さて、SUPER GT開幕戦で取材したPOTENZA RACING TIRE インプレッション、後編は今年#55 ARTA NSX GT3を走らせる武藤英紀選手と木村偉織選手に登場いただきます。今さら説明の必要はありませんが、武藤選手はフォーミュラ・ニッポン、SUPER GT、INDYCAR Seriesと様々な舞台で活躍している実力派。ブリヂストンタイヤで2013年SUPER GT300クラスチャンピオンにも輝いています。一方の木村選手は全日本カートからFIA F4とフォーミュラ畑を歩んできたSUPER GTルーキー。ふたりのコンビネーションが今年のGT300でどんな活躍を見せてくれるか気になる存在です。

#55 ARTA NSX GT3
「走っていて不安が一切ない。これが変わらぬブリヂストンの魅力です」 武藤 英紀選手
「タイヤの限界性能を引き出すという点で、まだ自分に足りないものがある」 木村 偉織選手


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―武藤選手にはこれまで数多くのレースでブリヂストンタイヤを履いていただいています。その中でも特に印象的な、あるいは記憶に残るレースはありますか?
武藤:そうですね。どれかひとつを挙げるというよりも、レース中に不安要素がない。これがブリヂストンタイヤについてもっとも強く感じていることです。レース中に「タイヤが壊れるかもしれない」といった不安が頭をよぎることがまったくなく、いつ履いても「精度の高さ」を感じます。フォーミュラ・ドリームでチャンピオンを取ったのが2003年、その後フォーミュラ・ニッポンやSUPER GT500でブリヂストンタイヤを履いていますが、これは当時からまったく変わりませんね。
―性能的なキャラクターはいかがでしょう?
武藤:どこかに偏って強いというのはないが、どこを切り取っても平均点以上です。タイヤの総合性能が高く、突出して何かを強くするのではなく、とても高い平均点で完成されているタイヤ。これはINDYCARで乗ったファイアストンもまったく同じでした。
―とてもうれしいお言葉です。武藤選手は今年、久々にGT300に乗られるわけですが、どのカテゴリーのクルマでも速さを見せています。「器用なタイプ」なのでしょうか?
武藤:どうでしょうか。ただ、初めて乗るクルマでも慣れるのに時間は掛からないタイプではありますね。ある程度乗ればすぐペースを掴むという意味では器用なのかもしれません。とはいえ現在のSUPER GTでは、クルマやタイヤはもちろんですがエンジニアリングが全体パッケージに占める割合がとても高くなっています。逆に言うとドライバーの能力が占めるパーセンテージは低くなっている気がします。
―そういう中でGT300のクルマを速く走らせるために、どんなことが重要になるのでしょうか?
武藤:SUPER GTは年々、コンペティションのレベルがとても高くなっています。タイヤも含めての話になりますが、スイートスポットを外した時の代償がとても大きいので、チームもドライバーも、レースでコンディションにうまく当てはめ、狙ったスイートスポットに収まるよう準備する必要があります。タイヤに関して言えば、その狙ったセットアップにピンポイントで合うレンジのタイヤを選ぶ必要があります。
―外してしまうと、それを現場のセッティングやドライバーでカバーするのは?
武藤:けっこう難しいですね。これはブリヂストンタイヤに限った話ではなく、どこのタイヤメーカーも同じです。
―そういう状況の中で、我々タイヤメーカーに求めることは何でしょう?
武藤:ブリヂストンの場合、持ち込んだスペックで「この気温だったらこれ」とレンジにちゃんと当てはめることができます。しかも用意してくるスペックをエンジニアさんが言う温度域で使うとしっかりと性能を発揮する。ものすごい膨大な量のデータなり指標を蓄積しているんだろうと感じさせますね。なかなか「今週末はこの気温なので、このタイヤをこう使ってください」という所までピンポイントにはめ込むのは難しいと思いますが、それをデータ量と技術力で合わせ込んでくるというのが強みでしょう。そしてそうする限り、ロングを走っても安定していて本当に速い。もちろん、路面コンディションや温度の状況で相対的なライバルとの差は変わりますが、どのタイヤでもワンスティントを想定した距離を走ってしまうというのも強みです。普通、レンジを外したら変に摩耗したりグレーニングが出てしまって余計なピットインを強いられることもありますが、そういうことがありません。もちろん温度レンジにはまれば、ずっと安定したタイムで走っていられます。他メーカーのタイヤで走ることもたくさんありましたが、コンディションに合わないとすぐに摩耗したりとか、予定外のピットインを強いられたり、時には構造が壊れてしまうこともありました。レース中にタイヤから振動が出ることも。ブリヂストンはそういったことが一切なく、安心感は飛び抜けて高いです。

