vol.16 ブリヂストン SUPER GT 2022 シーズンプレビュー後編

前編では2022 SUPER GTに向けたブリヂストンの取り組みについてご紹介しました。後編ではもう少し掘り下げて、これまでのメーカーテスト・2回の公式テストを通じて見えてきた3メーカーのマシンの特徴や、450㎞という距離がレース戦略に及ぼす影響など、タイヤメーカーの視点から2022 年のSUPER GTの気になるポイントについて見ていきましょう。

■GT500の戦いは空力開発も行われてこれまで以上の接戦に!?
合同テストを終えたブリヂストンMSタイヤ開発部マネージャーの山本貴彦に取材すると、3メーカーのマシンについて「これは既に報道されていることですが」と前置きした上で、興味深いコメントがありました。それはトヨタ、ホンダ、そしてニッサン。3メーカーのマシンの特性が似通ってきているというのです。では、この“似通ってきている”というのはどういう状態を指しているのでしょうか。
2.jpg「マシンのタイヤ評価からも伺えることですが、今年のNSX-GTは持ち前のダウンフォースを維持しつつ、幅広い状況でその性能を発揮するよう扱いやすさを向上してきた印象があります。一方、低ドラッグを追求し高いトップスピードを誇るGR Supraは今年、ダウンフォースを増やしてきています。ニッサンはGT-Rが持っていたダウンフォースの強みをキープしつつ、新車のZでドラッグを低減してきているように見えます。結果的に3メーカーのマシンの車両特性が、これまでの開発を通じて狭い領域に近づいてきているという印象があります」
これには、2年ぶりの空力開発も影響しているのでしょう。これまでストレートが長い富士スピードウェイならGR Supra優勢、逆にダウンフォースが求められる鈴鹿ではNSX-GTやGT-Rが優勢というように、サーキットによっての得意不得意がありましたが、今年のマシンはその差が小さくなりそうです。サーキットによるマシンの優位性に偏りがなくなり、サクセスウェイトの軽いチームであれば、どこが上位に来てもおかしくない状況になる――つまりこれまで以上の混戦で、チームも私たちタイヤメーカーも、一瞬たりとも気の抜けない戦いになりそうです。

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■450kmレースで戦略の幅が広がる?
「長距離レースを取り入れていく」という方針を打ち出しているGTAですが、今年開催されるのは450㎞という「通常のレースの1.5倍」の距離に留まりました。実際、毎年5月の富士は500kmレースで開催されており、あまり変わった印象はありません。ところがこの450kmという微妙な距離に、実は深い意味がありそうです。このレースフォーマットの変更に対して山本に聞いてみました。「500kmと450kmでは、実は大きな違いがあります。500㎞ではオーソドックスに2回ピットインして毎回タイヤ交換と燃料補給をする作戦が基本となりますがこれが450㎞になることで、タイヤ交換を1回に抑える戦略が視野に入ってきます」と山本。
「タイヤ交換の有無やドライバー交代・燃料補給のタイミングについて、これまでよりも複数の選択肢をチームは考えることが予想されますよね。こうなることでレースの組み立て方に幅が広がりますので、どんな作戦にチームがメリットを見出すのか、ここはレースを見る上で面白いポイントでしょう。通常の300㎞レースでも、ピットインのタイミングによっては予選を走ったタイヤでレース距離の3分の2をカバーする必要がありますから、450㎞レースでタイヤ交換1回というのは十分考えられますので、戦略に幅を持たせようというGTAの狙いを感じますし、そうなれば多少のリスクを冒した戦略を取るチームもあると思います。幸いBSのタイヤはロングスティントを得意としているので、チームが幅のある戦略を取る場合にもサポートできると思います」
今シーズン初めて実施される450KmというフォーマットもSUPER GTをさらに盛り上げる要因となりそうです。

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■富士公式テストで話題になったウェットの状況は?
富士スピードウェイの合同テストでは、タイヤメーカー他社のウェットタイヤが話題になりました。ライバルメーカーの話とはいえ気になる存在です。こちらについて山本は、「富士では、ダンプ状態から普通の雨ぐらいまでの雨量を見ることができましたが、しっかり降ったタイミングで比較する機会がありませんでした。ただ、パターンを見る限り考え方としては、ある程度以上の雨量を割り切っているのは間違いないと思います。ヘビーウェット領域を割り切っているならば、思い切った発想です。とはいえ本格的な雨で雨量が多くなればレース中断の可能性もありますし、小雨や路面が渇き始めるようなシチュエーションでは確かにアドバンテージはありそうですね」としたうえで、続けて「登録できるウェットタイヤは1パターンだけという制約の中で、左右対称で回転方向指定のパターンにするか、市販タイヤにもあるような点対称のパターンにするかは悩みどころですが、先方はそこに踏み込んできたな、という印象です。もちろんウェットタイヤの性能はパターンだけでは決まりません。完全に浮いてしまうほどの雨量であればパターンの差は間違いなく出ますが、浮いたり着地したりを繰り返すようなゾーンでは、着地したときのグリップ感によって排水のイメージも変わります。私たちは2020年、2021年と自信のあるウェットタイヤを用意してきましたが、残念ながら実戦で使われることはありませんでした。これからもさらに性能を引き上げるべく開発を続け、雨での対決を楽しみにします」とコメント。2020年・2021年ウェットでのレースが無かっただけに今年雨が降った際にはどのようなレース展開となるのか、こちらも注目していきましょう。

いかがでしたでしょうか。様々な要因が高い次元で競われるSUPER GTにブリヂストンは、レースの主役であるドライバーやマシンを支え、チームと共にSUPER GTを戦っています。サーキットやテレビ放映で、お気に入りのチームが履いているPOTENZAのロゴを見たときに、ブリヂストンも一緒に戦っていることを思い出していただけたら光栄です。最後にブリヂストンMSタイヤ開発部マネージャーの山本貴彦から今シーズンに対する意気込みを掲載してシーズンプレビューを閉じたいと思います。なお、今シーズンはこのSUPER GT INSIGHTにて毎レースごとのレビュー記事を掲載していく予定ですので、今後もお楽しみに。


ブリヂストンMSタイヤ開発部マネージャー 山本貴彦のコメント
「オフシーズンのテストを通じて、タイヤは狙いどおりのパフォーマンスを発揮しています。当然ながらライバルメーカーも進歩していますが、目標はもちろんタイトル獲得です。今シーズンのSUPER GTは3メーカーの差が小さくなり、独走を許さない状況になると予想しています。毎年接戦が繰り広げられるSUPER GTですが、今年はかつてない混戦になるのではないでしょうか。去年は8戦中7勝を挙げましたが、今年も毎レース必ず装着チームが優勝できるように万全の体勢でチームを支えていきます」
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