GR86/BRZ Cupは「参加型モータースポーツ」という位置づけでありながら、プロフェッショナルシリーズには国内トップドライバーが多数参戦し、予選・決勝ともに、プロドライバー同士のハイレベルな戦いが毎戦のように繰り広げられる、日本で最も熱いワンメイクレースです。
基本的にレースは、土曜日に予選、日曜に決勝が行われる2デイ開催ですが、ほとんどのチームの始動は、週の中日、水曜日からはじまります。
今回は、現在2025年シリーズランキング2位(第5大会終了時点)の#88 井口卓人選手が代表を務めるTeam Takuty(チーム・タクティ)のレースウィークを紹介します。

Team Takutyは3台編成で、各車両それぞれにチーフメカニック1名が担当し、全体をチーフエンジニアの佐野氏が統括します。メカニックは各車にディーラーメカニックが2名ずつ(87号車=千葉スバル、88号車=東京スバル、89号車=栃木スバル)配置され、さらに全国のスバルディーラーから各車に1名ずつ派遣されています。千葉、東京、栃木それぞれのディーラー側のマネージャーが各車両毎にディーラーメカニックを統括します。毎戦メカニックの顔ぶれは入れ替わりますが、チーム全体としてはマネージャーを含めて約20名の大所帯となります。3ディーラー体制ということもあってスタッフの数は多く、プロクラスの中でも存在感のあるチームです。


レース開催のない期間は、3台のBRZはそれぞれのスバルディーラーでイベント等のプロモーション活動に使われることもありますが、レース前になるとメンテナンスガレージに集められ、基本整備を受けます。サーキットが初めてというディーラーメカニックもいるため、メンテナンスガレージでアライメントの取り方やミッションの載せ替えなどを通じてマシンに触れてもらい、現場でスムーズに作業できるよう研修を行っています。そのうえで各車をサーキットへ搬送します。


チームは水曜日にサーキットへ移動して、パドックでテントや機材等の設営を行い、木曜日からの走行に向けて準備を進めます。ドライバーは通常、水曜日の夜にホテルへ入り、木曜日から合流しますが、フライトや天候、サーキットの走行枠などによっては前倒しで入り、水曜日の枠で走行を行う場合もあります。翌日以降が雨予報であれば、たとえば1台走るだけでもドライでの空気圧等の基準出しができるなど3台体制のメリットを活かして柔軟に対応しています。


木曜日のサーキットは、「誰でも走行することができる一般走行枠」が設けられているのが通例で、チームはここを車両状態の確認、空気圧(内圧)の基準づくり、ブレーキの焼き入れといった確認用途に充てます。一般枠はさまざまな車両やドライバーの混走になるため、トラフィックの影響が大きく、本来のペースをつかみにくいということもあり、ここで周回を積み上げることはしません。


各セッション後、ドライバーはチーフメカニックと車両の状態を共有し、チーフメカニックがディーラーメカニックとともに調整を進めます。金曜日はプロクラスの専有走行が設定され、ここで予選に向けた“ニュータイヤの一発”または決勝に向けたロングのいずれかを試します。また、サーキットによって枠設定は異なりますが、専有走行枠以外にプロクラス限定の走行枠があれば必ず走行します。また、金曜日には事前車検・装備品検査(現物・書類)も行われ、チーム全体が徐々に“レース本番”の空気へと変わっていきます。


予選日になると観客が来場し、会場はさらに熱気を帯びてきます。タイヤマーキングとドライバーズブリーフィングを経て、チームは最終調整に入ります。


トップドライバーが揃い、しかもワンメイクということで車両差が出にくいため、予選タイムは必然的に僅差になります。タイヤの内圧管理が非常に重要になってくるため、予選出走前集合ギリギリのタイミングまでタイヤは装着しません。また、アタックもウェットでない限り、条件の良い瞬間を狙って短い時間帯に集中するため、15分前後の計測時間中もピットには独特な張り詰めた空気が流れます。Team Takutyは路面の変化を最後まで見極めつつ、トラフィックと黄旗やコンディション変化等のリスクを避けるために他車よりも少し早めにコースインし、アタックを開始します。こうした判断が、井口選手の安定した上位進出につながっています。予選後は上位3名のドライバーが記者会見に臨み(2025年シーズン第3戦SUGOから導入)、マシンは車両保管となり、翌日の解除まで厳正に保管されます。


決勝日は、車両保管が解除されると、メカニックは決勝までの限られた時間のなかでマシンの最終点検とセットアップを施します。必要に応じて、タイヤのローテーションを行うこともあります。華やかなグリッドウォークの最中も、メカニックは路面温度の変化と空気圧を最後まで確認します。


マシンはフォーメーションラップを経て再びグリッドに整列し、レッドシグナルがブラックアウトした瞬間、これまでの準備が熱い走りへと結実していきます。その先は、もうチームとしてできることはなく、すべてをドライバーに託すことになるのです。


国内屈指のワンメイクレースで繰り広げられる超ハイレベルな熱戦は、ドライバーの高い技量はもちろん、チームが一丸となって積み上げてきた努力によって支えられています。
























