いよいよ2022シーズン最終戦を迎えるSUPER GT。今回のBRIDGESTONE SUPER GT INSIGHTは、#17 Astemo NSX-GTにスポットを当てます。第7戦オートポリスでは公式練習でのクラッシュからドラマチックな逆転優勝でドライバーズランキング3位に浮上。トップとの差はわずか4ポイントと、最終戦はタイトル獲得を掛けた大一番!念願のGT500タイトルを目前に、チーム、そしてブリヂストンはどのような戦略を最終戦に向けて準備しているか、それぞれの声を聞いてみたいと思います。
●参加者
塚越広大選手、松下信治選手、田坂泰啓エンジニア(Astemo REAL RACING)
小島良太タイヤエンジニア(株式会社ブリヂストン)
――まずは第7戦オートポリスでの優勝おめでとうございます。トップから4点差でドライバーズランキング3位に浮上し、最終戦のモビリティリゾートもてぎで勝てばタイトル獲得という好位置につけています。今シーズンの戦いの中で、今この位置につけているポイントをお聞かせください。
田坂泰啓エンジニア(以下、田坂):チームとしては開幕戦から全戦いい結果を残そうという思いで戦ってきましたが、序盤は今ひとつポイントを取ることができませんでした。ただ、去年も一昨年も序盤に大量ポイントを取った結果、ウエイトは積まれるわ燃料リストリクターも掛けられてしまうわで、中盤がものすごく“つまらない”レースになってしまった。ハンデが降りる終盤の2戦になってようやく復活できるみたいな感じの戦いを2シーズン続けていたこともあって、今シーズンは確かに序盤戦はあまりポイントを取ることができませんでしたが、「ここで取っちゃうと中盤がつまらなくなる。中盤以降にがんばろう」とチームとして気持ちを切り替えました。第3戦の鈴鹿にはここからが勝負だという思いで臨み、得意なコースということもあって第3戦と第5戦の鈴鹿での2レースで2位表彰台。そこから菅生、オートポリス、もてぎと終盤3レースが勝負になると思ってきました。まあ、半分は言い訳なんですが、その方がシーズンを通すとおもしろいでしょ?という気持ちです。
塚越広大選手(以下、塚越):今年は松下選手が加入して新しい体制となり、田坂さんが言ったように序盤はなかなか結果の出ないレースもありましたが、ポイントとしては第3戦の鈴鹿で非常に感触のいいクルマを見つけることができ、それをベースに中盤以降を戦えたことが好調に繋がっていると思います。もちろん開幕戦からたくさんポイントを取りたいと思ってはいましたが、そうできなかった分はしっかり取り戻すことができた。僕自身、これまで長くSUPER GTを走ってきましたが、実は鈴鹿で初めて表彰台に上がったレースでした。そういう意味では自分の中でクリアしなきゃいけないことをクリアできたのは大きかったと思います。
――松下選手はチームを移籍してからこれまで、いかがですか?
松下信治選手(以下、松下):まずはREAL RACINGに入ってテストさせていただいた時から、クルマに乗る機会は十分にありました。去年走らせていたインパルのGT-Rと比べると、同じブリヂストンタイヤでも車種が変わるとかなり特性やフィーリングが変わったという印象でしたが、走り込むうちに慣れましたし、開幕前の岡山のテストも好調でトップタイムだったりしたので期待していました。いざ開幕したら苦戦しましたが、シーズンは先が長いので、中盤以降に挽回しようとポジティブに捉えていました。鈴鹿で2位表彰台に上がった頃から、クルマやタイヤに対しての信頼感も高まってきた、という感じです。もちろん取りこぼしも結構あると言えばありますが、その中でも運が良かったり、それこそ第5戦鈴鹿の給油トラブルも結局はレースを完走できただけでもラッキーだった、という考え方もできます。全体的に俯瞰してみれば運にも恵まれているし、どんどん実力がついてきていると感じます。最終戦を前にタイトル争いに残っていて、しかも他力本願ではなく自分たちの実力次第という状況ですから、すごくモチベーションになっていますし、何としてでもブリヂストンと共にタイトルを取りたいと思っています。全力を尽くします。
――力強い言葉、ありがとうございます。ところで塚越選手の言葉で「感触のいいクルマが見つかった」とありましたが?
田坂:鈴鹿はサーキットとしては少し特殊というか、大雑把に言うとクルマのセッティングも鈴鹿用とそれ以外のサーキット用で分かれています。タイヤへの入力がずいぶん異なるので、簡単に言うと鈴鹿ではシャキっとしたサスペンションを持ったクルマに、タイヤもシャキっとしたものが必要です。鈴鹿に関しては開幕前のテストから好調でロングランも良かったので、大きな間違いはないだろうというセッティングを第3戦の鈴鹿に持ち込み、それを確認したということです。さらにこのセットアップがかなり良さそうだということで、鈴鹿以外のサーキット、菅生とオートポリスも同じ流れのセットアップになりました。結果として、開幕戦の岡山から富士で作った鈴鹿以外のサーキット用のセッティングは第3戦ぐらいで捨て、それが割といい方向に流れてきていると感じます。
――逆に、ストレートの長い富士のセッティングが特殊になったのですね?
田坂:いえ、もう今年は富士のレースがないので考えていません。次に富士を走るとしたら、この鈴鹿セッティングをベースにしてもいいのでは、と思っています。
――鈴鹿はブリヂストンとしても課題のサーキットでした。第3戦にはどのようなタイヤを用意していたのでしょうか?
小島良太タイヤエンジニア(以下、小島):ご指摘のとおり鈴鹿では連敗が続いており、絶対に勝つことを目標に開発を進めてきました。3月に一度テストし、それを反映して4月にもテスト。これらのテストで確実にタイムアップできるタイヤを確認でき、そのタイヤで第3戦に臨んだのです。しかし結果的にはポールポジションは他社に獲られてしまい、決勝でも17号車の2位が最上位。まだ差があることを痛感し、さらに努力しなければいけないと結果を受け止めました。
――その後の開発が第5戦鈴鹿での12号車の優勝に繋がったのですね?
小島:そうですね。第5戦はレース距離も450㎞、3スティントの戦いになり、戦略的な自由度もある程度広いので、ブリヂストンとしては2スティント走らせられるタイヤも考えながら各チームに持ち込みタイヤの提案をしました。幅広い戦略を選択できるタイヤだったからこそ、12号車の優勝につながったと考えています。また、第3戦からの反省点としてやはり予選でポールを取れていないということがあり、そこも念頭に17号車にタイヤを提案しました。そのタイヤを持ち込んではいただいたのですが、実際に使ったのはもう1種類の実績あるコンパウンドの方で、それをうまく使いこなしてもらって2位に入っていただきました。
――鈴鹿で2回2位に入って調子は上向きでしたが第6戦菅生ではノーポイント。タイトル争いを考えると第7戦のオートポリス、チームとしては背水の陣だったのではないでしょうか?
田坂:鈴鹿ベースのセッティングに切り替えて菅生に臨み、予選ではトップを取れるぐらいの仕上がりでしたから、クルマについては自信があったというか「大きな問題は起きないだろう」という感触はありました。背水の陣と言っても、ドライバーも含めて全員が当然のこととして、通常どおりにやるしかありません。
――確かに。毎戦毎戦全力を尽くしているわけですからね。
田坂:そうです。あまり意気込み過ぎてどっさりメニューを考えても、そのうち当たるのは本当にわずかで、10個考えて1個か2個。事前のミーティングでは監督、ドライバー含めて皆でしっかりとミーティングし、投入すべきはこれだというのを絞り込んで決めました。オートポリスでは予選前にクラッシュもありましたが、流れそのものは大きく変わっていません。
塚越:タイトルの可能性はオートポリスでのポイント次第だということは誰もが重々承知していました。タイトルを取るためにどうするべきか? セッティングに関しても攻めるべきなのか、今あるものをさらに進化させるべきなのか、と色々な話をした中で、限られた時間の中でセットアップを試しながら決勝に向けて走行を重ねていきました。途中、クラッシュというアクシデントもありましたが、まずはあそこで予選に向けてマシンを修復してくれたメカニックとチーム力のおかげで流れをしっかりと戻すことができたし、それを受けてノブもしっかりQ1を突破してくれた。そういったひとつひとつの流れが繋がって、いいポジションから決勝をスタートできたのが大きいと思います。レースに関しては鈴鹿から自分たちの考えを信じてセットアップしてきたクルマなので、後は僕たちドライバーがどうタイヤをケアするかがポイントでしたが、最後までいいパフォーマンスのクルマで走ることができましたし、作戦もすごく良かったと思います。自分たちが理想とするレースを、全員でやり遂げることができた一戦でした。
松下:菅生については予選は良かったもののノーポイントで、タイトル争いとしてはかなりビハインドという状況でしたから、オートポリスで結果が出ない、さらに言えば優勝できなければタイトルは狙えないと感じていました。チームのメンタル的にはすごく瀬戸際だったし、自分としては崖っぷちで、ガツンと気合いを入れなければという思いで週末を迎えました。いつも以上に皆が真剣で、いつも以上に長くミーティングし、公式練習が始まって色々とセッティングを試す中で自分がクラッシュしてしまいましたが、チームに救われ、流れを切らさずに予選4番手を獲得してもらった。この「流れを切らさず繋がった」ことがポイントだと思います。クラッシュした後で4番手というのは想像していなかったので、流れも来ている、クルマにも戦う力は残っていると自信になりました。実際、決勝日の朝は根拠はないもののすごく落ち着いた気分で、「イケる」という感覚がありました。もちろん優勝は作戦がピタリとハマったとか、ドライバーがミスしなかったとか色々なことが重なっての結果ですが、思惑通りに優勝できたのはすばらしい落ち着きとチームのがんばり、後はドライバーが局所局所でがんばらないといけないところでがんばれたことが実を結んだのだと思います。
――クラッシュした後のマシンは決して完調ではなかったと思います。
松下:リアルのメカニックはガレージでもめちゃめちゃ細かく、神経を注いでミリ単位でマシンを組み上げていますが、現場でそのレベルを再現するのは時間的にも不可能でした。それは分かっていますが自分で蒔いた種ですし「クルマがちゃんとしてないからタイムが出なかった」なんて絶対に言いたくありませんから、そこは気にせずにマシンに乗り込んで、バランス的にどうこうというのはもちろんありましたが、最後は何がなんでもQ1を突破するという気持ちで押し切った感じです。根性論じゃありませんが、レースはヘルメット被ってコースインしたら、後は気持ちの勝負という部分があると思います。
塚越:Q1突破した後のノブのコメントを聞いてマシンをどうするか悩みましたが、やはりあの状況で何かを変えるという判断は難しかったので、そのままアタックしようと決めていました。バランスとしては少しアンダーステアでしたが、自分としては思っていたよりも上のポジションに着けることができました。タイヤも1周を通して高いパフォーマンスで機能してくれて、特にセクター3でタイムを稼ぐことができました。チームにいい流れを持ち帰ることができて良かったと思います。
――このオートポリス戦にはどんなタイヤを持ち込んだのでしょうか?
