2020年のSUPER GTは、第6戦終了時点でシリーズランキング上位5チームがわずか2点差という大接戦が繰り広げられています。その中で今年2勝を挙げ、シリーズランキング4位につけている#17 KEIHIN NSX-GTの金石勝智監督、そして塚越広大選手に、終盤2戦に向けての意気込みを伺いました。
――今年#17 KEIHIN NSX-GTは第2戦富士と第4戦ツインリンクもてぎで優勝し、第6戦終了時点でシリーズランキング4位につけています(3~5位の3台は同点の45ポイントで横並び)。ここまでを振り返り、好調の理由をお聞かせください。
金石勝智監督:うちのクルマは去年からスピードはあり、2戦連続ポールポジションを取ったりはしていましたが、戦略的にあと一歩届かないということがありました。奇をてらったわけではないのに結果的にそういう展開になってしまったこともあります。そこで今年は王道の戦い方で勝てるようにならなければと、自分でも意識してレースウイークを組み立てています。これは戦略面に限った話ではありませんが、例えば自分が思い描く理想的なパターンに戦略を持っていける形にしているつもりです。
――王道というのは、自分たちの持っている速さを生かす、という意味でしょうか?
金石監督:はい。クルマに速さもあり、塚越選手にベルトラン・バゲット選手というドライバーのコンビネーションも2年目になってより強化されています。ふたりともレースに強いドライバーですから、変に戦略をひねることなく、スタートはバゲット選手に任せ、バゲット選手からいい状態でマシンを引き継いだら塚越選手が最後まできっちり走る。これが今年優勝している要因だと思います。監督としてはこのパターンに持っていけるようにチームを引っ張っています。
――結果だけみるとリタイア、優勝、8位、優勝、10位、10位。ウェイトハンデもあって浮き沈みが激しくも見えます。
金石監督:結果だけを見ると波があって“出入りの激しい”レースをしているように見えますが、トラブルでリタイアした第1戦は別にして、早い段階で2回も優勝したおかげでうちは真っ先に燃料リストリクターを3段階絞られてしまいました。さすがにストレートの遅さは如何ともしがたいものがありましたね。第5戦、第6戦は少しでもポイントを稼ごうと作戦を立て、うまくいきかけた部分もあったのですが、ライバルも似たような状況での接戦ですから、ほんの小さなことでドカドカと順位が落ちてしまう。そういう意味ではコンペティションは非常に厳しいし、出入りが激しく見える部分もあると思います。
塚越広大選手:監督が言った「王道の戦略」というのは、自分達にそれだけの実力がなければ成り立ちません。そのためにもバゲット選手と一緒に、チームと一緒に速いクルマを作ることがいちばん大事なところで、そこを着実にこなしていることが今シーズンの結果に繋がっていると思います。第3戦の鈴鹿では苦戦もしましたし、ウェイトハンデが厳しい中で思うようなポイントを取り切れなかったこともありますが、「あの時、あそこで失敗した」ということはないです。
――本当に接戦、厳しい戦いですね。
金石監督:トントン拍子に2回勝っちゃったので、いきなり燃料リストリクター3段階ダウンに入ってしまいましたから。
塚越選手:SUPER GTはウェイトハンデのあるレースですから連戦連勝は難しい。その中で前半戦に2勝し、速さを見せることができたことの方が大事だと僕は思っています。
――今年はNSX-GTがFR化されましたが、ミドシップだった去年までと比べてどのように変わりましたか?
塚越選手:正直、去年までのクルマと大きく違うなというのはありませんし、意外とスムーズにテストも進みました。どちらかというとエンジンの搭載位置が変わったことによって、タイヤのマネージメント、使い方が変わりました。タイヤに対する理解を深めることが、今年クルマが変わっていちばんの課題だったと思います。
――そういう意味ではシーズン前半で2勝を挙げているわけですから、早い段階で把握できていたわけですね?
塚越選手:そうかもしれません。毎回ブリヂストンが僕らが望んでいるタイヤ、僕らの希望にいちばん合うタイヤを用意してきてくれ、それを僕らがきっちりと使いこなすことができた結果だと思います。
――今年はコロナ禍の影響も大きかったと思います。
金石監督:最初は本当にレースできるのだろうかという不安もありましたが、SUPER GTに関わる人々が力を合わせ、GTAも頑張ってくれレースが実現しました。安心した半面、レースの開催間隔が短くなったのでメカニックをはじめ現場の人間はかなり大変でした。そんな中、チームとしても無観客のレース開催に際してどうやってレースを発信していくか、スタッフがいろいろ考え工夫もしてくれました。結果的に観客を迎え入れられるようにもなり、今は少しホッとしています。
――優勝したけど無観客というのは、どんな印象でしたか?
塚越選手:SUPER GTは本当に大勢の方が来場するイベントで、今までも優勝したり表彰台に上がったときには、本当にたくさんの方々に祝福していただいていました。観客がいない中で勝ったことで、やはり僕ら、SUPER GTを含めてモータースポーツって、レースをする側だけでなく楽しみにしてくれているファンの方々をはじめ、本当に大勢の人がいて成り立っているんだと痛感しました。第5戦からは観客も来られるようになって、それまで当たり前だったことを改めてありがたいと嬉しく思いました。多くのことに気づき、思いを新たにした、という感があります。
――金石監督がチームを立ち上げ、さらにリアルレーシングになってからの初優勝は2018年でした。これまで速いという評判はありポールポジションも獲得してきましたが、その速いクルマ作りから、勝つクルマ作りへと、チームとしてどのように進化してきたのでしょうか?
