メインスポンサーが変わりカラーリングを一新した#2 HYPER WATER INGING GR86 GT。堤優威/平良響のコンビで念願のタイトルを目指すチームに今年、サードドライバーとして卜部和久選手が加わりました。初めてのGT300にどう取り組んでいくのか。開幕を目前に控えた意気込みを伺いました。

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――19歳という年齢でSUPER GTデビューです。率直に今のお気持ちをお聞かせください。
卜部:何よりすごく嬉しいです。大きく注目される舞台ですから結果を出せばチームや関係者も評価してくださるので、慎重に、しっかりと自分のパフォーマンスを発揮したいと思っています。一方で結果が悪ければそのままに評価されてしまうので身の引き締まる思いです。
――改めて、まずはレースを始めたきっかけからお聞かせください。
卜部:きっかけはSUPER GTです。14歳の時ですが、2019年の第2戦富士で立川祐路さんと石浦宏明さんが優勝したレースです。雨が降ったり止んだりという難しいコンディションで、MOTUL AUTECH GT-Rと激しい一騎打ちをしたレースですが、それを制した姿がものすごくかっこよくて、自分もこの舞台で戦いたいと思ったのがきっかけです。すごく観客の多いレースで、多くの人を感動させる、とても魅力的なレースだと感じました。
――もうその翌年から全日本カート選手権に出場していますね? 以前からはカートはされていたのですか?
卜部:いえ、そのレースを見て14歳で初めてカートに乗り、15歳から本格的にレース参戦しました。生まれて初めて乗ったカートが水冷エンジン125ccだったので、強烈な加速で首が後ろに持っていかれ、ものすごい衝撃でした。タイヤもあんな小さいのにこんなにグリップするの? という感じで「こりゃすげえ!」ってワクワクしたことを覚えています。
――初めてカートに乗ってすぐに全日本ですから、かなり早いステップアップですね。
卜部:最初からプロドライバーを目指そうと思って始めたので、そのためにもまずは速くならなければという大前提があってのスタートでした。加えていいチームを見つけることもとても大事なのですが所属したカートチームはすごくいいチームで、色々なことを厳しく教えてくれました。自分が短期間で成長できたのはそのチームのおかげだと思っています。また、カート時代に色々な走り方を試したことが大きな経験になっていると思います。特に雨の時にはドライと比べてラインの選択肢が増えますし、ブレーキ、ハンドリング、アクセルといった操作も変わってきます。4輪にステップアップしても雨が得意なのは、この時期に色々試す力がついたおかげだと思っています。

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――全日本カートを2シーズンでFIA-F4にステップアップですね。
卜部:2年目の全日本カートでシリーズランキング4位に入り、18歳未満、つまり自動車免許がなくても4輪レースに出場できる限定ライセンスを取得することができました。元々フォーミュラにステップアップするつもりでしたし、全日本カートの2年目で限定ライセンスを取れなかったらレースは辞めるぐらいの気持ちで挑んでいました。F4はとても勉強にもなりましたが、ちょっと手こずりすぎたというか、うまくいかなかったという気持ちもあります。2シーズン目は伸びしろもあって、チームスタッフの方とも親しくできたし、チームの作り方とかも学ぶことができましたが、1年目はカートの延長線上みたいな感じでしたね。ぱっと乗ってぱっと走るだけであまり深く考えなかったんですけれど、1年間やって、これは難しいしカートのように簡単にはいかないな、やばいな、と思って挑んだからこそ、2年目は色々なことを勉強できましたし、3シーズン目のトヨタさんのスカラシップ獲得にも繋がったと思います。
――そのカートと比べて難しいというのは、具体的にどういった部分でしょうか。
卜部:僕は結構、というかめちゃくちゃ攻めたいタイプなので、攻めすぎちゃって遅いっていうのが多かったですね。だから攻めすぎないように。攻めないっていう言い方は正確ではないかもしれませんが、コーナーの進入で突っ込みすぎない走り方だとか、そういった4輪、ミドルフォーミュラで大切なことをすごく頑張って勉強しました。
――ライバルもいる中でプロのレーシングドライバーになることを強く意識して、3年目はTGR-DCレーシングスクールに臨んだわけですね?
卜部:スクールだからレースとは何かアプローチを変えてということはなく、いつも通りにギリギリで頑張ることを常に意識していました。でも、タイヤに関しては潰し方が難しいという印象で、少しでもタイヤを潰すタイミングがずれるとグリップが抜けちゃったりするので、そこをすごく丁寧に運転したことは覚えています。そういう風にクルマの動かし方をよく考えるようになったのは4輪に上がってからですね。

