Vol.39 2025年シーズン NEWブリヂストンドライバー紹介 PART5 菅波冬悟選手

K2 R&D LEON RACINGに助っ人が戻ってきました。2019年後半から2021年まで蒲生尚弥選手とコンビを組んでいた菅波冬悟選手です。昨年GR86/BRZ Cupプロフェッショナルシリーズで7戦中5勝という手の付けられない圧勝で王座に輝き、フォーミュラでも経験を重ねた速さを武器に、2018年以来7年ぶりのタイトルを目指します。

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――3年ぶりのLEON RACINGですが、復帰の経緯やチームの雰囲気をお聞かせください。
菅波:一旦はLEONを離れて、その後は別のチームでSUPER GTに参戦していましたが、SUPER GTはもちろんですが、その他のカテゴリーでも結果を出すことができ、そういうことを考慮いただいてのお声がけだと思います。黒澤治樹監督からも「速く走れるでしょ?」みたいな気軽な感じで、エースの蒲生選手に肉薄するタイムで走るように言われていますし、まずは速さを期待して声をかけていただいたと思っています。
――国内ミドルフォーミュラやスーパー耐久も走り、SUPER GTでは他メーカーのタイヤを履いたり、そういった経験を積み重ねての復帰ですね。
菅波:SUPER GTに関してはブリヂストン以外のタイヤでも走りましたし、それによってブリヂストンタイヤの強みや、他メーカーのタイヤとの相違点なども経験できました。個人的に大きかったのはスーパーフォーミュラ・ライツ(以下SFL)での挑戦ですね。自分の中ではそれがいちばん大きいと思っています。以前はSUPER GTが、自分にとっていちばん速いクルマでしたが、SFLではコーナリングが異次元に速いので、上のレベルのコーナリングスピードを体感したことが、GT300でもすごく役立っています。
――なるほど。そういう意味では外からLEON RACINGを見ていたわけですが、去年は惜しくもシリーズ2位。チームのポジショニングやGT300の状況をどう見ていますか?
菅波:僕も他のチームですが同じ現場にいたので常に意識してチェックしていましたが、安定して上位につけていると思っていました。どこのサーキットに行っても走り出しの練習走行から上位にいますし、予選もそう。高い次元で安定している、そういう印象です。

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――先ほどのように、この3年間の経験を生かしてご自身の加入で65号車、あるいはLEON RACINGというチームのポテンシャルを、どのように底上げしていこうと考えているのでしょう?
菅波:確かに少しでも自分が役に立って「やってやる!」という気持ちもありはしますが、それで気持ちが入りすぎて空回りするのは避けたいと思っています。蒲生選手は本当に今、ものすごく速いと思います。同じチームで長く同じクルマに乗り続けているとか、そういう積み重ねがあって本当に速い。ですからその蒲生選手に離されないように色々学んでいく、そんな感じで挑もむつもりです。蒲生選手よりコンマ1秒速く走ってやろうなんて気持ちになったら、絶対に空回りすると思います。
――レーシングドライバーであれば誰でもそういう風に考えるものだと思っていました。
菅波:もう少し若い時はそうでしたけれど、それで失敗したこともありますし。そういう気持ちは大事ですが、過程をすっ飛ばして気持ちだけでいっちゃうと絶対に空回りするのでひとつずつ着実に。もちろんシーズン終盤までには、より蒲生さんに迫れるように、そんなイメージで考えています。要はマシンやタイヤといった、今のマテリアルにしっかり馴染んで自分のポテンシャルを100パーセント発揮できるように。それができた先には結果がついてくるという自信はあります。
――なるほど。ところで今おっしゃった蒲生選手の速さですが、これはパドックでもよく耳にします。菅波選手から見て、蒲生選手のドライバーとしての速さはどこにあるのでしょう?
菅波:ものすごくセンスがあると思います。いちばんすごいと思うのは、ほとんど練習時間がない中でしっかりとマシンのポテンシャルを引き出してくることでしょう。SUPER GTではドライバーがふたりいて、クルマやタイヤを確認しなきゃいけないし、コンディションもどんどん変わる。そういう状況の中でいきなりほぼ100パーセントに近いところでパッと走るって、すごいことだと思います。去年のオートポリスの予選なんか、全車ウェットタイヤで走る中でひとりだけスリックタイヤを履いて、途中からスリックタイヤに変えたマシンでさえスピンする中で着実にタイヤを温めて、最後の最後にタイムを出してきた。あれ、多分赤旗とかが出なければ、あのままポールポジション取れていただろうと思います。

