ジムカーナドライバーの意外な一面が垣間見れるリレーインタビュー。リレー方式ですので前回のユウ選手が次の選手を指名します。指名したのは、見た人を明るくする事ができるという理由から河本晃一選手。今回もブリヂストンのWEB会議システムを使ってインタビューを実施していきます。
ユウ選手(以下、ユウ):よろしくお願いします。ずいぶんとお久しぶりですね。元気ですか?
河本選手(以下、河本):元気ですよ。肌の色は、どんどん白くなってるケド・・・。
ユウ:わかる~。白くなってきますよね!
河本:そこへきてFacebookなんかで見かける山野さん(注:ジムカーナ界で黒いと言えば山野さんと言われている)が、なんで去年と変わらず黒いのだろうと不思議に思ってます。
ユウ:確かに!なんでなんですかね?(注:記事には非掲載ですが第1回のインタビュー時に、ジョギングやご自宅の外回りの仕事を積極的にこなす等、日光に当たる機会を常にキープしているとおっしゃっていました。)
ユウ:インタビューに先立って、私の河本さんに対する印象をお伝えしておきたいんですけど、河本さんといえばチャームポイントでありトレードマークのスキンヘッドが素敵なんですが、私、最初の頃はお見掛けすると、いつも女の人連れているし、なんかだ妙に明るいし、正直チャラい人なのかな?と思ってたんです(笑)でも、河本さんと関わりをもたせていただくと、だんだん、この人ってすごく愛情深い人なんだなって理解できたんです。自分が楽しんでいるフィールドに、自分が愛している人を、なんで一緒につれてきて一緒に楽しまないのか?って感じなんですよね?
河本:またー(喜) それは素晴らしい解釈ですね。ありがとう。
ユウ:しかも、インタビュー前にアンケート書いてもらっているんですけど、性別の欄にわざわざバイセクシャルと書いてあって、その上でインタビューアーである私との関係を“怪しい関係”とか書いてあるんですよね。これ変な誤解を招くんじゃないかなと?
河本:誤解なのか、本当なのか良くわかりませんけど?(笑)
怪しい?関係のお二人
ユウ:いやいや。まぁ、そういう茶目っ気みたいなところを見ても、端々で自由で先進的で、僕が勝手にカテゴライズしたり決めつけたりすると良くないかもしれないですけど、欧米っぽい愛情表現をする人なのかな?っていう感じがしました。では、そろそろ私からの質問なんですが、今、自動車メーカーのテストドライバーされてるということで、河本さんのSNSを見ていると海外によく出張に行かれていて、英語力もビジネスで使えるレベルをお持ちで私なんかは憧れるんですけど、そういった欧米的なファンデーションというか素養ってどうやって身につけたんですか?
河本:私の場合は、山野さんみたいに海外で生活した経験はなくて、日本生まれの日本育ちなんですね。ただ祖父が中国人なんですね。実は会ったことがない祖父の話で、しかもその事実を知ったのも中学生くらいになってからなんです。ある程度、分別がつく年齢でそれを知ったら、もう国境とか民族とかそういうもので人を見るとか、そういう要素で人を差別するっていうのが、ものすごく無意味なものと感じられたのは事実ですね。そんな背景もあって、どんな人が相手でも、あっけらかんと明るくすれば、明るく楽しく、いい関係を築いてもらえて、よくしてもらえるという信念を心のどこかに持っていて、まずはチャラいことをやっています(笑)
ユウ:“つかみはチャラく“ですね?(笑)
河本:仕事でも、つかみはそこかな?今の業務ってテストドライバーの中でも最後の監査役というか最後の締めの部分を担当しているんですね。その時にグローバルにそれぞれの市場を担当するメンバーと英語でコミュニケーションしてるんですけど、英語は決して得意ではないです。なんとかして意思疎通し合っています。英語力とか言葉の能力を、それこそ明るさとか、共感力でカバーしている。それも「相手がアメリカ人だ」とかって構えてしまうと出来ないことかもしれないですね。
ユウ:青年時代からそのスタンスというか、雰囲気は今と一緒なんですか?
