るためにアタックをかけたが、8分34秒549と及ばず35位だった。

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 気温25℃、爽やかな風が吹く15時30分に24時間レースのスタートが切られた。レスサスLCは蒲生が36番グリッドからスターターを務め、松井、中山、土屋とつなぎ、じわじわと順位を上げていき、スタートから7時間後、ようやくあたりが闇に包まれた22時30分の時点で28位へ。しかし23時に松井がピットインして中山に交代しようとした時点でトランスミッションにトラブルを抱えていることが判明。ここでチームは2時間をかけてミッション交換に踏み切った。
 メカニックたちの正確な作業の甲斐あってマシンは修復された。順位は111位まで転落したが後はトラブルなく追い上げるだけだ。日付が変わり未明には2桁まで順位を回復。昼を回って総合64位まで追い上げた。しかし残り4時間でまたもやミッションがおかしいという報告があり、ピットで車両をチェックした。トラブルはクラッチにあり、エア抜きを10分で済ませてマシンは再びコースへ。その後は快調に周回を重ね、最後は松井が54位(クラス1位)でチェッカーを受けた。(レース後の車検で911号車が失格となったため53位に繰り上げ。)
 今年は6月の開催ということで例年に比べ気温や路面温度が高く、さらに昨年からフロントタイヤのサイズが変更されたが、ニュルブルクリンクでの走行機会は限られていた。そのような状況の中、この新たに開発されたタイヤがパフォーマンスを発揮できたことは大きな収穫であり、また膨大なデータが取れたことで、また開発が一歩先へ進むことになった。ニュルブルクリンクは今年も人を育てタイヤも育ててくれた。

レース結果

コース: