GT500クラスに参戦する3メーカーのうち、唯一ベース車両をPRELUDE-GTに変更して話題を集めるホンダ。Astemo REAL RACINGの一員として、塚越広大選手のパートナーとして#17 Astemo HRC PRELUDE-GTを駆る野村勇斗選手に、初めて挑むGT500クラスへの意気込みを伺いました。
ーー岡山合同テストの初日、セッション終盤は予選のタイムアタック合戦のようで盛り上がりましたね。野村選手もそのタイミングでアタックしましたが、これはかなり予選を意識したラップだったのでしょうか?
野村勇斗(以下、野村):そうですね。とりあえずしっかり1周タイムを残そうと思いつつ、万が一にも飛び出したりしたらヘコんでしまうので、変なコースアウトはしないよう心がけました。
ーー1分18秒169でセッション8番手。どの程度攻めてのタイムでしたか?
野村:2周アタックして、1周目はちょっと抑えつつ、2周目にタイヤのピークをしっかり使えるようにフルプッシュしましたが、自分のミスも若干あったので、もう少しタイムを伸ばせたという感覚があります。
ーー午前中には塚越選手が1分18秒011という5番手タイムを出していましたね?
野村:はい。ただ、タイヤもコンディションも違いますから単純な比較にはなりませんし、そこはあまり意識していません。
ーーとはいえ予選シミュレーションを行うところまで順調にGT500マシンに馴染んできていると感じます。ご自身、それとチーム全体、ここまでテストの進捗状況をお聞かせください。
野村:マレーシアのセパンテストで初めてGT500マシンに乗りましたが、その時は開発車両の99号車を走らせました。その後、2月上旬に岡山国際サーキットでテストしています。REAL RACINGのみなさんは本当に親切に教えてくれますし、金石勝智監督も塚越選手も僕の質問に対してすごく丁寧にアドバイスしてくださいます。自分自身、とても成長を感じていますし、順調にテストは進んでいると思います。チームの熱量というのでしょうか。「絶対にいい結果を出してやる!」という気迫がひとりひとりから感じられ、メカニックの方も毎回、マシンを完璧な状態に仕上げてきてくれます。先日もフロアの下を覗き込んで驚いたのですが、もう、床が映るぐらいピッカピカで、「絶対に勝つぞ」という思いが伝わってきてすごく嬉しかったですし、それに恩返しできるような走りをしたいと思いました。
――逆に、野村選手もフロア下を覗き込むほどに熱意があると感じられます。
野村:実は一度、飛び出しているんです。最初の岡山国際サーキットのテストで新品タイヤでアタックした時、自分が想定していたよりもタイヤのピークを引き出せていなくて、1コーナーでロックして飛び出しました。まあ、多少雨もパラついていたのですが。ただタイヤの発熱に対する感覚のズレを把握するという意味では、いい経験になったとも思います。メカニックさんは「全力で走って飛び出したのなら、それは仕方ない」って言ってくれますが、それでもピカピカに仕上げてくれたマシンはできるだけきれいに乗りたいですし、何より速く走りたいという気持ちがあります。
ーーGT300クラスでは昨年も優勝していますし、SUPER GTがどのような世界なのかも十分に理解されていると思います。ただ、これまで外から見ていたGT500クラスと、実際に中に入って見るGT500クラスは、どれぐらい予想どおり、あるいは予想を超えていたものだったのでしょうか?
野村:GT500は文字どおり日本のトップカテゴリーですから、ものすごくシビアな世界なんだろうと想像していましたが、想像どおりというよりもそれ以上にシビアです。セッティングやタイヤの選び方など、本当にその時その時のベストを追求していく感覚は、今まで見てきた世界とはまったく違います。
ーーその時その時のベストを追求するという言葉がとても印象的です。常に性能のピークを引き出すべく追い求めている感じでしょうか?
野村:そうです。やはりGT500クラスともなるとハコ車ではありますがエアロも効いてくるので、ちょっとした風向きや気温に対するセッティングでフィーリングは大きく変わりますし、タイヤの使い方も変わってきます。そういったすべてのピースがうまくハマらないとトップにはいけない、そういうレベルの高さを感じています。
――本当にシビアですね。
野村:ひとつの例ですが、一昨日の占有走行で、ニュータイヤではなかったけれど最後にガソリン満タンで走り、その時のバランスがすっごい良くて。その前に走っていた塚越選手もすごいベストタイムを出していたんですけれど、今日いざ乗ってみたら、まったく同じセッティングで走っても感触が違う。少しコンディションが違うだけでこんなに変わるんだと驚きました。
――そういった部分を経験のある塚越選手やエンジニアの方々は、「今日のこの路面、このクルマだったら、ここはこう変わる」ということを、かなり正確に想定している?
野村:そうですね。走るたびにデータをチェックして、なぜバランスが変わっているのかをしっかり見てくれますし、逆に一昨日に良かった状態を再現できるようにセッティングを調整したり。
――プレリュードについて。GT500クラスは今回が初めてですが、マシンの特性や強みについてはどのように感じていますか?
