vol.20 BRIDGESTONE、カルソニック IMPUL Zと悲願の鈴鹿リベンジを達成

タイヤの視点からSUPER GTを深掘りするBRIDGESTONE SUPER GT INSIGHT。今回は第5戦鈴鹿で大逆転優勝を飾った#12 カルソニック IMPUL Z、そして悲願の鈴鹿優勝を達成したブリヂストンの鈴鹿に向けたタイヤ開発に焦点を当て、あの劇的な勝利を支えた要因と、チャンピオンシップリーダーとして迎える残り3戦に向けての意気込みをお伺いしました。開幕戦から7位、3位、リタイア、2位、そして優勝と昇り調子のTEAM IMPUL。その生の声をお聞きください。


●参加者
平峰一貴選手、ベルトラン・バゲット選手、大駅俊臣エンジニア(TEAM IMPUL)
福崎翔エンジニア(株式会社ブリヂストン)


――皆さま、第5戦鈴鹿での優勝、おめでとうございました。日産車にとっては鈴鹿5連勝、そしてブリヂストンにとっては、しばらく離れていた鈴鹿での貴重な勝利でした。TEAM IMPULは今年マシンも変わり、そしてドライバーラインナップも変わってのシーズンですので、まずはドライバーお二人のお話を伺わせてください。
平峰一貴選手(以下、平峰):今年からバゲット選手と組むことになりましたが、とても速く経験豊富なドライバーと組んで戦えることを楽しみにしていました。シーズン前からバゲットさんと会って話しをお聞きし、コミュニケーションを取ってきました。一緒にレースを戦う中で、そういうコミュニケーションはとても重要だと思っていますし、すぐにでも勝ちたいというバゲットさんの強い気持ちも伝わってきました。そうして迎えた開幕戦は予選7位でしたが、しっかりQ1も通過でき、Zの強さもTEAM IMPULの強さも見せることができたと思っています。決勝は優勝争いに絡んだものの、なかなか簡単には勝たせてもらえませんでした。
ベルトラン・バゲット選手(以下、バゲット):ホンダから日産にスイッチして、まったく初めてのチームでしたが、平峰さんも大駅さんも英語を話すので、とても楽にコミュニケーションすることができ、すぐに馴染むことができました。そのおかげもあって、僕自身はドライビングスタイルを新しいクルマに合わせることに専念できました。というのも、僕と平峰さんではドライビングに、特にブレーキングで明らかに違う部分があったのです。僕のドライビングスタイルはエッジを攻めるというか、とてもハードブレーキで、この点を、新しいクルマに合わせるよう努力してきました。Zではブレーキングスタイルをもっと優しく、繊細にする必要があったのです。
――新しいZについて平峰選手はどういう印象をお持ちでしょう?
平峰:GT-RからZに変わって、ブレーキングのスタビリティが高くなっている印象があります。GT-Rと比べるとセットアップのスイートスポットが少し狭いかもしれないという印象もありますが、しっかり合わせ込みさえすれば、ドライバーとしてはとても攻めやすいですし、高速コーナーでダウンフォースもあり、特にコーナリングバランスに優れている印象です。
――見ているとコーナーへの進入スピードも速いですね?
平峰:ライバルも開発を進めて強力になっているので、他車と比べて速いかどうかは分かりませんが、やはり昨年までと比べると高速コーナーであったり、コーナー進入というのは安定して攻めていける感覚はあります。もちろんこれは、NISMOや大駅さんがクルマを仕上げてくれているおかげです。
バゲット:結果を見れば明らかですが、Zはとても強いクルマです。特に優れているのはストレートスピードで、ドラッグが小さく、とてもスピードが出る。これは決勝では強いアドバンテージで、オーバーテイクの難しいGT500の戦いの中でもライバルを抜きやすいと感じます。全体的なダウンフォースも大きく、その上メカニカルグリップも強い。日産はとてもコンペティティブで、タイトル争いするには最高のウェポンを用意してくれたと思います。

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――開幕戦岡山では、スタートしたバゲット選手が2位争いを演じ、ライバルよりタイミングを遅らせてピットインしました。ただ、ピットアウトしてセーフティーカー(以下、SC)が出るまでは2位を走りましたが、その後ペースが鈍ったように見えました。
大駅俊臣エンジニア(以下、大駅): 岡山では去年からミニマムの周回数でピットインというのが主な戦略です。うちは引っ張ったというよりも、トラフィックの様子を見ながら、ミニマム周回数を過ぎてからGT300にいちばん引っ掛からないタイミングを狙ったんです。前がどんどん開いていくのを見ながら一周ずつ伸ばしていってピットインしました。結果的にセカンドスティントはちょうどいい所に戻ることができ、平峰のプッシュでSCが出るまでは2番手を走っていたのですが、あのSCで少しタイヤ温度が下がってしまい、残り10周ぐらいはピックアップに苦労しました。
――平峰選手とバゲット選手で、予選のQ1とQ2、あるいは決勝でどちらがスタートドライバーを務めるのかはどのように決めていますか?
大駅:今でもまだ固定はしていませんが、岡山に関しては事前に十分テストしており、Q1は通過できるだろうという読みもあったので、ドライバーはどちらでもいける状況でした。予選に関しては、今はまだレース毎に変えている状況です。決勝はバゲットがスタートして後半を平峰というパターンで走り、思ったとおりバゲットのスタートがとても強いということと、去年もそうでしたが平峰が後半、粘り強く、必ずプッシュして順位を上げてくるという、ふたりの特徴が今ハマっているので、スタートをバゲット、後半を平峰という形に何となく定まってきています。
平峰:開幕戦では優勝が見えそうだったのに勝てませんでした。レース直後は悔しい思いでしたが、昨年と比べて出だし順調でポイントもしっかり取れたことはポジティブな要素だと思っています。チームもバゲットさんも皆が協力し、いい意味で自分にプレッシャーを掛けてもらっている中で、チームの競争力を示すことができたのは良かったと思っています。
――バゲット選手は、第1戦を終えてどんな印象でしたか?
バゲット:正直、予選7番手は望んでいたものではありませんでした。それでも決勝で2番手を走り、ポジティブな印象はあります。平峰さんはとてもアグレッシブで、怯むことなく前のクルマをオーバーテイクするし、週末を通じて安定してとても速い。またチーム、メカニック、エンジニアサイドについてもポジティブな印象を受けました。チームの誰もが細かいことまで常に気を配り、例え2位でフィニッシュしても残念がるほど勝利を渇望しています。TEAM IMPULで戦うシーズンが楽しみになりました。
ーー第2戦の富士は450kmでの開催でしたが、どのような作戦を予定していましたか?
大駅:ある程度のシミュレーションでどのパターンにもハマるように準備していました。450kmという特殊なフォーマットについて事前にブリヂストンから話があり、ダブルスティント、タイヤ交換なしというストラテジーもオプションとしては考えていると伝えられていました。ただ、ロングランの性能を事前に十分確認できず、レースウイークでもそういった時間を取れないままだったので、ブリヂストンの経験と計算値でダブルスティントを視野に入れつつ、どういう展開になっても対応できるように想定していました。実際、ファーストスティントでは想定よりもタイヤが厳しくなってしまったので、予定より早めにピットインしました。多分全体の中でもいちばん早かったと思いますが、そこからアンダーカットでポジションを上げるつもりでいたところで大きなインシデントがあり、結果的にこの450kmのストラテジーへの正解は誰も分からないまま第5戦の富士に続いた形です。
ーードライバーとしては450kmレースというのはいかがですか?