河本:うん雰囲気は一緒。もっと言うとアンケートの性別欄にバイセクシャルと書いたのも、性別なんてどうでもいいじゃんっていう気持ちも最近あって、そういう意味ではダイバシティ―なのかなって思います。
ユウ:なるほど。その気持ち、なんか分かる気がします。
河本:ユウくんもチャラくはないけど(笑)、私と似たような感じかなぁと思ってる。
ユウ:そうですね。
河本:変な枠組みにとらわれないよね?
ユウ:確かに、そういうのは取っ払った方が良いと思ってますね。それは性別もそうだし、何においてもです。そこは河本さんと共通の価値観を持っている部分というか、どこまで一緒かは分からないですけど結構近いんじゃないかなぁ?と前から思ってはいました。
河本:同じ方向は向いてるよね、たぶん。ユウくんのセッティングのやり方とかドライビングを詰めていく方向も既成概念にとらわれない、全部取っ払ってやっていくのを見て、「あぁ、そうだよなぁ」って思うもん。
ユウ:そこ、共感してもらえます?時間をかけて1からやるのって、良い面・悪い面あるので、みんな手放しでは褒めてくれないんですよね。セッティングの話だと例えば、柔らかいダンパーと硬いダンパーを組んだ時に、それぞれ良いところ・悪いところ出てくるじゃないですか?私はそれを全部知りたいなぁ~というのが心の原動力なんですよ。
河本:わかる!
ユウ:勝負事なので、勝ちたいというのは当然あるんですけど、同じくらいクルマのことをもっと知りたいと思ってジムカーナをやっている部分も大きくて。
河本:そうだよね、ユウくんはセッティングを幅広くみてる気がする。それって私も大事なことだと思っていて、その幅を見極める為に、最初は枠組みを決めないっていうマインドセットが僕の中にもあるのかな?って気はする。
ユウ:近いのかもしれないですね
河本:そうだね
真剣にセッティングを決める河本選手
ユウ:ご職業ですが自動車メーカーに行く前は音響メーカーでコンサートホールの設計をしていたという記事を見たんですけど?
河本:そうそう、最初の音響メーカーは右脳の世界、エンターテイメント業界でやってきたのが、自動車メーカーに来ると今度はなんでもかんでも数式・数字で表さないといけない世界。それは本当にドラスティックな変化でしたね。
ユウ:今は自動車の評価って乗って気持ち良いとか、運転しやすい、という感性評価を重要視するようになったのかな?と外から見ていると思うんですけど。
河本:そうですね。ただ、そればかりではいわゆる物理量をしっかり測定できなくて、設計指標に落とし込めない。かたや、お客様は感覚量で車を評価する。しっかり数値化できないと設計指標ができない、実験指標もできない、この感覚量と物理量をどうつなげるか?というのは最初の仕事でやりましたね。
ユウ:音響メーカーでやっていたお仕事、コンサートホール作る時にも、人の感覚を物理的な仕様にどう落とし込むか?という工夫が必要だったと思うんですけど、そういう意味では結構毛色が近いんですね。
河本:その経験は凄く使えたと思います、今の会社はそれを買ってくれたんだと思いますね。
ユウ:音響メーカーが新卒入社した会社ですか?
河本:そうです。大学の研究でまさに聴覚と脳科学の研究をしていたので。
ユウ:聴覚?
河本:そう聴覚って私の感覚でいうと70%が錯覚で動いているんですよ。音を聞くという感覚、物理量から絶対にこうは聞こえないはずだって物理量の構成の音を聞いた時、良い塩梅のところに脳が落とし込むんですよね。その感覚のつなぎ合わせを正に学生時代はやっていたんですよね。
ユウ:今の会社に入られた動機を、事前アンケートでは「V字回復する改革を組織の内側から見てみたかったから。」と書いてありますが?実際にご覧になって、どういう印象でした?
河本:すごい、うまいことやっているなっていうのが一番最初の印象でした。何がうまくやっているかというと、企業が歴史を重ねていく中で、ネガティブなシガラミになったところを切っていって、それと対極の部分、自動車メーカーとして大事にしていくべきことをしっかり定義して、この2極でうまいこと社内バランスをとっていたのが、すごいうまいことやっている印象でした。
ユウ:その、自動車メーカーが大事にしないといけないものって、なんなんですかね?一言でいうのは難しいと思いますけど
河本:“技術のメーカー”と言われたことが足かせになっていた部分もあるんですが、それでもやっぱり技術がベースにあると思います。ただ今まで培った技術の延長線上だけで考えるのではなくて、常に世の中の要望や変化に応える技術をつくりあげていくというのが強みだと思います。電気自動車を一早く世に出したりとか、自動運転という技術に対してお客様につかえるよう早めに着手して、製品に落とし込んだところなんて真骨頂だと思います。
ユウ:その真骨頂の代表格である電気自動車の開発に関わっていたんですよね?
河本:初代モデルにはバッテリー開発だけに関わったんですね。
ユウ:確か、読んだ記事にはゴミが入ると大変と書いてありましたよね?
河本:ゴミと言っても、何十μの大きさのゴミの話なんです。その何十μのゴミが入るだけでも大きな問題になるので、メーカーとして安全を担保しなくてはいけないというのが凄く難しいところでしたね。
ユウ:なるほど
河本:現行モデルは実験責任者として携わったんですが、そこでは車を操る楽しみを訴求したい。その中でEV、モーターのトルクっていきなりドンと出ますけど、その特性を使ってどれだけお客様を気持ちよくさせるか?が苦慮したところですね。いきなりトルクが出るからって、そのままいきなり出してもお客様は気持ちよく感じないんですね。今は各社からEVが出ていますが、アクセルを踏んだ時に、どうやってトルクを出すのかっていう線図が各メーカーのポリシーが込められているところなんですね。
ユウ:やっぱり内燃機関に慣らされているドライバーの期待値をはずれると、いくら強かろうが快感にならないんですか?
河本:そう、違和感になる。初代と2代目でお客様のEVに対しての期待値も変わって来ている。お客様がEVに慣れてきているので、2代目ではアクセルを踏んだ最初の方で、EVらしいトルクをもっと出そうとチャレンジしています。その車に対する感覚が、お客様の感覚と二人三脚で、だんだんと上がっていくというのが車の開発をしていて、面白いところかな?
ユウ:羨ましがってばかりいると「実は大変なんだよ」って言われちゃうと思いますが、私も10代の頃というか、今でもですが、テストドライバーって職業に憧れがあったので、それを最前線でやっている河本さんはいつも憧れで見ているんです。
河本:いえいえ。
ユウ:話は変わりますが、事前アンケートの競技車両の遍歴を見て意外だったのは、河本さんと言えば、すっかりZの印象がありますけど最初はインプレッサなんですか?
河本:そうです。インプレッサを突然買っちゃたの。中古車屋でインプレッサを見かけて、そのままお店に入って、2時間くらい商談したらハンコ押して出てきちゃったんです。そこからジムカーナを始めたんですね。昔ちょっと学生時代に草レースのラリーとかダートラはやっていたんだけど、しばらくは遠ざかっていて、インプレッサ買った頃はコリン・マクレー(WRCドライバー)に憧れてたんですよね。
納車直前のインプレッサ
ユウ:あー、わかります。私もすごく好きでした
河本:マクレーの走りって一発勝負で伸るか反るか、魅せるドライバーだなと思ってファンとして憧れていましたね。未だににその当時のビデオ見ると凄いなと思いますね。
ユウ:いやー、思います。今どきのラリーカーってすごいストロークがあって色んな路面に対してタイヤが離れない状態を維持してますけど。GCインプ時代はストロークがあまり無くて、結構浮いて滞空時間が長くて見ていて冷や冷やしますよね。
河本:常に路面から、どっかのタイヤが離れているんだよね。あの不安定な状況でよくあれだけアクセル踏めるなと未だに思うな~。
ユウ:凄いですよね。小中学生時代は単純に格好良いと思ってましたけど、だんだん自分で運転したりセッティングをいじるようになって、このストロークでこの走り凄いなぁ~って思いますね。今のWRカーもまた凄いなぁ~と思いますけど
河本:たぶん当時よりも次元が上がっているのでその分の難しさはあると思うけど、いや~でもあんなに不安定なクルマでコリン・マクレー時代はよく走ってたと思うよね。
ユウ:大学時代は部のクルマに乗っていて土系をやっていて、いきなりインプレッサを試乗もせずに買ったんですか?