金石監督:速く走るためには、ひとつひとつのピースを揃えればいい。そこから強くなるには、そのピースをちゃんと組み合わせないと強くは走れない。今もまだすべてを理解しているわけではありませんし、そのピースの嵌め方を知り、強くなるというのは非常に難しい。どこのチームも、速さはドライバーにしろタイヤにしろクルマにしろ、ある程度揃えられますし、タイミングが合えば速さを見せることはできます。でも、色々とトラブルが発生する中でその速さを持ちこたえて、「結局あそこのチームが勝ってるよね」と言われるのが強い、老舗のチームだと思います。もちろんそこまでの経験も必要ですが、その経験をどれだけ短い時間軸の中で身に着けられるかというのが難しかった。毎戦毎戦、本当に色々なことを考えてサーキットに向かうんですよ。でも、、何かが欠けるんです。いつも、何か違うものが欠けてしまう。「レース自体は良かったな。でも勝てなかったね」というのが本当に多い。傍からは「もっと勝ってるチームのイメージだ」とよく言われます。
――その「勝てるチーム」になってきたことについて、具体的な理由とか、変わってきたことはありますか?
金石監督:今までも取り組んできたつもりですが、今年コロナ禍の影響でコミュニケーションを取るということを余計に意識した面があります。鈴鹿のガレージと東京の事務所で、コミュニケーションを取らなければ取らなかったで、それはそれで物事は動いてしまうんですよ。でも、こういう時だからこそミーティングに限らず何でもオンラインでやろうということになり、結果的にスタッフの連携がより密になったと思います。
――チームを巡る様々なことが有機的に結びついた?
金石監督:ええ。現場で伝え忘れていたことも、後で「こうしよう」とフォローできたり、タイヤ交換の練習ひとつにしても「もっとこういう風にしないと結局うまくいかないんじゃないの?」と問題提起してリファインしたり。そういう細かいことをひとりひとりが顔を見て言えるようになり、お互いにやるべきことが明確になりました。
塚越選手:僕自身、このチームで成績を残すためにはどうすればいいのかを常に考えています。最後は僕自身がチーム代表としてハンドルを握るわけで、チーム一丸となって自分のパフォーマンスを最大に引き出すことをこれまで以上に考えています。監督と同じように色々なコミュニケーションを取る中で、走り以外の部分も少しでもレベルを上げられるように常に意識しています。まだまだ途中ですがそれがこうして結果にも結び付いているということは、これからも伸び代はあると思っています。
――とても心強い言葉ですね。そのドライバーについて、監督から一言お願いします。
金石監督:塚越選手は、生まれ持ったスピードがありますし、そのスピードを毎周、全スティントを怠ることなく全力で走るといいうスタイルがとてもいいと思います。これはレースに如実に表れます。バゲット選手も素晴らしいファイターで、ここぞというときの抜きどころをきっちり抑え、ワンチャンスをモノにするところがいい。うちはふたりとも、レースに強いですよ?
塚越選手:ドライバーとしてはもっともっと磨きをかけてレベルを上げないといけませんし、チームとしてもっとクルマを良くする、速くする、強くするためには、ブリヂストン含めてコミュニケーションを深め、細かい話からの気づきを生かして結果に残したいですね。レースで勝つための準備を最大限尽くすことが、これからも大切だと思います。
金石監督:もちろんこれまでもブリヂストンとは濃密な関係を築いてきてはいますが、もっともっとブリヂストンとコミュニケーションを取り、タイヤに対する理解を深めるつもりです。うちのブリヂストンの担当エンジニアさん、顔はかわいいくせにけっこう頑固なんですよ。でも、その頑固なところがいいんです。お互いにしっかり理解するまで粘り強くコミュニケーションを取ってくれますし、タイヤってクルマの中でもいちばん最後に路面と接するところじゃないですか? いちばん大事なところなんです。それを作ってくれている方たちとのやりとりはとても大事だと思います。
塚越選手:タイヤのパフォーマンスという意味では、むしろ僕達が助けられている部分は大きいし、現場でもタイヤ選択に迷ったときとか、「自信を持って走ってきてください」とエンジニアさんが背中を押してくれることが大きな助けになっています。
――ありがとうございます。最後に、今週末の第7戦ツインリンクもてぎに向けて、そして目の前に見えているタイトル獲得に向けて意気込みをお聞かせください。
金石監督:ツインリンクもてぎは第4戦でも優勝したサーキットですし、(ウェイトハンディ的にも)同じような条件で走ることができます。第4戦の時よりも同条件のライバルは多いですが、目標はもちろん優勝です。最低目標は、最終戦の富士スピードウェイで自力タイトルを取れる位置につけること。他所のチームの結果に関係なく、2位でも3位でも自力でタイトルを取れるポジションで最終戦に臨みたいですね。あと、ブリヂストンのタイヤ、最高です!
塚越選手:監督と同じです。勝つべくして勝つために準備してきていますし、自信をもって王道の戦い方で結果を残したいです。僕も街乗り用にRE-71Rを履いていますが、すごくいいタイヤなので皆さんもぜひ体験してください!
――ありがとうございます。塚越選手、最新のRE-71RSもぜひ試してくださいね! 今日はお忙しい中、大変ありがとうございました。