平峰:肉体的に準備しなければいけないのと、レース戦略をしっかり理解して最後まで脳みそも持たせられるよう、長いレースに耐えられるようにトレーニングをしてきました。
バゲット:レース距離によってストラテジーの幅が広がるので、興味深いし楽しみにしていました。ピットインを早めたり、逆に伸ばしたり。ダブルスティントか、シングルスティントか? 我々はピットインを早めましたが、その後長い間SCが入って各チームの戦略は台無しになりました。それでも3位でレースを終えることができラッキーだったと思います。僕はこのフォーマットはとても気に入っています。戦略の可能性が広がり、予選で後ろに沈んでも決勝で上がってくるチャンスがあります。ドライバーとして肉体的に特別必要なことはありません。1スティントでも2スティントでも、チームが走れと言えば走るだけ。レース距離が長くなっても対応できるだけのトレーニングをしていますからね。

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ーーここ数年、鈴鹿では日産勢が好成績を収めていますが、第3戦の鈴鹿は予選7位、決勝はリタイヤでした。
大駅:鈴鹿は300kmレースだったので、ストラテジーは関係なく、いつものようにスピードが求められるものでした。あの時点で自分達のベストと言うセッティングで持ち込んでいたのですが、結果的にちょっと弱かった。確かに日産はGT-Rの時から鈴鹿で連勝している一方で、我々はGT-Rで2年間、いいところにはいくけれど結果に繋がらないという厳しいレースが続いていたサーキットです。色々と準備して挑み、予選でQ1は通ったものの、決勝はトラブルでほぼ1周もできずリタイアしてしまった。ポイントが取れなかったことはもちろんですが、いちばん残念だったのはフルディスタンスのレースデータを持って帰れなかったことです。その後の鈴鹿でのタイヤ選択だったり、マシンのセッティングに関してディスアドバンテージになってしまったのは事実です。
平峰:僕も日産が鈴鹿で強いとは思っていますが、個人的に鈴鹿では納得できる結果を残せていなかったので、第3戦ではしっかりポイントを取って表彰台に上がりたいという気持ちでした。ただあの時は土曜日の走り出しからちょっと難しいかもしれないという状況の中で、Q1に向けてミーティングを重ねてクルマをアジャストしてもらったらとても良くなり、Q1を通過できました。Q2でもバゲットさんが頑張ってくれ、良かったと思います。でも決勝でノーポイントというのは痛かったですね。開幕前から絶対にノーポイントは避けなければと話し合ってきた中で、まだ前半戦の第3戦でノーポイントというのは悔しい思いでした。ただ、やはりそこでなんとか立て直そうともがくのがTEAM IMPULなので、しっかり気持ちを切り替えなければという思いでした。
バゲット:鈴鹿はQ2と決勝スタートを担当しましたが、あまりいい週末ではありませんでした。公式練習で黄旗や赤旗があり、予選前のシミュレーションを行うことができなかったし、セットアップにも苦労していました。クルマはグリップが足りず、十分なダウンフォースを得られず苦労していました。Q2で初めてニュータイヤを使いましたが7番手はガッカリです。それでも決勝ではチャンスがあると期待していましたが、フォーメーションに入ってすぐにエンジンに怪しい兆候があり、時々ぐずって、また復活したりしていました。2周目のセクター1でマシンは完全にシャットアウトしてしまい、それで終わりでした。ポイントも取れず、タイトル争いを考えても厳しい結果でした。
ーーブリヂストンにとっても、この鈴鹿は一つのターゲットでした。第3戦、12号車と共にどのような準備を進めてきたのでしょうか?
ブリヂストン福崎エンジニア(以下、福崎):鈴鹿では他社さんに連敗しており、我々の解析でも鈴鹿では他社対比でピークグリップが低いというデータがあったので、少しですがピークグリップの底上げをしてきました。ピークグリップを上げようとするとデグラデーションやデュラビティに影響が現れやすいのですが、そこは損なうことなくピークグリップをわずかですがアップしたタイヤを準備できました。ただ、鈴鹿でポールを取れるぐらいピークグリップを上げていくのが目標ですから、それは達成できていなかったと反省しています。
ーー大駅さんがおっしゃっていた決勝を走ってデータを持って帰ることができなかった、という点については、やはり大きな問題でしたか?
福崎:12号車の走行データが欲しいというのは当然ありますが、GT500クラスでは15台中9台にタイヤを供給していますから、メーカーは異なれど12号車が走っていたらこんな感じだっただろうというのは推定できます。

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ーー第4戦は決勝2位。夏の富士としては気温が低かったですね?