河本:そう試乗もせずに買っちゃいましたね。ナンバーもついてなかったので。いいや、これ安いからって買いました。ただ、モータースポーツやりたいなぁ~とは思っていて。まあ、お金もかからないからジムカーナにしようかな?というのが理由でしたね。
その後もう1台インプレッサを乗り継いだ河本選手
ユウ:学生時代にジムカーナは知っていたんですよね?
河本:そう。いわゆる土系に比べると手ごろに始められるカテゴリーだと思っていましたね。
ユウ:それ以外にジムカーナに魅力を感じてるところあります?
河本:いま、ここまで十数年間、真剣にやってきて思うのは、1分半にかける集中力の度合いが尋常ではないという点。あれは、みんなを見ていても凄いなって思う。
ユウ:自分が出来るようになってきても思いますか?
河本:思う。どれだけ研ぎ澄ました1分半にするのか?に全神経を集中する。オフの時も含めて、全日本のトップドライバーは常にやってるじゃないですか? その点が7割~8割の集中でずっと長い時間を安定して走るレースとも違うジムカーナの究極の面白さだと思いますね。究極の精神力も必要だし、究極のテクニックも必要だと思う。
ユウ:ジムカーナって、もっと流行っても良いと思うんですけど、なぜ流行らないんですかね?もう少し一般に浸透しても良いと思うんですけど?
河本:そうだね。ユウくんはもちろん、俺も良く知らない時代の話だけど、80年代90年代には地区戦が150台フルグリッド、不受理20台、30台当たり前の世界があったって言うじゃない?ところが今はすごく参加台数が減少してしまった。その理由として僕が信じているのは「世の中に求められている自動車の形がかわってきた」ってこと。車の楽しみ方も、いわゆるMT車で運転を楽しむところから、別の楽しみを求める為にATになって、サイドブレーキが無くなって、電動化になって、その先に求めるのは自動運転だったり、楽にA地点からB地点に移動するということに変わって来ている。そうやって車に求められるものが80年代、90年代とは変わる中で、その時代につくられたジムカーナってカテゴリーがそのままで良いのか?このままだと80年代90年代にジムカーナが盛り上がっていた時代に活躍した車達がヒストリックカーとして出るだけの競技になってしまうんじゃないかと思う。なので、新しい形にジムカーナをもっていくべきなんじゃないかと思います。それでも1分半にかける思いとか、僕が面白いと思っているスポーツドライビングの面白さの部分は規則やコースの作り方によってはスポイルされないと思っています。具体的には、2ペダルのクルマやAT限定免許でも真剣に戦えるカテゴリーにジムカーナが変わっていくべきなのかなと思っています。
ユウ:パーキングブレーキはどうしましょう?使用禁止?
河本:使用禁止にするのは難しいので僕のアイデアはコースレイアウトを設定するときの最小半径を決めてしまう。
ユウ:それはサイドを使った方が速いねって思わせないコースレイアウトにするっていう意味ですか?
河本:そう、そういうこと。僕らも全日本走っている時に、ここサイド使うかな?使わない方が速いよね?ってコーナーあるじゃない?
ユウ:ありますね。
河本:そういうコーナーに設定してしまうっていうのも手かなって思っています。ざっくり計算すると最小半径を6mに設定するとサイド使わない方が速い感じかな? 360°ターンをつくるときはどうするの?って話はあるけど。それでもFRならスライドできるし、FFだってフロントデフでグイって曲げればリアも出るし、そういうスポーツドライビングの面白さみたいなところはスポイルされないんじゃないかなと思っています。
ユウ:そういうルール面での改正もどんどんしていきたいですよね。
〈編集部〉
河本選手の素顔、お仕事の話、ジムカーナの未来像についてと盛り上がりましたインタビュー前編はここで終了です。インタビュー後編は河本選手のジムカーナ挑戦経緯、e-sportsの活用方法などの話が続きます。お楽しみに
【河本 晃一プロフィール】
全日本ジムカーナ選手権に日産フェアレディZ nismo(Z34)で参戦中。2019年はPN2クラスで2位獲得。
4月3日生まれ。 49歳。 趣味はアジング。昨年はアジング合宿に参加するほどハマっている。
ドライビングの持ち味は重さを味方にして、トルクを活かしきる。