前編では、ユウ選手の12年間のジムカーナ競技人生を振り返りました。ここで聞き手の山野選手の興味は、ジムカーナに出会う前や、ご家族とのこと、はては彼女のことまで、ジムカーナとは関係ない話題に広がりながら、ユウ選手の素顔に迫っていきます。
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2017年待望の全日本チャンピオンを獲得


山野選手(以下、山野):ジムカーナの前に、やっていたいろんなスポーツの話が聞きたいんだけど、その前に、どこかのジムカーナ会場でスケボーか何かを持ってきていたことない?
ユウ(以下、ユウ):キックボードじゃないですかね?スケボーもたまに持っていくんですが、頻度でいうと圧倒的にキックボードが多いので。
山野:そうか、キックボードかもしれない。どちらか忘れたけど、ボードに乗っている姿を見て、この人は運動神経の塊だなって思ったことがあったんだよね。体のバネみたいなものを持ちつつ、道具を操ることに対して、自分の体の一部のように扱っているっていう印象を受けたので「こいつは来るかもしれん!」って思ったことがあったんだよ。DC2に乗ってた頃だった。
ユウ:へぇ、本当ですか?DC2の頃だとしたら、キックボードですね。
山野:そうか、じゃぁキックボードだね。ユウのキックボードの扱いを見て、この人はちょっと普通の人じゃないなっていう印象を受けたんだけど、そのルーツは、さっきも言ってたマウンテンバイクやスキーで、両方とも体を使い、道具を使うスポーツだよね?特にスキーの滑るとか、板に乗って操るって感覚はモータースポーツに似てると思うんだけど、その競技っていつごろからやってたの?
ユウ選手:アルペンスキーもマウンテンバイクも小学校4年生、10歳くらいからですね。

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アルペンスキーをするユウ選手


山野:それは、どういうきっかけで始めたの?
ユウ:本格的な競技として始めたのは両方とも10歳ですけど、ゲレンデスキーを含めるとスキーの方がキャリアは長くて、山好きの父に1歳からゲレンデに連れていかれてました。なので、ゲレンデスキーは、歩き始めた頃から自然に滑ってましたね。それが10歳くらいになると、ゲレンデに飽きてしまって、その頃にゲレンデで目に留まったのがアルペンスキーだったんです。レーシングチームが練習しているのを見て、やってみたいと思ったのがちょうど10歳の時でした。一方のマウンテンバイクはというと、これも父の山好きの影響なんですが、確か八ヶ岳だったと思うんですけど、家族で連れて行ってもらった時に、マウンテンバイクをトレイルに持ち込んで走っている人を見かけて、面白そうだなって思い、スポーツ用品店で子供用のマウンテンバイクを買ってもらったのが最初です。
山野:そのマウンテンバイクやスキーの競技で、優勝経験とかはあるの?
ユウ:マウンテンバイクはジュニアという18歳以下の大会で全日本チャンピオンになって、世界戦にも日本代表で行ったことがあります。その世界戦では、もう何位だったかも忘れてしまうくらいボロボロでした。世界の壁が厚かったですね。

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マウンテンバイク世界戦に出場したユウ選手


山野:すごいじゃない。ジュニアとは言え、全日本チャンピオンにはなってるってことだもんね。そういう意味では、小さいころから競技に出るってことを、学校の体育や運動会では無く別の場所で本格的な競技を経験してたってことだもんね?スキーやマウンテンバイクをやらせてくれたのは、お父さんなの?
ユウ:そうですね。両親も全面的に、私の競技に掛かりきりになっていましたね。金曜日に学校から帰って来ると、私が車に荷物を詰め込んでおいて、父が深夜に仕事から帰って来るとそのまま車を運転して移動。当時の家の車はワンボックスカーだったんですけど、後ろを半分荷物室、半分ベッドみたいな状態にしていて、荷物を積み終えた私が、そのベッドで寝ていると、土曜の朝に起きる頃には試合会場に着いているっていう生活でしたね。中学校のころからずっと、そんな生活でした。

