コロナ禍でシーズン開幕が遅れ、7月の富士スピードウェイでようやく始動した2020 SUPER GT。富士スピードウェイでの第1、2戦と鈴鹿サーキットでの第3戦を終えた今、改めてシーズンの見どころと展望を、タイヤ開発に携わるエンジニアの視点でご紹介しましょう。

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狙うはGT500クラス5連覇!

2016年から2019年まで、ブリヂストンユーザーチームは4年連続でGT500クラスチャンピオンを獲得しています。今シーズンの目標はずばり5連覇。その大事な2020シーズンに向けて、ブリヂストンはより優れたタイヤを供給すべくシーズンオフの間も継続して開発を重ねてきました。目指すのは「一発の速さもあり、かつレースでタレないタイヤ」です。
MSタイヤ開発部マネージャーを務める山本貴彦は「従来ブリヂストンはタイムダウンしにくく決勝レースに強いタイヤを得意としてきましたが、反面、予選の速さではライバルに優位性を示せない部分もありました。しかし2019シーズン終盤にはその課題を解決したタイヤを投入し、予選の速さも改善できたと思っています」と昨シーズンを振り返り、「今シーズンに向けては同じ方向性でさらに優れたタイヤ開発を目指してきました」と2020シーズンへの意気込みを見せています。

今シーズンは新規定クラス1+αの採用によりトヨタ、ニッサン、ホンダの3メーカーすべてが新車を投入し、それぞれの車両とタイヤとのマッチングが懸念されました。しかし「大きな流れとして3メーカーの車両が同じ方向の仕様に統一されてきていることもあり、特定の車両に合わせてタイヤを作り込む必要はありませんでした」と山本が語るように、車両、タイヤ共に2019シーズンからの流れに沿った正常進化として開発は進められました。その結果GT500クラスにおいて、第1戦では上位6台を、第2戦は上位7台をブリヂストンユーザーチームが占めるという最高の結果を残しています。「(コロナ禍で)十分なテストができない中で非常に良いスタートを切ることができました。ただ、猛暑となった第3戦の鈴鹿ではタイヤの優位性を十分に示すことはできませんでした。ブリヂストンユーザーチームの多くが重たいウェイトハンディを背負った影響があるとはいえ、暑い時期の鈴鹿でも他メーカーに対して優位性を示さなければならない、と改めて痛感しています」

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開催地が限られ、レースが拮抗する?

ところで今シーズンの特徴として、開催地が富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、そしてツインリンクもてぎの3カ所に集約されている点が挙げられます(普段のシーズンであれば1年に2回開催されるのは富士スピードウェイのみ、それ以外は国内外のサーキットを転戦して異なる舞台で開催)。これはコロナ禍の中で人とモノの移動を最小限に抑えるための処置ですが、結果的に同じサーキットで複数回レースが行われることになるという点において、例年のSUPER GTとは少し状況が異なります。
「タイヤメーカーからしますと、同じサーキットを同じ車両で、季節や気温、路面温度が異なる状況でデータを取ることができるのは今後の開発に大きく影響するでしょう。同じサーキットでの開発が煮詰まっていくので、セッティングを外すといった不確定要素は減ると思います。観ているファンの方々にとっては、シーズンが進むにつれてより拮抗したレースが楽しめるのではないでしょうか?」

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その他の注目ポイントとしては、ルーキードライバーの活躍が期待されます。「テストのときからポンと乗って速かった」と山本が注目するのはau TOM'S GR Supraのサッシャ・フェネストラズ選手。ここまでのレースでコンスタントに上位入賞を重ね、第3戦終了時点でランキング首位につけています。また「ARTA NSX-GTの福住仁嶺選手や、トラブルもあってまだ結果に結びついていませんがカルソニック IMPUL GT-Rの平峰一貴選手も気になる存在です」と山本。シーズンが進むにつれてウェイトハンディが厳しくなる中で、ルーキードライバーがいかに着実にポイントを重ねていくかが、ポイント争いの鍵を握ることなりそうです。
一方のGT300クラスに目を向けると、まずはウェイトハンディが従来の「獲得ポイントの2倍」から「3倍」に増やされた点が大きな変更点です。それだけウェイトハンディの効果が強まるわけですから、上位のチームにとっては厳しい状況になりますが、「富士スピードウェイと鈴鹿サーキットを見た限り、懸念していたほどには影響しなかったという印象があります。開幕戦でデビューウィンを飾った埼玉トヨペットGB GR Supra GTなど、60㎏のウェイトを積んだ鈴鹿でも速さはありました。とはいえ、さすがにストップアンドゴーの多いツインリンクもてぎではウェイトが効いてくる気もします」


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さまざまな影響を受けながらも力強く動き始めたSUPER GT。ブリヂストンのタイヤ開発も、やはりコロナ禍の影響を受けています。開発現場にテレワークが導入され、当初は開発スタッフが戸惑う一面もありました。もちろん、スタッフは次第にこの新しい働き方に慣れていき、反対にテレワークは業務の効率化にも繋がりました。「テストやレースなど現場に出向いていたスタッフは元々半分テレワークみたいなものでしたし、わざわざ出社しなくても済む仕事であれば効率的に働くことができました」と山本。さらに「開幕するまでの期間は現場での仕事がなくなったので、そのリソースを先行開発に回すことができました」とも。行動を制限される中で地道に継続してきた努力は、きっと将来の技術開発に繋がることでしょう。

4戦のツインリンクもてぎまでは無観客で開催されるSUPER GTですが、10月の第5戦富士スピードウェイからは再び観客を集めての開催が検討されています。そしてここからは最終戦まで2カ月で4戦という怒涛のハイペース開催になります。
「目標はもちろんGT500クラスのタイトル5連覇ですから、それを目指してがんばります。そして予選一発の速さも示したい。また、第3戦の鈴鹿で苦労したので次回第6戦の鈴鹿については持ち込むタイヤの見直しも含めて巻き返しを図ります。ウェイトハンディがいちばん重いレースになるでしょうが、そこでしっかりポイントを重ね、最後はチャンピオンを取って笑顔でシーズンを終えたいですね」