河本選手の素顔に迫った前編。お話はジムカーナ競技の未来像にまで及び、後編では河本選手とクルマのディープな関係をユウ選手が聞き出していきます。
[インタビュー前編はこちら:/4/jgymkhana/racenews/2005/200527105909]
2011年Z34でデビューウィンを達成
ユウ選手(以下ユウ):ところで次に乗りたいクルマってなんですか?
河本選手(以下河本):メーカー度外視して答えていいなら、ポルシェケイマンなんですよ。このクルマが面白いんですよ~。現行のケイマンSに乗る機会があったんですけど、電動ブレーキで2ペダルなんだけど、どうもポルシェは今、この2ペダルをベースで設計しているんですね。これって国産車メーカーも同じ方向にいっている気がします。熟成度では2ペダルの方が上になってきている。この先もしかするとコースレイアウトによってはMTよりATの方が速いというクルマが出てくるんじゃないかな?なので、早めにATでもスポーツドライビングを楽しめる規則を構築する必要があると感じます。そうすれば、もっともっと多くの人にとってジムカーナが楽しみやすくなるんじゃないかな?
ユウ:本格的に競技として、先ほど(前編に収録)のお話でインプレッサを買ってでジムカーナを始めたのは何歳の時でした?
河本:33歳くらいかな?
ユウ:それまで車は乗ってなかったんですか?
河本:いやいやAE86やデートカーで人気のプレリュードとかには乗っていましたよ。
ユウ:全日本に参戦し始めたのはZ33からですか?
河本:いや、Z34からですね。2009年にPNクラスができたんだけどSタイヤ使用OKでロールバー必須だったんで、使えるSタイヤがなかったから出られなかった。そのあとに2011年のレギュレーション変更でSタイヤ禁止ロールバー推奨、すなわち今のPNクラスの枠組みになって、「これならZ34で出られるっちゃ出られるな」と思いました。でも、その当時はZ34でジムカーナに出るなんて正気の沙汰じゃない、信じられない、と言われました(笑)あんな重くてデカいクルマでジムカーナなんて…という声は強かったんです。ところが、逆のことを言って応援してくれる人もいて、お世話になっているショップオーナーから「なんでチャレンジしないんだ?チャレンジしない理由がわからない」と言われてトントン拍子に年間出場計画が決まったんです。
Z34で全日本ジムカーナに参戦を決意した時
ユウ:そうだ、重さで思い出したんですが、よくZを乗る上で「重さを味方」にとおっしゃっていますけど、その「重さを味方」っていうのが、いまいちピンと来てないんですね(笑)いい機会なので解説していただいてもいいですか?
河本:ふふふ(笑)いいですよ。「重さを味方」につけるっていう裏にあるのは「重さは基本的に不利にしか働かない要素である」というのが一般常識としてある中で、ルール上、車重は軽くはできないので「重さを味方につけないと勝つことにはつながらない」という思いを込めた言葉でした。具体的には横方向に重さを振らないこと。遠心力/向心力方向に重さを使ってしまうとコントロールしきれないので、その方向には極端な荷重移動をさせないドライビングをすることで、垂直方向にしっかり荷重を使ってタイヤの面圧を稼ぐということに集中しています。なので、ロードスターとか86といった軽いクルマがスラロームをスパン、スパン、スパンと抜けていくシーンは見ていて本当にうらやましかった。Zでやったら二度と戻ってこないですから。戻ってきたら一気に逆に振れてしまう。横方向に重さを使ってしまうのは不利にしかならないんです。まあ一般常識の範囲ですけど。それを横方向に急激な動きをさせないことで、下方向のタイヤ面の面圧として可能な限り重さを使うというドライビングとセッティングをしてきましたね。
重さを味方につけた走りをするZ34
ユウ:重いクルマって必然的に純正装着タイヤの幅が広いからそういう走りをすれば太いタイヤを活かせるってことですかね?