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当時乗っていたワンボックスカー

山野:すごいね、お父さん。それは両親に感謝しなければいけないね。
ユウ:本当にそこは感謝と尊敬はしますね。私が父親になったとき、同じことが子供にできるかな?って思いますもん。
山野:もう、いつ父親になってもおかしくない年齢だけど、同じことをしようと思ったらできるかな?けっこう大変かもしれないね。
ユウ:そうですね。自分もそういう年齢に達しているので、いま想像すると体力的にも金銭的にもすごく大変だったんじゃないかな?って思います。それから両親以外にも、いまクルマではニュートンランドにお世話になってますけど、それと同じように当時は自転車のショップの店員さんに、機材面ではいつも助けてもらって、人生において、すごく助けてくれる人が、いつも現れるので本当にありがたいなぁと思っています。
山野:それはユウのパーソナリティのなせるワザで、この人を助けてあげたいって思う人がでてくるってことも、本人の実力のうちなんだよね。そういう意味では、キャラクターも含めてユウの実力だと思う。それにしても、そうやって認めてくれる、助けてくれる人がいる場所を転々としてきているのは、すごいことだよね。今の状況で言うと、ブリヂストンもユウのことをきっとそう思ってるよね。お父さんがユウへ接するのと同じ気持ちで接してるんだよ。放っておけない、こいつの才能を誰かが活かしてやらなきゃって思ってくれるんだと思うよ。
ユウ:ありがとうございます。
山野:ちなみにタイヤという意味では、ブリヂストンのタイヤに出会ったのはニュートンランドがあったから?
ユウ:そうですね。ニュートンランドの佐藤社長に、どんなコンディションでもスイートスポットが広い、色々なコンディション、路面でパフォーマンスが常に高いのはブリヂストンだから間違いないよって勧められて使い始めました。競技を始めてからも、それは本当だなと実感したので、使っていたというかんじですね。
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ニュートンランド佐藤社長と和美さんと

山野:それは、ユウもそうだけど、みんなも気づいているところかもね。どこかひとつの特徴が飛びぬけているのではなく、どこに行っても通用する、どんなコンディションでもトータルで安心っていうことだよね。
ユウ:はい。それは私も実感しますし、周りのドライバーからも良く聞く評価ですよね。
山野:生活面に話を戻したいんだけど、お父さんが苦労して競技に参加させてくれたという話だったけど、お母さんはどうだったの?ココナッツを揚げたお菓子を食べさせてくれたとか(笑)
ユウ:正にそうですね。母、本人が言うには、料理は基本的に不得意らしいんですね。でも、スイーツは見た目はともかく味は美味しいなと私も思っていて、昔からケーキだったりジャムだったりを作って、競技で私がお世話になっている人に配ってくれるということをやってくれていて、本当は私が感謝を表すべきところを、代わってやってくれていましたね。試合会場での潤滑油というか、家族の中での対外コミュニケーションを担当してくれていたんです。そのお陰で、私が競技に打ち込めたので、環境づくりという意味では子供のころから、欠かせない存在だったかも知れません。今、クルマの競技でも、同じようにやってくれていて、山野さんがココナッツを揚げたお菓子が好きだと聞けば、それを作ってくれるんですよね。
山野:ありがとうございます。私もいつも美味しくいただいております。ココナッツ揚げたの大好きなんですけど、ユウのお母さんしか作ってくれないんですよ。ところで兄弟はいるのかな?
ユウ:いいえ、一人っ子ですね。
山野:ということは愛情を100%受けて、これまで育ってきたていうことなんだね。
ユウ:愛情もそうなんですが、金銭的にもたぶん、100%と言わず、両親の老後資金まで食いつぶして、120%とか150%とか、注がれて育っていると思います。
山野:ああ、そうなんだ。それは、いつか返してあげないといけないね。
ユウ:まぁ、親が老後に困ったら私が頑張らなきゃいけないですね。
山野:車は全体的に好きだって聞いているんだけど。どんな車が好きなんだろう?
ユウ:もちろん速い車も好きですけど、山好きな父の好みの影響も大きいですね。例えば、むかし私がすごく小さい頃にジムニーに乗っていたんですが、そのジムニーで林道に分け入っていくのが本当に楽しかったのを覚えてますし、自分も年をとったらクロカン四駆も乗りたいなと思ったりします。
山野:面白いね。お父さんは、かなりアクティブだったんだね。 ユウ:そうですね。アクティブでしたね。でも、ちょっと山に偏りすぎなきらいもあるんです。私もその影響を受けていて、球技とかが全然ダメなんですよ。
山野:球技?
ユウ:そうです。よく「子供のころ、お父さんとキャッチボールした」とか言いますけど、そういう風に遊んでもらった記憶がほとんど無くて、家で遊ぶと言ったらジャングルジムをよじ登るって感じだったんですよ。
山野:そうなんだ?今のユウも球技は得意じゃないの?
ユウ:それが全然ダメなんです。父が実際に球技をどうか?は知りませんが、私自身が本当に球技はダメですね。
山野:意外だね。あれだけ器用にキックボードを操っているように見えるし、サッカーとかも得意そうに見えるんだけど、それは意外です。
ユウ:実は全然ダメですね。運動神経って2つの要素に分けて得意不得意があると思っていて、正確に反復動作をするっていう要素と、バランスをとるっていう要素に分けられると思うんですけど、反復動作の方は本当にダメですね。バランスをとるっていうところは、平均より上だっていう自信があるんですが、反復動作はダメですね。実はここにつながる小さい頃のエピソードがありまして、小学校に入る時の身体検査まで、私の目が悪いことに親が気づいていなかったんですね。その時で既に視力が0.2くらいで「この子、まったく見えてませんよ」と言われ、親としては、スキーもバンバン滑っているし、目を悪くさせないためにテレビゲームを一切やらせないっていう育て方をしてたらしいので、まさか目が悪いなんて!?って感じで衝撃を受けたみたいです。でも実際は見えていなくて、視覚情報ではなく、どちらかというと三半規管で生きてたんだと思います。
山野:三半規管で生きてた?(笑)それは、新しいね。
ユウ:そうです。スキーにしても、コブを見て視覚情報から予想して反応するんじゃなく、コブに差し掛かって体が揺さぶられる、その揺さぶられたというパッシブな情報から立て直すという身体の使い方を小さいときからしてたんで、三半規管でGを感じ取る能力が鍛えられたんだろうなと思います。もしかしたら、運転でも良い影響がでているのかも、と感じることはあります。
山野:なるほどね。ということはパターン化というのが得意じゃないとすると、ゴルフとかはどうですか?やったことあるかな?
ユウ:ゴルフは誘われてやったことがありますけど、てんでダメでしたね。これは球技だなって痛感しました。
山野:ゴルフは型にはめたほうがうまくいくんだよね。
ユウ:あれも正確な反復動作を必要とするじゃないですか?
山野:そしたら、今後はユウをゴルフに誘いましょう。ユウのカッコイイ姿を見慣れている人が多いと思うので、ユウのカッコ良くない姿を見てみましょう。
ユウ:(苦笑)

