BRIDGESTONE F1活動14年の軌跡
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07年~ 2度目のワンメイク、目指したのは

最強のライバルであったミシュランがF1を去り、7年ぶりのワンメイク供給となった2007年シーズン。
ブリヂストンが目指したのは、元ミシュラン・ユーザーに対して"公平性"を確保すること。
その"公平性"は、シーズン終盤まで元ミシュラン・ユーザーであったマクラーレンとブリヂストン陣営だったフェラーリが、
激しいタイトル争いを展開したことで証明されたのだ。

1度目よりも、ハイレベルな供給体制を目指す

2008年シーズンからのタイヤをワンメイク化する......FIAがそう発表したことを契機にミシュランがF1を去り、そして迎えたブリヂストンにとって2度目のワンメイク供給。前回のワンメイクから7年という年月が経過していたことで、すべてのレベルが上がっていたと浜島は述懐する。

「我々のシミュレーション技術はもちろんですが、各レーシングチームの技術レベルも7年前に比べると遥かに向上していました。その結果として、チームがタイヤやそのデータに要求するレベルも高くなるし、我々が提供するサービスのクオリティも上がっていく。それが、1回目のワンメイクとは大きく異なるポイントでした」

7年という時間がもたらした、F1全体の進化。その高いレベルを維持するために、ブリヂストンはミシュランとのコンペティション時代以上ともいえる体制の強化を行う。国内スタッフの増強、海外採用のエンジニアの充当......。「サポートするすべてのチームに、フェアで、なおかつ高いクオリティのサービスを提供するために全力を尽したのが、2007年からのワンメイクの大きなテーマでした」と浜島は言う。

さらにサポート体制の整備は、F1の現場を担う部隊と日本で開発を行う部隊との連携の仕方にも及んだという。

「それまで現場部隊にはレースのオペレーションを担当している部分と、R&D(リサーチ・アンド・ディベロップメント/研究開発)を担当する部分がありました。しかしワンメイクとなったことで、その両方を担っていると、とても研究開発の部分が対応しきれない。先ほどお話したように、第一のテーマは"公平性を保つこと"でしたから、そのサービス体制を確保することを優先しなければならなかったわけです。そこで研究開発については、日本のテクニカルセンター(東京・小平市)で担当してもらうことにしました」

戦いの最前線部隊と、後方支援部隊を分けた体制作り。その準備を整えたことが、"公平性を保つ"という目標を掲げたブリヂストン2度目のワンメイク供給にとっては、大きな意味をもつことになる。

最高傑作よりも優先された"公平性"

当時トヨタF1チームに在籍していた、パスカル・バセロンが「すべてのチームが夢見たタイヤ」と絶賛した、2006年のタイヤ。最高傑作とも呼べるそのタイヤを、ブリヂストンは2007年シーズンに向けては封印し、まったく新しいタイヤを開発する。

「『えっ、やめちゃうの?』とおっしゃるチームもありました」と浜島は苦笑する。

ブリヂストンが用意したのは、まったく新しい構造1種類、そしてハード、ミディアム、ソフト、スーパーソフトの4種類のコンパウンドだ。サイズは前年と同じだが、中身はまったくの新設計である。

そこに、全チームを公平にサポートする、というブリヂストンの覚悟が現れていた。

2006年に投入したタイヤに使われていた技術には、これからの市販車用タイヤに転用できると見込まれたものが多かったという。その側面も含め、浜島らエンジニアからすれば「使いたかった」という本音もあった。しかし、それでは公平性が保てない。

「だって、前年のノウハウを持っているユーザーが有利になってしまうじゃないですか」

元ミシュラン・ユーザーがアンフェアと感じないサポートをするために、思い切った転換が図られたわけだ。しかし、それでも元ミシュラン・ユーザーからは散々言われたのだという。

「ミシュランのタイヤはもっとグリップした」

そんな言葉を聞かされるたびに、ブリヂストンのエンジニアたちは説明して回った。「それはミシュランとブリヂストンの違いではなく、ワンメイクになったからですよ」と。つまり前年まではタイヤメーカー同士がコンペティションをしていたわけだから、より"攻めた"タイヤになっていく。それがワンメイクとなったのだから、性能は異なって当然なのだ。

1年目で証明されたブリヂストンの姿勢

2007年シーズンのタイヤを供給するのはブリヂストンだけだが、戦うチームは11チーム。当然、マシン特性は異なっており、チームからはタイヤに対する注文が入る。例えば当時タイヤにやさしいクルマといわれていたフェラーリは、「もっと柔らかくしてほしい」という。一方、タイヤに厳しいクルマを持つチームからは「もう少し硬く」という要望が入る。しかしブリヂストンは一貫して「我々が選んだスペックを使っていただきます」という姿勢を貫いた。それは"すべてのチームに対してフェアである"ということの現れであった。