大駅:確かに気温はあの時期にしては低かったと思います。ただそれよりも今年は第3戦から第4戦まで丸々2ヶ月以上間が空いて、時間を掛けてクルマを解析し色々と見直すことができました。ただ、テストもない状況だったのでいつもとは違う難しさを感じており、レースウイークに向けて漠然とした不安はありました。結果的にドライバー二人とも長いブランクがあってもしっかり準備して、私が思っている以上のパフォーマンスを発揮してくれ、彼らに助けられたレースでした。クルマとタイヤについては福崎さんと相談しながら、去年から使ってきたものを基準に、それを高温側として持ち込むのが本命でした。その性能をいかに使い切るかと言う考え方で土曜日のセットアップを確認していきましたが、気温が低かった点は我々にとって風向きは悪かったと思います。結果的に2位になりましたけど、もう少し気温が高ければ本当に勝ちを狙えるパフォーマンスでした。
ーーこの時はダブルスティント含め、どういう戦略を想定していたのでしょうか?
大駅:450kmレースの実績がないままなので、第2戦の富士と同じ内容でしたが、気温は第2戦よりも高いので、そこに関しては若干違うものを用意しました。予定としてはタイヤ無交換ダブルスティントを視野に入れつつ、バゲットでスタートして得意の追い上げでポジションを上げていき、SCのリスクはあるものの、とにかくファーストスティントを伸ばすという作戦でした。決勝の展開を見て24号車と37号車にターゲットを絞り、第2、第3スティントはドライバー交代なし、平峰のダブルスティントという常套手段のストラテジーでした。37号車もドライバーは変えなかったですよね?
ーーはい。宮田莉朋選手のままでした。
大駅:その2回目のピットも、37号車と24号車の出方を見るべく、いちばん最後にピットインしました。相手がタイヤ変えたということで、こちらも合わせてタイヤ交換し、短い最終スティントで勝負する形です。
ーー平峰選手は先ほど、第2戦富士の準備で体力を整えたとおっしゃっていましたが、実際にダブルスティントを走っていかがでしたか?
平峰:2ヶ月間のブランクで富士に挑むということで、自分としても若干の不安はありました。その間、スーパー耐久に2戦出ましたが、やはりGT500のダウンフォース、ハイグリップタイヤとは次元が違う。その強烈なGに耐えてクルマをコントロールできる体力を2ヶ月間キープしなければという思いで、できることはきっちりやって自分を追い込んでいました。実際に富士を走って、改めてSUPER GTは速いと実感しましたが、すぐに慣れてベストの状態に持っていくことができました。それでも決勝でダブルスティントを走って、疲れきったわけではあリませんがやはりタフでした。まあそれよりも、トップの37号車が見えていただけに優勝できなかったことがとても残念でした。
ーー実際、素晴らしい追い上げでした。
平峰:第2スティントは24号車と37号車が前にいて、そこにどんどん近づいていって「そろそろ仕留めにいきたいな」と思っていました。そのタイミングで37号車が先にピットに入ったので最終スティントで仕掛けようという感じだったのですが、そのピットストップでまず僕がエンストしてしまい、そこで少しタイムロス。コースインした1コーナーでは37号車が背後に迫っていると無線で知らされ、それほど攻めたつもりはなかったのですがタイヤをロックさせてオーバーランしてしまいました。その後も37号車を追い上げましたが、ラスト10周を切ったぐらいからじわじわ離されてしまった。追い付けたはずという思いもありましたし、結果的にトップから数秒差の2位で終わったのは悔しかったです。
ーースタートを担当したバゲット選手はいかがでしたか?
バゲット:富士では週末を通じでいいペースでした。予選7番手というのも、自分としてはそれまでの3戦よりもずっといい走りでした。決勝は平峰さんのパートを有利にするためにも、できるだけポジションを上げる必要があると理解していました。スタート直前に雨が降り、まだ濡れているところもあったので緊張しましたが、序盤はとてもいいペースで36号車や8号車、19号車をパスして3位までポジションを上げることができ、さらに37号車にも迫っていました。一方で、リヤのスタビリティに少し不安もあり、自分のミスでリタイヤするわけにはいかないというプレッシャーもありました。戦略は最高だったと思いますし、平峰さんの力強い走りとチームのグッドジョブのおかげで2位でフィニッシュし、鈴鹿の0ポイントからうまくリカバリーでき、シーズン後半に向けて大きな期待を持つことができました。

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ーーでは、いよいよ本題の第5戦鈴鹿についてお聞かせください.