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―ありがとうございます。木村選手はカート時代含めて、3メーカーのタイヤを履いていますね?
木村:それぞれカテゴリーによるワンメイク指定ですが、異なるタイヤメーカーは経験しています。やはりカートでも、武藤さんが言っていたようなバランスの良さ、扱いやすさという意味ではブリヂストンが一番でした。
―ブリヂストンに対して、どんなイメージがありましたか?
木村:F1に参戦していた世界のトップメーカーという印象をずっと持っていましたし、実際に履いてもそれを感じます。武藤さんの話と重複しますが、まず安心感。絶対的な信頼感が高い。それがモータースポーツ界で常にトップに居続ける理由だと思います。突出した部分がないと言うと逆に速くないと聞こえてしまうかもしれませんが、僕が出ていたカテゴリーはステップアップカテゴリーですし、ワンメイクのイコールコンディションという状況に適したタイヤだと思います。
武藤:他のタイヤメーカーは、性能を尖らせて勝ちにきている。どこかのコンディションに当てはめて、そこで勝てるようにしているトンガリを感じるよね?
木村:はい。これはカート時代の印象ですが、ブリヂストンはコンディションを問わず性能を発揮しましたね。もちろん雨も速い。
―SRSスカラシップのタイヤもブリヂストンでしたよね?
木村:はい。スカラシップのクルマはセッティングでほぼ決まってしまうのでタイヤの性能云々を語るのは難しいのですが、ただ、あのウェットタイヤのグリップは半端ありませんでした。本当にすごい。逆にあのタイヤを履いちゃうと、他のウェットタイヤでは怖いというぐらいグリップするタイヤでした。あまりに限界が高いので一度滑ってしまうとヤバいって感じですが、そこまでの限界は途方もなく高かったです。
―では今年、GT300マシンで走っての印象はどうでしょう?
木村:カートからF4までフォーミュラ育ちで、いわゆるハコのレーシングカーはGT300が初めてですが、NSX GT3はミドシップということもあって、ドライビングで苦労することはあまりありません。ただウォームアップとかはこれまでよりもずっとシビアなので、自分でタイヤの限界性能を引き出すという部分はまだまだ足りていないと思います。
―それは、タイヤのウォームアップの方法とか、そういうことでしょうか?
木村:単にウォームアップというよりも、ドライバーがどういう走らせ方をするかによって、どんな症状も出てしまうし、出すこともできる、という意味です。ですからそれに合わせた運転をしてあげないといけない。クルマの特徴もあると思うので一概にタイヤがどうこうというのではないと思いますが、これまで以上にタイヤを意識しないといけません。決勝のようなロングはもちろんですし、予選でも意識して走りを変えないといけない。
―そこをもう少し具体的に教えていただけますか?
木村:予選ではガンガン攻めて、横のグリップを使ってマシンを振り回すイメージです。決勝はしっかりブレーキを踏んでトランクションをかけて、というのをとてもていねいに、慎重に、というイメージです。
―そういうことは武藤さんからアドバイスされているのでしょうか?
武藤:そういったやりとりはあります。貪欲ですよ、彼。初めてのテストの時、フォーミュラから来て、1400kg近い車重のあるクルマをいきなり速く走らせるのは難しかったと思います。最初は慣れるのに少し時間は掛かりましたが、慣れちゃえば、やっぱり勢いはありますね。

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―お二人のコンビネーションで今年、どういったレースを戦いますか?
武藤:一戦一戦、確実なレースをしたいと思っています。タイヤに関しては申し分ないというか、最高のパッケージで走らせてもらっていると思いますから、まずは自分達がミスをしないこと。そうすることでチャンスも生まれてくると思うので、それを積み上げていくこと。チャンピオンというのは、その積み重ねで取れるものと思っています。
木村:シリーズを考えると取りこぼしを避けなければダメです。実際、去年のF4では速さを示すことはできたと思いますが、取りこぼしもあってチャンピオンを逃してしまいました(編集部注:シリーズ3位)。その反省を生かして、今年は自分を客観視して、地に足のついた走りで結果を残し、勝てるチャンスが来た時には狙います。逆に状況が厳しい時には1ポイントでも持ち帰れるよう意識して走ります。
―ライバルとして気になる存在はありますか?
武藤:全般的にJAF-GTは見ていて動きが軽快ですね。車重が軽いのですべてにおいて入力が少ない。そういう意味で警戒しています。あれで多少ストレートが遅ければいいけれど、そこそこトップスピードも出ていますから。
木村:56号車のGT-Rも速そうですよね?
武藤:スープラもだよ。ブリヂストンを履いてるマシンもあるから、タイヤメーカーは一緒でもライバル。それだけに倒したい。
―ありがとうございます。最後に今シーズンに向けての意気込みをお聞かせください。
木村:今は何より緊張しています。
武藤:緊張、するよね? 予選や決勝で相方がいい順位で帰ってきたりしたら?
木村:Q1トップで帰ってこられたら緊張します(笑)
武藤:自分だけのレースじゃないからね。第1スティントをトップで帰ってきて「あとはよろしく!」とかね(笑)。
―なんだが武藤選手、木村選手を緊張させようとしているみたいです。
木村:あいつ、緊張しそうだなって時は励ましてください。僕はそういう言葉が嬉しいタイプなので(笑)。
武藤:無線で声かけてくれって、土屋さんにお願いしとかないとね。あとGT500に抜かれるのも難しいよ? しかも開幕が狭い岡山国際サーキットだし。富士ならまだしも、いきなり岡山は怖いよなあ。
木村:はい。徐々に慣れていきます。僕は育成ドライバーとしてこのチームにいるので、速さ・強さを見せて上を目指します。レーシングドライバーとしてしっかり食べていけるようにがんばります。
武藤:やるからには狙うはチャンピオンです。パッケージに不足はありませんから、持てる力を最大限発揮します。やっぱり、ARTAの旗って目立つんですよ。走っていても目に入りますし、多くの方が応援してくれていると思うと力になるので、ぜひ応援してください。
木村:富士のテストでも雨の中で応援してくれるファンの方がいて、もっともっとがんばらなければと思いました。まずは印象的な走りで自分のことを覚えてもらえるようにがんばります!


新たな子弟コンビとして第一歩を踏み出した武藤選手と木村選手。既に二人の息はピタリと合っていると実感させられるインタビューでした。次の第2戦富士スピードウェイでの力強い活躍に期待しています!