田坂:タイヤは毎回、小島さんからの提案を受けて、監督、ドライバー、そして僕と皆で決めています。「ブリヂストンが推奨するタイヤがいい」というのがうちの基本スタンスです。例えばオートポリスならばタイヤの摩耗が厳しい点を考慮して耐久性を重視するなど、サーキットによって重視するポイントは変わりますが、そこはチームと小島さんの認識にズレはありません。ですから小島さんが大枠のレンジを推奨してくれれば、それで大きな問題になることはありません。
小島:基本的には田坂さんがおっしゃる通りです。各レースに向けて、まずは我々ブリヂストンから推奨するスペックを提案し、それをベースにチームで検討していただき、最終的にはチームとブリヂストンで合意して決めています。オートポリスは摩耗とピックアップが厳しいサーキットなのと、寒いときはかなり寒い反面、暑いときはかなり暑くなる傾向があるので、総合的に広く対応できるものを選びました。他のサーキットで実績のある、新しいコンパウンドです。
塚越:小島さんにはいつも最後に「このタイヤだったら大丈夫です」と背中を押して貰っていますし、僕らもそれを信じてマシンに乗り込んでいます。非常に信頼関係が強いし、力強い仲間としてレースを戦ってくれています。
――ところで、先ほどタイヤについて「ケアして走る」と言っていましたね?
塚越:タイヤのケアは常に考えなければいけません。過去を振り返ってもクルマのセットアップやドライビングでタイヤに無理をさせて、それが最終的なタイムダウンに繋がったというケースがあります。色々な選択肢の中で自分たちに合うタイヤを選ぶのはもちろんですが、そこからレースに向けてどれだけそのタイヤに合うクルマに仕立てられるか、タイヤの100%を引き出せるかというのはチームとドライバーに掛かっていると思います。
松下:僕はSUPER GTは2年目なのであまりブリヂストンタイヤについて情報を持っているわけではありませんが、去年と比べて今年の、特に最近のタイヤはウォームアップ性能が非常に優れています。今まで色々なタイヤを履いてきましたが断トツにウォームアップが早い。じゃあ、ウォームアップが早い分、熱ダレするのも早いのかというとそれはない。そこは正直驚いています。レース全体の中で、オーバーテイクしてポジションを上げるチャンスがいちばん大きいのがスタートで、僕はスタートを得意としていますが、スタートで自信を持ってコーナーに飛び込んでいけて、その温度にすぐに入ってくれるブリヂストンのタイヤは僕たちの武器だと思っています。全力プッシュして、スティントも全周プッシュするというのが僕のドライビングスタイルで、走っていれば当然バランスのシーソーはありますが、そこはドライビングやセットアップで調整します。
田坂:性能のギリギリを攻めてタイヤを選ぶ以上、予選1周のアタックにしてもスティント全体のラップタイムにしても常に最大性能を発揮し続けられることはないので、ケアすることも、ある意味割り切ることも必要なのではないでしょうか。おもしろかったのはオートポリスの決勝前に、ブリヂストンから各チームに「第1スティントをミニマム周回数でタイヤ交換したら後半スティントはギリギリになります」ってアドバイスが回ったんですけれど、いざ蓋を開けてみたらどこのチームもミニマム周回数でピットに飛び込んできた。誰もブリヂストンのアドバイスを聞いてないじゃないかという(笑)。 後半のスティントが厳しくなろうとも、チームはそうやって戦略的に有利な方を選びます。
――その「ギリギリ」まで攻めても大丈夫だという安心感もあったのでしょうか?