福崎:第3戦鈴鹿では12号車は決勝を走ることができませんでしたが、他のブリヂストンユーザーのデータを見る限り、あのままでは鈴鹿でのリベンジが叶わない懸念があったので、シーズン中にできる範囲でギリギリまでスペックを工夫してピークグリップ側に振ったタイヤを用意しました。もちろん、デグラデーション等のデメリットはケアしつつ、です。
ーー第3戦ではチームとしてはあまりデータを得られなかったとのことですが、持ち込みはいかがでしたか?
大駅:富士で2位に入り、状況としては非常に重いウェイトで挑むことになりましたが、チームとしては最低でも連続表彰台を狙っていました。タイトル争いを考えると、ウェイトが重くなった時にどこまで走れるかが重要なポイントになります。それにしても、福崎さんは他チーム含めて色々なタイヤを見ているので安心感もあったかもしれませんが、第3戦で走れなかった私たちはクルマ的に不安を抱えていたというか、自信を持つことができず試行錯誤の中でした。タイヤに関してはブリヂストンに任せて安心していますが、不安な気持ちでレースウイークに入りました。土曜日の公式練習ではそれなりの手応えもありましたが、1位から15位までが1秒以内という僅差の中で49kgものウェイトを積んでいたので、結果的には15番手で最下位になりました。
ーー平峰選手もQ1を終えて「通った!」と思っていたとコメントしていましたね?
平峰:バランスのいいクルマでしたしタイヤもグリップしている感触があり、何より自分でも「攻め切ったぞ」という感覚だったので、これはぎりぎり通っただろうと思いました。それなのに15位で「マジかよ」という感じでしたね。さすがに最下位というのはショックでした。僅差とはいえ、最下位という事実を受け入れるのは難しかったです。
ーーエンジニアとしてはこの15番手、あるいはタイムについてどう感じていましたか?
大駅:ウェイト感度などを含めた計算式があるのですが、計算上ではQ1は厳しいと感じていました。それでもタイヤのパフォーマンスや公式練習の流れからどうにかQ2に行けるだろうと踏んでいた、そんな感じです。しかし、例え予選最下位になっても、うちのドライバーはネガティブになることなく、決勝に向けて集中してくれました。悔しい気持ちをしっかりと切り替えてくれたと思います。決勝に向けての基本的な考え方は第4戦の富士と同じ流れでした。また、間違いなくSCが入ると思っていたので、今回もバゲットがスタートして思い切りポジションを上げてもらい、平峰が第2、第3スティントというのがベースプランでした。ただ、このプランを成立させるにはファーストスティントでベルトランが燃料ぎりぎりまで走らないといけない。富士よりも鈴鹿の方が体力的に厳しいので、終盤追い上げるにしても、平峰のスティントが長くなるのは避けたかったからです。それをバゲットが見事に実行してくれたので、まずそこで第一関門をクリアし、その後のSCについてもどのタイミングで入るべきかを事前にシミュレーションしてドライバーに伝えていたので、ドライバーコールで飛び込んでもらうことができました。
ーー相当際どいタイミングだったと聞いています。
大駅:鈴鹿でSCが入るようなクラッシュがあり、かつSCでピットクローズにならないうちにピットに飛び込めるのは、ドライバーがセクター3にいるときだけなんです。そして、ドライバーがセクター3にいて、かつ何か事故を見て入ると言ったら130Rぐらいしかない。ファーストステイントを思い切り伸ばして、平峰のスティントで何かあったら入れるつもりで、何周目以降であればピットインウインドウが開くのかも無線で伝えていました。まさに準備していた通りのことが起きたわけです。もちろん、あのタイミングで我々がセクター1にいたら絶対に入ることはできなかったので、そこはラッキーでした。
ーーあれだけ急にピットに入るわけですから、交換するタイヤや給油の準備も大変だったのではないでしょうか?
大駅:そこはチームも徹底的にシミュレーションして準備していました。
ーー平峰選手は走っていて、どのような状況でしたか?
平峰:ミーティングでも何周目からピットウインドウオープンになるというのは伝えてもらっていましたし、最初のスティントを走っていた時に、ここでオープンになるから何かあったらすぐに飛び込めと指示されていました。少しでもポジションを上げようと全力で攻めていた時にセクター3、ちょうど130Rを立ち上がった所でアクシデントが目に入り、すぐに無線で「SCが入るかもしれない! 今130R立ち上がりにいる」と伝え、シケインを通過している時に「ピットに入れ!」と指示がきた。もう、ギリギリ。呼び込んでもらったのがシケインの1つ目と2つ目の間だったので、本当にカツカツ、ドンピシャのタイミングでした。
ーーバゲット選手はスタートを担当し、その後の平峰の走りをどう見ていましたか?