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――GT300マシンではもうどのぐらい走っていますか?
卜部:まだ13周だけなんです。2月の富士スピードウェイのテストで最後の30分ぐらい時間があるというときに乗りました。
――限られた走行かもしれませんが印象をお聞かせてください。
卜部:このGTA-GT300のマシンはちょっと癖があると前々から聞いていましたが、確かに癖がありました。コーナーをうまく曲がるための幅がすごく狭いんです。そこのうまく曲がるための荷重移動のやり方だったり、ハンドルの入れ方だったりがすごくピンポイントで操作の幅が狭く、そこが難しいと感じました。いちばん難しかったのはブレーキで、富士のセクター3のような、軽く触れる程度のブレーキも難しいですし、フルブレーキングもABSの介入のさせ方とか、そこが難しくて。これまで走ったGT4車両やポルシェカレラカップはフルにABSを効かせて走るクルマなんですが、JAF-GTはABSを作動させない方向で、そこがこれまでとは少し違う。それも乗ってから気づいたことで、走っている間はやはり一生懸命走ることしか考えていないので、降りた後で色々これダメだったんだな、あれダメだったんだなっていう改善点や反省がすごく多かったです。
フルブレーキングでは、例えばドン! といきなりフルブレーキするとか、あるいは一瞬、ぐっとサスペンションやタイヤが沈む時間を待ってからギリギリ踏むとか、そういうアジャストのような話なのでしょうか?
卜部:そう、ですね。ただ僕の場合はどちらかというとブレーキを離す、踏んだ後のリリースの方を結構意識していると思います。リリースするポイントとステアリングの量が合わないと思った通りに操れないとか、そういう感じのすごく新感覚なクルマで、車重もあってグリップはしているのですけが、ダウンフォースもあるし、でも足回りの動きは大きいし、みたいな。結構今までにないクルマで、そういう意味でみんなが癖ある癖あるって言っていたのだと思います。

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――その時には新品タイヤも履いたそうですね?
卜部:はい。タイヤについてはたった13周なので深く理解できたわけではありませんが、寒い時期のテストでも作動レンジの幅が広いというのが印象的でした。カートの時もそうでしたが、ブリヂストンのタイヤはコンディションの変化に対して対応幅がすごく広いイメージがあります。それに、新品タイヤで走り終わってからタイムをチェックしたら、堤選手や平良選手とあまり変わらないタイムが出ていたので、とてもポジティブにテストを終えることができました。チームの方々も「タイム出たじゃん」みたいな感じで、もちろん積んでいたガソリンの量やテストメニューなどもあるので単純なタイム比較にはなりませんが、次はどういう風に走らせようとか、トライしたい部分のイメージは頭の中にできているので、早く実践したい気持ちでいっぱいです。
――堤選手と平良選手という、速さも実績もあるドライバーから何を学び、どういうことに取り組んでいくのか。そのあたりの意識をお聞かせください。
卜部:クルマの作り方はもちろん気になりますが、SUPER GTはある意味尖がった世界なので、2号車で学んだことが他のどの車にも同じように生かせるわけではないと思います。何事もまずは素直に取り入れながら、そこから先はきちんと切り分けて自分のレースに生かしていく、そういうことを意識していきたいですね。直面した課題をきっちりと切り分けるという考え方は、阪口晴南選手の影響が大きいと思います。あの選手は、これは自分で対処できた問題だけど、こっちは対処できなかった問題という風に、きっちりと切り分けて考えるタイプで、その上でいわゆるもらい事故のような自分で対処できなかった問題に対しても「あの時、ああしていれば対処できたかもしれない」と突き詰める姿勢を大事にしている方だと思います。その影響はあると思います。
――カートからFIA-F4、スーパー耐久などの経験を経てGT300へ。今年はスーパーフォーミュラ・ライツやポルシェカレラカップにも参戦されるそうですが、ここから先の目標をお聞かせください。
卜部:ここから2年でスーパーフォーミュラなどのトップカテゴリーに上がれるリザルトを残せなければレースを引退するつもりです。もちろん最終目標はF1に乗りたいと思っています。とても厳しい世界だというのはわかっていますが、やはりレーサーとしてはそこを目指したいと思っています。今年はHYPER WATERさんの支援でポルシェカレラカップジャパンも走りますし、GT300でもHYPER WATER Racing INGINGはとても存在感のあるチームです。それだけに注目を集めることになるでしょうが、ここでしっかりと実績を築いて、チームを作っていける、チームの皆が「あいつのためなら」と味方になってくれるようなドライバーになりたいと思っています。