山野:話を車の話に戻しますが、一般道の運転も好き?
ユウ:好きですね。
山野:それはドライブに行く感じかな?それとも運転そのものを楽しむ感じ?事前の情報では、道志みちが好きだって書いてあるんですけど。
ユウ:最近はご無沙汰ですけど、昔はよく通ってましたね。
山野:ちなみに尊敬するドライバーに山野哲也と谷口信輝さんの名前が書いてありますけど。その理由はなんですか?
ユウ:まず、お断りしておくと基本的に他人に対する興味が薄くて、レーシングドライバーの方をほとんど存じ上げないっていうのはあるんです。ただ、ほとんど今活躍されてるレーシングドライバーの方たちって小さいころからフォーミュラやカートを経験してレーシングドライバーになってると思うんですが、そうではない人、カートやフォーミュラを経験せずハコ車から、ステップアップしていったすごい人達の代表として山野さんや谷口さんをかっこいいなと思って見ています。
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山野選手との2ショット

山野:確かに、カート、フォーミュラ未経験者は一桁パーセントだから、谷口、山野っていうのはそうかもね。ところで話は変わりますが、彼女はいるの?
ユウ:彼女はいませんね。クルマですね。
山野:クルマが彼女ね?なるほご、それはさぞかし彼女もうれしいんじゃないの?
ユウ:どうですかね?こいつ扱いが荒いんじゃない?って思われてると思いますね。
山野:それでは話を競技に戻しますね。
山野:なぜ86/BRZレースに挑戦しようと思ったの?
ユウ:86/BRZレースはとても盛り上がっていて、箱車レースの猛者達が沢山集まっている状況ですよね。なのでレースってどんなものかを知ったり、走り方を学んだり、力試しをしたりといった事をするのに良いフィールドだと思ったからです。またジムカーナで86を使っていたことで、86への理解も少しありましたので、このクルマでレースしたら楽しいだろうな!と思っていたのも大きいですね。
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86/BRZ Raceに参戦したマシン