バゲット:最後尾とはいえスタートは良く、ペースも良かったです。序盤の混乱で目の前のクルマがスピンするなどしてタイムロスもありましたが、すぐに37号車に追いつきました。ただ、彼らのクルマはリストリクターがあるのにストレートでも速く、なかなか抜けませんでした。130Rでも速いしアグレッシブなドライバーだからこっちも無茶はできない。ようやくシケインで抜くことができたけれど、ずいぶん時間が掛かってしまいました。ここでいくしかないと外側に並びかけ、なんとか抜いたんです。それに、37号車の後ろにいる間は燃費もセーブして、スティントを長く伸ばすことも意識していました。ただ、後ろについてダウンフォースが抜ける状態で15周も走ったことでフロントタイヤの摩耗を早めることになってしまいました。ベストなスティントではありませんでしたが、可能な限りポジションを上げて平峰さんにマシンを繋ぐことができたと思います。
ドライバー交代した後は緊張して平峰さんの走りを見ていました。SCは確かにラッキーではあったけれど、チームがいい仕事をこなし、平峰さんが素晴らしい走りをしたことで手に入れた優勝です。彼がダートに落ちた時は心臓が飛び出すかと思うほどドキドキしました。
ーーレース後、平峰選手は「全部出し切った」とコメントしていましたね?
平峰:SC明けにまず23号車を抜いて、その後39号車も抜きました。ファーストスティントでバゲットさんが37号車をシケインアウトから抜くのを見てかっこいいと思っていましたから、自分もやる気満々で無我夢中でした。周回遅れのマシンに引っ掛かって130Rを飛び出したり、前を走るクルマを抜こうとしてデグナーカーブでグリーンに飛び出したりもしましたが、絶対に抜いてやるという気持ちで前に出ました。ただ、飛び出した影響で色んな警告灯が点いて、最後の方はかなり心配でした。ラスト3周ぐらいで17号車に追いついた時もあまり時間を掛けるわけには行かないと、一発で仕留めることができたのが良かったと思います。身体も今回まったく問題ありませんでした。きっとアドレナリンがバンバンに出ていたからだと思います。脳みそも集中力を保つことができ、最後まで攻め切りました。
――ブリヂストンにとってはようやく、念願の鈴鹿で勝つことができました。
福崎:最終的に表彰台をブリヂストンユーザーが独占しましたが、4位、5位に他社さんが入っています。第1、第2スティントで苦労していたメーカさんもあれば、一度は順位を落としたものの後半はいいペースのメーカーさんもありました。それがなかったらレースの行方はわかりませんし、彼らが万全な状態でいたらどうなっていたかは正直わからないですね。まだまだライバルを凌駕するような、圧倒的なグリップ力と言うところには達していません。しっかり継続してタイヤ開発しなければと反省しているところです。本当は1位から9位までブリヂストンで独占したかった、それが本音です。
ーー皆さんのお話を聞いているだけで、鈴鹿での興奮が蘇ってくるようです。シーズンはいよいよ残り3戦ですが、終盤に向けての意気込みをお聞かせください。
大駅:鈴鹿では予選で沈みながらも、絶対にレースを諦めないドライバーの強い気持ちが如実に現れたレースでした。劇的な逆転優勝で今はポイントリーダーにいますが、今のこの姿勢を続けて残りのレースを戦っていくしかないと思っています。次のSUGOは非常に厳しいウェイトを積むことになりますが、それでも絶対にノーポイントはしないという、当初の意気込みで挑みます。ウェイトはオートポリスで半減、最終戦もてぎではノーウェイトになりますが、そこで本当の実力が試されますから、しっかり優勝できるように準備して行きます。本当に鈴鹿はドライバー二人の力で勝ったと思っていますから、今度はクルマのポテンシャルをもう少し上げて臨みたいですね。
平峰:いいクルマといいタイヤ、いいチームに支えてもらってここまで来ているので、この勢いのまま努力して戦いたいですね。シリーズランキングではリードしていますが、これまでと変わらず自分のやるべきことをしっかりやり、自分を追い込んで戦っていこうと思います。まったく気は緩められないし、何かあったら簡単にひっくり返されてしまうでしょうが、自分のスタイルとして守りに入ることは絶対にしたくありません。