野村:他メーカーのクルマとは比較できませんが、走っていて高速コーナーが速そうだという印象があります。高速コーナーでのグリップ感が高いので、高速タイプのサーキット、鈴鹿やSUGOは速いだろうな、と。SUGOのSPコーナーや最終コーナーは、ハマればすごく速そうです。
――期待できますね。
野村:もちろんそうなんですが、やはりここ数年は36号車がコンディションを問わず常に上位にいる印象があります。それはクルマが、少々コンディションが変わってもバランス変化がなくいい状態にあることが強みなんでしょう。ある意味、その36号車を目指しつつ、追いつけるように。一昨日にとても調子が良かったことで、ひとついいデータが取れましたし、そこから幅を広げていかないと。土台を広げて、どんなコンディションでも同じようなバランスを再現することができれば、強いクルマにできると思います。
――野村選手は、カート時代から他メーカーのタイヤでしたが、ライバルであるブリヂストンタイヤをどのように見ていましたか?
野村:速いタイヤ、というイメージですね。全日本カート選手権OK部門で走っていた時は、悔しいことにブリヂストンタイヤが上位を占めていました。どうにかして勝ちたいとばかり思っていましたが、表彰台には上がりましたが優勝できず、でした。ブリヂストンのタイヤは特に1周目がすごく速くて、なおかつピークを保ってタレないというイメージがあります。それと、これは車種や車体にもよるのかもしれませんがトラクションが良かったですね。コーナーの立ち上がりで離されてしまい、そこで追いつくことができれば同じように走れるのに、といつも悔しい思いをしました。結果的にカート時代は、予選ではとにかくタイヤ温存に専念して、決勝でタレてくる相手をパスする展開が多かったですね。SUPER GTでも、GT500/GT300どちらのクラスでも、やはりブリヂストンタイヤを履いている車両が上位にいる印象です。やはりブリヂストンタイヤは発熱が良く、しかも温度レンジから少々離れてしまってもしっかりと発動する。そういう意味で、幅のあるタイヤだと感じています。
――タイヤの個性とは関係なく、野村選手ご自身はどんなドライビングスタイルを好むのでしょう?
野村:僕はもう、よく曲がるクルマが好きです。もちろんステアリングを切った瞬間にちゃんとリヤがついてこなかったらただのオーバーステアになってしまうので、切り始めをていねいに、そこからフロントが入ったらコーナーのミッドで旋回性のいいクルマが好みですね。アンダーステアが出るよりずっといい。これは昔から変わりません。
――お話を伺っていると、GT500クラス初参戦でありながら、クルマ作りやテストの進め方など、チームにお任せではなく一緒に進めている印象を強くしました。もちろんまだまだ学びの時期ではあるのでしょうが、既にチームの一員としてしっかり機能しているというか。
野村:もちろん塚越選手が中心ですが、エンジニアさんが僕の声も親身に聞いてくださいます。それに、そもそもドライバーふたりのドライビングスタイルが似ているというのもあると思います。塚越選手がクルマを作っていけば、自然と僕もいい状態で走ることができる、そういった状況です。もちろん僕も望むことがあればそれは伝えますし、僕のアイデアも取り入れてくださっています。
――ドライビングとかクルマの仕上げ方、レースを戦う戦略に対して、タイヤにはどのような役割があり、どのようなタイヤが求められるのかを、今の段階で少しお聞かせください。
野村:よく言われるように、タイヤは唯一路面に接する部分ですからもちろん重要な要素です。予選の一発のタイムも出てロングランも速いというと贅沢な話になってしまいますが、結局はそこを煮詰めるのが勝利にいちばん近いと思います。さらに言えば、予選で多少苦戦してもロングランが速ければポジションを上げていけるので、近年の戦い方を見てもロングランはより重要です。ドライバーとしては、タイヤのタレ方やピックアップする、しないといった感覚も少しずつ把握できてきています。単純に速く走るというのは、まあ簡単なことではありませんが、速さがあれば比較的できることです。ただ決勝中のGT300マシンのかわし方や、タイヤが冷えている時の温め方やその早さといった引き出しについては、やはり塚越選手は経験豊富で、そういった速さを自分も磨いていきたいと思っています。もちろん、一発の速さもです。
――ありがとうございます。最後に野村選手の、そしてチームの活躍に期待しているファンの方々へメッセージをお願いします。
野村:先ほどのロングランが大事という話は当然ですが、チームとしては予選で前に行くことが大前提で、今はまずロングランよりも一発の速さを引き出す作業に重点を置いて取り組んでいます。そういったことを踏まえて開幕戦を楽しんで観ていただけたらと思います。前の位置からスタートして、そこから先はドライバーの引き出しの数で勝負、みたいなレースイメージです。僕自身としては、プロフェッショナルなレーシングドライバーとしてやはり結果がとても大事になっています。ホンダ勢としてもPRELUDE-GTというニューマシンを投入して、並々ならぬ思いで勝利を渇望していますから、ドライバーとして結果を出さなければならないというプレッシャーを感じつつ、それでもそのプレッシャーを跳ねのけて楽しむぐらいの勢いでシーズンに挑みたいと思います。




