河本:そうです。いまだに思いますけど355馬力という余計なパワーがZにはあるんです。
ユウ:余計な(笑)
河本:うん、余計な(笑)でもあの355馬力を発揮させるためにも縦方向の荷重を徹底的に意識した走り方をしなくてはいけないと思って、ずっとセッティングとドライビングをしてきましたね。それがうまいことハマった上でブリヂストンの強力なグリップがあると、かなり355馬力っていうのを発揮させられるシーンが多くなるっていうのがここ2年、3年のRE-05Dから始まってRE-12D TAPE Aに至るまでずっと感じていることですね。355馬力がこれだけ路面に伝わると、このクルマこんなに速いのかって思っています。
ユウ:ちょっと聞きにくいですが一時期、タイヤは他メーカーを使っていましたよね?
河本:えーと(苦笑)、2011年はRE-11を使っていたんですが、2012年にRE-11Aが出たときに19インチが発売されなかったんですね。2012年はPN2に山野さんがBRZをデビューさせた年。第2戦TAKATAで、RE-11Aを履いた山野さんにボロ負けしたんです。その時にこれじゃ太刀打ちできない、タイヤの性能差も大きいなと思ってごめんなさいをして、次の名阪で他メーカーの帽子を被るわけです。それが経緯です。でもその時に嬉しかったのが、BSの方から「また僕らに良いタイヤが作れたら戻ってきてくださいね」と社交辞令かも知れませんが、言っていただいたのがずっと心に残っていて、やっぱり自動車メーカーの人間というもあるし、これまで色々モータースポーツをやってきた経緯もあってBSっていうブランドに対するの技術力に裏付けられた安心感みたいなものがずっとありました。そのあとRE-71RでBSに戻るんですけど、戻った時のうれしさ、安心感、高揚感みたいなものは尋常じゃ無かったですね。やっぱり技術力の高さ、品質安定度も含めて世界のメーカーとして、ずば抜けているかなと思いますね、BSの安心感って。
ユウ:11Aがサイズ無くて泣く泣く一瞬離れていたけど、モータースポーツの世界でもブリヂストンを履きたかったし、仕事でブリヂストンと関わる中でも良いメーカーだなと感じていたんですか?
河本:ブリヂストンのイメージは、技術に裏付けられて、ちゃんと理屈に基づいて開発してくれるメーカーだなという印象です。ゴムって生ものなんですよね?数字的には同じ組成のものを使っていても違う仕様になってしまう。ゴムの産地が変わるだけでも変わってしまうんですよね。というくらい厳密なものなんだと、ある車の開発をしているときに知りました。あの時のテストで、本来使用するタイヤ以外にも、ブリヂストンのサービストラックの奥に積んであるタイヤが沢山あって、あのタイヤは何?と聞いたら色々なリクエストがあった時に出せるように万が一の為に持ってきましたと言うんですね。それが山ほどの量だったので、すごいなと思ったのを覚えています。
ユウ:ブリヂストンのサービストラックとはその時から関わってるんですね。
河本:そうなんです。今は無き仙台ハイランドにサービストラックをつけて頂いたんですね。日曜日に仙台ハイランドに入って、月・火・水と実験をして、木曜日に関東で重要会議をこなして、金曜日からは全日本で、また仙台ハイランドというスケジュールもありました。(笑)
ユウ:そこに居たかったな~ってやつですね。
河本:うんうん。今だったらテレビ会議とかもあるんだけどね(笑)話が逸れましたがBSのタイヤってそういう印象が強いです。
ユウ:SUPER GTだったり、僕らのジムカーナのタイヤだったり、一般のタイヤも、ブリヂストンっていう大きいバックボーンで繋がっているっていうことですよね
河本:そうですね。その根底にある技術力は尋常じゃないと思います。
ユウ:仙台ハイランドに居てテレビ会議したかったなぁ~という話がありましたが、コロナになってテレビ会議とか増えました?
河本:元々海外の開発チームと打ち合わせするのに日常的に使っていたので、そんなに…
ユウ:コロナ前から使っていたんですね?