バゲット:チャンピオンシップはリードしているものの、ここからの3戦が何よりも重要。リードを保ったまま最終戦を迎えるのが目標です。SUGOのウェイトはとても厳しいですが、それでも必ずポイントを取らならければ。最終戦の前にもう1回テストがありますが、とても重要なテストになるでしょう。どのチームも同じ目標を掲げている中で、SUPER GTは常に厳しい戦いが繰り広げられます。最終戦の最終ラップまで勝負の行方はわかりません。今年TEAM IMPULで走るようになりましたが、星野一義という存在は僕にとっても本当にレジェンドです。星野さんからはとても重要なフィードバックや、モチベーションを受けています。調子の良い時はあまり前に出てきませんが、思うようにクルマが走らなかったり予選結果が良くなかったりすると、すぐに色々確認して全員にアドバイスをしてくれます。常に120パーセントでレースと向き合い、ドライバーが十分にパフォーマンスを発揮できなかったり、ミスした時には必ず何とかしようとしてくれる重要な存在です。
福崎:私が知る限り、TEAM IMPULがチャンピオンシップをリードする状況はおそらく2015年以来のことだと思います。そういう意味では浮き足立ってしまいそうですが、先ほど大駅さんも言ったようにTEAM IMPULはドライバーも強いし、速いし、チーム力もありますから、いつもどおりの全開魂で戦って貰えれば必ずタイトルを取れると信じています。その上で我々ブリヂストンも、常に全開で走る激しい入力に対してしっかりと性能を発揮できるタイヤを提供しなければと身の引き締まる思いです。
ーー最終戦前のテストに向けての課題は?
福崎:最終戦向けのタイヤを決めるテストになりますから、TEAM IMPULはもちろんですが、ブリヂストン装着チームがポールを取れるタイヤを用意する、テストすると言うことです。もちろん、ポールだけでなくポールtoウィンです。
ーー最後に、ブリヂストンにとってTEAM IMPULは唯一の日産勢ですが、そのメリット、あるいはデメリットと感じる部分は何でしょうか?
大駅:確かに日産勢の中ではただ1台のブリヂストンユーザーですが、日産は4台で3メーカーのタイヤを使っていますし、デメリットは一切感じていません。ただ第3戦の鈴鹿のように、レースを走れなかった時にデータがないということで少し不安な部分は正直あります。でもこれはクルマについての話ですし、それほど大きなデメリットとは感じていません。それ以上に、我々の1台だけに合わせて非常にきめ細かく対応いただいているメリットを感じています。
福崎:1つのチームにエンジニアが1名付きっきりですから、手厚くサポートできることはメリットだと思っています。
ーークルマがGT-RからZに変わって、特性やクルマ作りのポイントに変わりはあったでしょうか?
福崎:車両が変わったことによる特性変化はもちろんのこと、平峰選手・バゲット選手のドライビングスタイルやTEAM IMPULの戦略をサポートできるタイヤをレースに合わせて作っています。それも結局、ひとりが1台を見ているのでそこまで手が回るのだと思います。星野さんとブリヂストンは長い付き合いで結ばれています。鈴鹿の予選で例えビリだったとしても、星野さんはブリヂストンタイヤを絶対に見捨てないし、ブリヂストンタイヤだったら必ず決勝で巻き返せると、我々のことを信じてくれています。もちろん我々も星野さん、そしてTEAM IMPULが勝つために、やれることはすべて出し切りたいと常に思っています。この人のためなんでもやれる、頑張れる、そう言う人だと痛感しています。
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第5戦鈴鹿の劇的な逆転勝利の舞台裏、それを支えたTEAM IMPULのスピリット。私たちブリヂストンも、その熱い思いにしっかりと応えてなければなりません。いよいよ終盤戦に突入するSUPER GT。TEAM IMPULとブリヂストンの活躍にご期待ください。