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――一方で、ご自身の速さの秘訣は?
菅波:……わかりません。結構難しい質問ですね(笑)。ただ、意外と勉強熱心ですよ。他の人のドライビングを解析というか、どういう風に走っているのかをチェックして、そういうのをレーシングシミュレーターを使って自分で試したりしますしね。そういう中に、これはレースで使えるかなというものもあります。GR86のワンメイクでタイトルも取りましたが、あのクルマに関しては100パーセント限界で走る自信がありますし、自分のドライビングスタイルとしてコーナーリングのボトムスピードを上げていくのが得意だということもあります。SUPER GTでもボトムスピードを上げつつ、もう少し手前からアクセルオンできるようになれば、さらに上の領域に行けると取り組んでいるところです。
――今のGT300の難しさや厳しさをどのように感じていますか?
菅波:やはりマルチメイクなのでクルマの特性も違えばタイヤの特性も違います。それぞれに得意な部分と得意ではない部分があると思いますが、そこが噛み合わなかった時には一気に順位が落ちてしまう。それにサクセスウエイトもあるので、どれだけポテンシャルがあっても一強でい続けるのも難しい。そういう意味で、1年間安定して結果に繋げることがとても難しいカテゴリーだと思います。例えばMercedes AMG GT3は、コーナリングはとても速いけれどストレートは結構苦手なところで、レース中の競り合いや駆け引きはすごく難しい。前が詰まるとストレートで後ろに追いつかれてしまう、そんな難しさがあります。そうなるとタイヤ無交換作戦など、ピット作業でタイムを稼ぎたくなりますが、それを可能にするのがブリヂストンタイヤの強みですね。去年のシリーズランキング2位も、そこをフルに生かしての結果だと思います。
――他メーカーのタイヤも経験してきた上で、どのようなレースをイメージしていますか?
菅波:ブリヂストンタイヤの強みはロングランのペースだと思います。タイヤの性能低下が少なくてすごく安定している。そこは大いに生かしたいところです。反面、ドライバーが少しがんばってあげなきゃいけないのがウォームアップだと思っていて、一度温まってしまえばいいのですが、正しくウォームアップさせるには、ドライバーがしっかり慣れて合わせないといけない。滑るか滑らないかのギリギリのところでしっかり走れるようになれば、ウォームアップも克服できると思います。しっかりウォームアップしてスタートで順位をキープして、そこからは安定したタイヤパフォーマンスを活かしてで追い上げていく、そんなレース展開をイメージしています。

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――その強みであるライフを伸ばし維持するために、ドライビング面ではどんな工夫やアジャストが必要でしょうか?
菅波:いや、レース中にあまりタイヤを残すことは考えなくてもいい、そんなタイヤではあります。それは素晴らしいことですが、逆にドライバーが100パーセントで攻めきれない状況が続くと、ピックアップでタイムが落ちてしまうこともあって、いかにプッシュし続けられるかが大事だと思っています。とはいえGT500との混走なので、譲ったり譲られたりする中で汚れたラインを走ってしまうと一気にピックアップに繋がってしまう。そこに気をつけながらプッシュし続ける、それが秘訣です。
――もう十分にチームの状況は把握されていると思いますが、シリーズ争いで重要となるのはどんなことでしょうか?
菅波:シリーズを戦うという意味では、当たり前ですが取りこぼしをしないことです。予選でも Q1でノックアウトされてしまうとQ2に進めず順位が大きく下がってしまいます。おそらく自分はQ1を担当することが多くなると思うので、まずはしっかりその仕事をこなす。確実にQ2に進むことが予選順位、さらには決勝の順位に影響してくるでしょうし、それがシリーズポイントに大きく響くと思います。いい時はいいけど悪いときはすごくダメでは、どうしてもシリーズを狙うことはできません。悪い時を底上げできるように勉強しながらがんばっていきたいと思っています。
――最後に今シーズンへの意気込みを。
菅波:目標はもちろんチャンピオンです。去年2位ということで、チームもタイトルを切望していますし、少しでも自分が力になれるようにがんばりたい。また自分自身としてはSUPER GTでまだ1勝しかしていない(2020年第4戦)ので、やはり最低でも1回は優勝したいですし、できれば今年何回か優勝したいと思っています。あとは蒲生選手が結構無口なので、インタビューなど取材の時には自分がうまく答えていけるようにトークのスキルを上げておかないとです。って、こんなこと言っちゃうと蒲生選手に怒られるかもしれませんね。(笑)