田坂:そうですね。うちに関してはギリギリで速さはキープできていたと思います。
小島:セーフティーカーリスクを考えても戦略上、ミニマムピットインというのがセオリーなのは理解しているので、その上でドライバーさんにはなるべくタイヤをケアして走ってください、と伝えていました。またウォームアップ性ですが、去年のレース分析から他社さんのタイヤに多少ウォームアップでアドバンテージを取られていた面もあったので、そこで遅れを取らないように開発してきました。狙ったとおりの性能は出ていると思いますし、熱ダレなど相反する性能もスポイルされていないはずです。
田坂:タイヤについてはメーカーそれぞれがんばっていて、得意なところ、不得意なところがありますが、トータルで言えばブリヂストンがいちばんで、どのサーキットでも高いレベルを維持していると思います。とはいえライバルのことをあまり考えても仕方ないというか、我々は自分たちでできることをしっかり開発する。ドライバーも速く走る。目的は単純ですから、やるべきことをきっちりやっていけば結果は後からついてくると思います。
小島:我々ももちろん努力を重ねていますが、ライバルメーカーもどんどんポテンシャルを上げてきていますから、油断できないという気持ちで備えています。
塚越:各メーカーがしのぎを削り合っているので、今年は本当に差がなくなってきている気がします。最終戦のもてぎもおそらく、タイヤという意味ではほとんどタイム差のない予選になると思います。ただそれぞれに特性があるので、そこをうまく生かして僕たちブリヂストン勢でトップを取りたいですね。
松下:個人的には予選でライバルに前に行かれることが多いので、最終戦、全員ハンデなしのイーブンの戦いでポールを取りたい。そういうタイヤをぜひお願いします!
――続いて車両についてのお話を聞かせてください。田坂エンジニアは、同じブリヂストンタイヤを履いたNSX-GTの中でも少し特徴のある、ある意味「攻めた」マシン作りをしている印象があります。
田坂:その「攻める」という概念が何を差しているのかは分かりませんが、僕はただドライバーのコメントを聞き、「何が問題」かを考え「どうしたら良くなるか?」を考えるだけです。例えば2020年から車両が変わりましたが、じゃあこのクルマを使ってどう仕上げるのがいちばん速いのかとなったら、履いているタイヤを100%使い切るのか、90%しか使えないのかという違いだと思うんですよ。タイヤが本来持っているグリップを車体がきっちり引き出して、後はドライバーふたりのコメントを聞いて修正していく。普通に黙々とやっているだけです。だって、タイヤ性能の110%は絶対に無理でしょう? グリップ、耐久性、摩耗性など、それらをうまく、いかに高いパーセンテージでレースを走り切れるかが課題です。
――そこにはエンジニアそれぞれの思想ややり方、ドライバーのスタイルなど様々な方向からアプローチしているわけですよね?
田坂:私自身は何も特別なことは意識していませんが、ただ、強いて言えばドライバーのコメントからクルマの動きを想像するのは得意です。絵として脳裏に描くことができます。「あそこでフラつく」とか「うまくフロントが入らない」といった言葉から頭の中で「ああ、こういう現象で困っているんだな」と映像が浮かぶんです。今は皆データロガーを見ていますし、もちろんロガーを見てもクルマの動きは分かるんですが、自分はちょっと古いタイプのエンジニアなのでそれよりもドライバーからコメントを聞いたほうがイメージが湧きます。そこは自分の強みのひとつだと思っています。
小島:チームとタイヤ開発する中で、ドライバーはもちろんですが田坂さんからもアドバイスをいただくことはあります。そういうことから次の開発の方向性を考え、反映しています。
――それでは最後に最終戦に向けての状況を聞かせてください。まず、もてぎに向けてのタイヤテストはいかがでしたか?