そんなブリヂストンの姿勢は、シーズン序盤から早くも結果となって現れる。開幕戦オーストラリアGPで優勝したのは、前年までミシュラン・ユーザーで、この年からフェラーリに移籍してきたキミ・ライコネンだ。続く第2戦マレーシアGPを制したのは、やはり前年までミシュラン・ユーザーであったマクラーレンのフェルナンド・アロンソ。このレースではファステストラップもマクラーレンのルイス・ハミルトンが記録している。

結局、元ミシュラン・ユーザーとか、従来からのブリヂストン・ユーザーであるということに関係なく、シーズン終盤までフェラーリとマクラーレンによる激しいタイトル争いが展開された。そのことを浜島は何よりも喜ぶ。

「2007年で良かったのは、最後までチャンピオン候補がたくさんいたことです。マクラーレンの2人(ハミルトンとアロンソ)とフェラーリの2人(ライコネンとマッサ)ですね。そして最終的には、わずか1ポイントという僅差でライコネン選手がタイトルを獲得した。これはつまり、この年の最大のテーマであった"公平性"が確保されたからの結果ですよね」

全チーム、全ドライバーがタイヤというファクターについては同じ条件で戦ったからこそ、最終戦までタイトル争いがもつれ、エキサイティングなシーズンとなった。ブリヂストンは、見事にワンメイク供給初年度に掲げた目標を達成したのである。

ワンメイクでもバトルを創出できる!

それは、この年のオーバーテイク・シーンとして、非常に象徴的な場面であった。第6戦カナダGPで佐藤琢磨が演じて見せたオーバーテイクだ。

佐藤が所属するのはスーパーアグリ。前年、開幕直前にF1参戦を表明し、資金不足などから苦しい戦いを続けながらも、最終戦ブラジルGPでトップ10フィニッシュ。そして迎えた参戦2年目となる2007年シーズンは、開幕戦で佐藤が予選Q3に進出して見せるなど、調子を上げつつあった。

カナダGPにブリヂストンが持ち込んだスペックは、ソフトとスーパーソフト。ほとんどのチームは、耐摩耗性の高いソフトでスタートし、スーパーソフトは終盤に温存する戦略を取る。しかしレースはセーフティカーが4度も投入される荒れた展開。ソフトタイヤでスタートした佐藤は、セーフティカー走行中にスーパーソフトを使用し、レース終盤に再びソフトタイヤに戻すのだ。これが功を奏し、スーパーソフトでグリップダウンに苦しむ車を次々とオーバーテイク。最後には前年チャンピオンのアロンソをも抜き去り、6位入賞を果たすのだ。

このスーパーアグリの、そして佐藤の戦いを見たブリヂストンのエンジニアたちは、「ワンメイクでもタイヤの使い方が、戦略や結果に大きく影響する」ということを再認識するのである。

ワンメイク時代、タイヤエンジニアに求められたもの

公平性を保つ......言葉にするのは簡単ではあるが、実際の苦労はとても一言では語れないものであったことは想像に難くない。では、実際にどうだったのか......2010年までテクニカル・マネージャーを務めた小林徹郎は「チームとの信頼関係を守る中で、ブリヂストンの方針を貫くことが難しかった」と語る。

「エンジニアはそれぞれF1チームを担当しています。当然、チームのエンジニアと技術的なコミュニケーションを行っていきますから、その中で私たちの中にも"自分のチーム"という認識が生まれ、それがチームとの信頼関係の強化にもつながっていくわけです。しかしそうすると、ときにチームから、ブリヂストンが指定した使用条件の許容範囲を多少超えた相談をしてくることがあるのです。しかし、それを認めると"公平性"という、我々が掲げた方針から外れてしまう。チームとは徹底的に話し、公平性の維持に努めました」

自分のチームという認識が生まれる......しかし、その一方でブリヂストンとして掲げた目標の遵守......「想い」と「責務」のせめぎ合いを抱きながらレースを戦っていたタイヤエンジニアに求められた資質とは何か? 小林の話からは、何よりも冷静でいられる精神的な強さのように思える。

「すべてのチームが同じスペックのタイヤを使っているわけですが、それでも磨耗や耐久性といったタイヤに対する影響力はチームごとに異なり、結果として速さも違ってきます。そのためタイヤエンジニアは、使用済みタイヤの観察とチェック、マシンのセッティング状況などを考察し、より理想的なタイヤの使用状況達成はどういうものであるかを検証しなければなりません。そして、その観点からチームと技術的なディスカッションができること、それが求められる資質ではないでしょうか。さらに言えば、タイヤのことから一歩踏み込んで、マシンのセッティングに対する提言までできればいいと思います」

ときにチームと一体となりながら、そしてもちろんブリヂストンのタイヤエンジニアとしての誇りを持って戦った小林たち。彼らの真摯な姿勢があったからこそ、ブリヂストン2度目のワンメイク供給は、ハイレベルなクオリティを保ったサービスができたと言えるのではないだろうか。

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