河本:そうそう、だからそれほど違和感ないかな
ユウ:日常では何か変わりましたか?全日本ジムカーナに行けないのはもちろんですが
河本:ユウくんに会えないのがすごい寂しいね
ユウ:僕もさびしいです。
河本:ありがとう。ユウくんのお母さんのチーズケーキが食べれないのが、すごく残念
ユウ:あぁ。山野選手も言ってました(笑)
河本:そうでしょ?ファンが多いの。でもほんとジムカーナで長い期間、毎年、定期的に顔を合わせてきた皆さんと顔を合わせない、握手ができない、挨拶ができない、「よっ!」ってできないことにストレス溜まってますね。
ジムカーナに出場している仲間と一緒に
ユウ:それをiRacingにぶつけてるんですか?
河本:う~ん。楽しんでないな・・・あれ修行だな(笑)。
ユウ:修行なんですか?
河本:うん。メンタルトレーニングっていうのかな、iRacingというシミュレーターを使って、混走レースの中で、クラッシュさせない、ドライバーの仕事であるピットにクルマを無事に戻すっていう制約条件を自分の中で設けてやると、すごいメンタルトレーニングになりますね。
ユウ:確かに!メンタルトレーニングって何をやってるのかな?と思っていたんですけど、そういう“クラッシュさせない“みたいな縛りをもってやっているんですね。
河本:耐久レースとかも一時期やっていたんですけど、クルマをピットまで自走で戻ってこないと大目玉を食らうチームにいたんですよ。iRacingでもそういう思いでピットレーンから出ていく、スタートする、必ずピットに戻すところまでを、どこにも当てずに壊さずにやるというのは結構ストレスです。結構気合入れてスタートしますもん。
ユウ:iRacingはちゃんと壊れますもんね。
河本:壊れる。壊れてオレンジディスクが出てピットに戻るんだけど、長いと修理に2分とか待たされて直すんだけど、直りきらずにアライメント狂ったまま残りのスティント走らないといけないこととかあるんだよね。
ユウ:そういう設定まで、あるんですか?
河本:壊れると最低限直すところまでしかやってくれないんだよね。ずっとハンドル傾けてないと、まっすぐ走れない状態でコースに戻されたり。
ユウ:辛いですね・・・
河本:それより辛いのが変な走りをするとボイスチャットでライバルから色々文句を言われることかな。反対にすごくクリーンなレースで終わると参加者全員に連帯感が生まれてびっくりする。
iRacingでトレーニング中の河本選手
ユウ:きっとコロナで車に乗りたいけど乗れないので、世界中からe-sportsに流れ込んでいると思いますね。
河本:コロナの影響でリアルのレーシングドライバーがe-sportsに近づいていっているように思いますね。今まで「リアルじゃないから」って言って敬遠していたけど、いざやってみたら、こんなに楽しいんだ、トレーニングになるんだとそっちの方向のe-sportsの価値が出てくると思います。あっ、でもタイヤが売れないのでタイヤメーカーさんは困りますかね?
ユウ:ジムカーナ機能が出ると面白いんですけどね。
河本:テクニカルセクションはあるんだけどな~。
ユウ:e-sportでジムカーナも出来るようになるともっと広がりますかね?
河本:e-sportでジムカーナも面白いかもね。その為にはまず今、僕らがやってるジムカーナを魅力的にする必要があると思う。将来のことを見据えて、新しく参加する人も楽しめるようなカテゴリーにして、全盛期の頃の人気に戻る様にユウくんも一緒にやっていきましょう!
ユウ:もちろんです。よろしくお願いします。本日はありがとうございました。
河本:ありがとうございました。
ユウ選手(左)と河本選手(右)
【河本 晃一プロフィール】
全日本ジムカーナ選手権に日産フェアレディZ nismo(Z34)で参戦中。2019年はPN2クラスで2位獲得。
4月3日生まれ。 49歳。 趣味はアジング。昨年はアジング合宿に参加するほどハマっている。
ドライビングの持ち味は重さを味方にして、トルクを活かしきる。
【編集部】
第3回リレーインタビューお楽しみ頂けましたでしょうか? 次回のインタビューは河本選手がブリヂストンへの電撃移籍にびっくりした!というPN1クラス 小林規敏選手です。お楽しみに。