山野:実際にやってみてどうだった?なにか考え方が変わったか?
ユウ:まず車両についてなんですが、今までの経験が生きた部分とそうでない部分がありました。足回りやLSDに関してはある程度ジムカーナでの経験の応用がききましたがジムカーナのPNクラスよりも更に改造範囲が狭いという部分だったり、熱で変化する車にセッティングだったり運転だったりをアジャストさせていく部分がとても難しくて4戦のスポット参戦では納得いくレベルに持っていけなかったですね。86/BRZレースはスプリントレースなので、冷えたコンディションのいい状態でスタートして、あらゆるものが完全に熱ダレしきる頃ゴールするので、熱の影響を多分に受けるという部分でジムカーナにはない難しさがありました。それと運転についてなんですが、微妙に高い車速で突っ込みすぎるが故にブレーキを残しすぎるという癖がサーキットの高い車速ではジムカーナ以上にムダにつながるという事を実感しました。あと、ジムカーナはコースが毎回変わるのでその場その場で「ベストではないけどなるべくロスしない」っていう臨機応変さは磨かれてきてて、レース中の他車と絡んだりしてレコードラインを取れない時の対処などはそんなに悪くなかったと思っていますが、同じコースを反復練習して攻めすぎも守りすぎも一切許されないというレースの予選はジムカーナよりも難しさを感じました。
山野:今年は初めてのロードスターに乗り換えて、足元の目標としてシリーズチャンピオンを狙うというのは聞かなくても分かっていますが、近い将来、どういう方向に自分自身の身をおきたいと考えていますか?
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2020年はロードスターRFに乗換

ユウ:正直、これは難しいですね。ぶっちゃけ悩んでますね。
山野:まぁ、あまり考えていないってことね。
ユウ:う~ん…。そうですね。
山野:事前アンケートで、怠け者って自己評価をされてますけど、そういうことを考えるのも、ちょっと優先順位が低いのかもしれないですね。
ユウ:(苦笑)うまく、まとめてもらった感じですね。ありがとうございます。
山野:自己評価としては、怠け者ということなんですかね?あの、パドックの片づけが遅いところも、そういうところから来てるんですか?
ユウ:パドックの片づけが遅い件は、僕はちょっと違うと思っていまして、会場で出来ることと、事前の練習でできることはちょっと違うと思うんですね。それで、実際に戦う相手が目の前にいて、そこと比較ができる試合の会場では、普段の練習とは、また違ったやるべきことが見えてくるんです。そして、その場で見えてきた、できることには一切の妥協をしたくないんですよ。

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ユウ選手のパドックで良く見る光景

山野:う~ん。片づけるのは後回しって感じ?
ユウ:それはありますね。片づけよりも、今やらなきゃいけないことを優先しますね。
山野:朝、来るのが遅いってことはない?
ユウ:う~ん。うまく言えないですけど、早く行けば早く終われるっていう性格のことをしているつもりではないんですよね。
山野:よく分からないんですけど・・・私とはアプローチが違うっていうことが良く分かりました(笑)ユウとしての重要視するポイントやタイミングが、周りの人達と違うってことが分かりました(笑)
ユウ:確かに、早く帰るってファクターに対するプライオリティが、すごく低いことは確かです。
山野:でも、それで成績が良ければ何ら問題ないんじゃないですか?生活リズムが、競技リズムってところはありますからね。私の場合、重視しているのが完熟歩行で、その時間を起点に、朝何時に起きて、何時間寝てというのが全部決まって来るんですけど、そういうリズムは皆が持っていて、自分自身で一番勝利につながりやすい時間配分をもってるってことなんでしょうね。それではこの辺りでまとめに入りたいんですが、面白かったのは、生活背景や育った環境が彼を強くしていたってことと、周りの人達がそれによってユウを助けたいって思わせられてるっていう、それはユウの人となりが、そうさせてるってことが再認識できたインタビューでした。あとは彼の実力が引き出せるように周りの人達が支えて行けば、ジムカーナはもちろん、それ以外のカテゴリでも間違いなく活躍してくれそうな気がしました。
ユウ:素晴らしいファシリテーションで、まとめていただきありがとうございます。支えてもらっている皆さんには本当に感謝しているので、これを成績はもちろん、ジムカーナを盛り上げることでお返ししていけたらなと思ってます。


山野:ありがとうございました。
ユウ:ありがとうございました。


※写真提供:ユウ選手、ニュートンランド佐藤様


<編集後記> 最後までご覧いただきありがとうございます。 次回はユウ選手が「見た人が元気になってくれそうだから!」という理由で多趣味で戦略家の、あの選手にインタビューします。お楽しみに。