田坂:このところウェットタイヤをしっかりテストする機会がなかったのですが、今回のテストでウェットタイヤをきっちりテストでき、準備してきた中でもいいものが見つかりました。また、大雨の影響による赤旗で最後まで走行できなかった影響で日程がずれたのですが、そこではスリックタイヤのテストも行うことができ、ロングランも含めて割といいテストができたと思います。ただ時間がない中でタイヤテストに専念したのでクルマのセットアップを十分進めることができず、そこは今、ちょっと悩んでいるところです。最終戦のもてぎに向けて、基本となるセットアップと、公式練習で投入する″タマ“をどうするか。
塚越:ウェットタイヤについてはこれまで確認できてこなかった部分をしっかり確認できたのが良かったと思います。自分たちが今抱えている問題点についてもブリヂストンとしっかり話し合うことができました。その中で、これまで持っていたものよりも高いパフォーマンスのあるタイヤを見つけることができたので、ウェットテストはとても有意義なものでした。
松下:ウェットタイヤに関しては本当にいい発見がありました。菅生ではライバルに敗れたと思っていますが、それに対抗できるタイヤで、最終戦が雨になっても勝負できるという自信が湧きました。ドライのテストは時間的にセットアップは進められませんでしたが、まずはタイヤが大事で、その次にセットアップだと思うので、セットはいじらずにタイヤ選択に注力しました。
小島:皆さんがおっしゃる通り、雨のため予定したメニューをすべてこなすことはできませんでしたが、有意義なテストになりました。ウェットタイヤについては第6戦の菅生で負けてしまいドライバーに申し訳なかったし、自分も苦しい思いで絶対にリベンジしなければと開発を進めています。今回新しいウェットタイヤを用意して一定のコンディションの中でしっかりと評価できました。ライバルとの差がどこまで詰まっているかは正直分かりませんが、これで最終戦を戦いたい、戦えるという感触は得ています。
――最終戦が楽しみになってきました! タイトル争いの決戦に向けて、意気込みをお聞かせください。
田坂:緊張する最終戦になると思います。オートポリスで優勝した直後から最終戦は緊張するから嫌だなあと思ったぐらいです。もちろん、いつもどおりやるしかないし、やるだけです。ここで変に緊張して要らんことしてクルマがどうこうってのは避けたいですからね。オートポリスと同じです。ちゃんとしたクルマをちゃんと走らせることができれば大丈夫。そういう気持ちで備えています。
――もてぎはオーバーテイクの難しいコースですから、決勝だけでなく予選も意識しないといけませんね?
田坂:もちろんそうですが、今回のテストでロングランがかなり調子いいという感触を得ています。予選で少々しくじっても最後まで諦めませんし、チャンスはあります。もちろん予選から前を狙いますが、ロングがいいというのが今のうちの武器だと思います。
塚越:まずは自分たちのレースをすることが大切だと思います。実力もあると思いますし、タイヤもしっかりテストすることができました。準備を整えて、持てる力をすべて出していい結果を残すことが目標です。その結果のチャンピオンというのがいちばん望ましい道筋ですから、実力をしっかり出せるレースをしたい。第5戦鈴鹿は給油のトラブルで2位に終わり、優勝を逃しました。僕自身、鈴鹿で優勝したい気持ちは強くありますが、あの時、優勝にこだわって走り続けて結果的にガス欠でコース上に止まっていたら……最終戦を終えて振り返ったときに、「あの鈴鹿での2位があってのチャンピオンだ」と思えるような、鈴鹿の結果が生きてくるようなレースにしたいですね。
松下:思いは皆同じでタイトルを望んでいます。テストも順調に終わりましたが、そこでアグラをかかずに妥協せず、しっかりと事前準備を整えなければなりません。悔しい思いをした菅生の後、それを糧に臨んだオートポリスがそうでした。意外と勝った後にそういう大事なことを見失いがちですからね。まあ、僕は特に、ですけれど。
――オートポリスの優勝記者会見でも同様のことを語っていたのが印象的でした。
松下:それぐらい先を見据えて、というか、それぐらいチャンピオンというのは大きいと思います。チャンピオンというのは年間を通じて、サーキットを通じて一番という証明じゃないですか。やはりそれは欲しいです。
小島:ホンダNSX担当の自分としては17号車にポールtoウィンでチャンピオンを飾っていただけるのが美しいと思っていますし、なによりも最終戦で優勝してブリヂストンとしてチャンピオンを獲りたい。そうなることを期待していますし、それを達成できるようなタイヤを持っていきます。がんばりましょう!
初のタイトルを目の前に最終戦に向け集中を高め、静かに、しかし熱い気落ちで準備を整えているAstemo REAL RACINGの面々。私たちブリヂストンも同じ思いで、その戦いをしっかりとサポートして参ります。最終戦もてぎでの戦いにご期待ください。