今シーズン、GT500クラス2台体制でSUPER GTを戦うARTA。8号車は鮮やかなオレンジ、16号車はブラック基調という対照的な「昼と夜」をイメージしたカラーリングです。その#16 ARTA MUGEN NSX-GTのステアリングを握る大津弘樹選手は、SUPER GTで初めてブリヂストンタイヤを履くことになりました。ドライタイヤからウェットタイヤまで、テストでたっぷり走り込んだ大津選手に、ブリヂストンタイヤの印象を、そして今シーズンへの意気込みを語っていただきました。


「強力な体制を武器にアグレッシブに戦います」
#16 ARTA MUGEN NSX-GT 大津 弘樹選手
2023_S-GT_Test_Fuji-1.JPG

2023_S-GT_Test_Fuji-2.JPG

マシンはこれまで同様にHONDA NSX-GTとはいえ、チームもタイヤも変わって文字通り心機一転となった大津選手。富士スピードウェイ公式テストでの取材時には、パートナーとなったスクール時代の同期でもある福住仁嶺選手も隣からコメントするなど、チームへの“ランニングイン”は順調そうです。
――お忙しい中、ありがとうございます。開幕を間近に控え、テストは順調でしょうか?
大津:チームが変わり、メンテナンスも変わり、チームメイトも変わりと、すべてが変わって色々と不安はありましたが、ここまでのテストはかなり順調に進んでいると思います。僕たちの16号車はエンジニアもタイヤメーカーも変わっているので何かと手探りな部分もありますが、福住選手は去年までもブリヂストンタイヤでしたから、評価にしても指標を作るにしてもとても助かっています。マシンを仕上げるにあたり、どこまで突き進んだらいいのか、これは間違った方向ではないかと判断が難しいこともありますが、福住選手の存在が、今、順調にテストが進んでいる理由のひとつだと思います。僕自身もタイヤにつては様々なコンディションで運転することができ、ブリヂストンタイヤへの理解を深めることができ、開幕に向けて自信を深めているところです。
――確かにスクール以外ではあまり接点はありませんでしたね。
大津:ないですね。スクールのSRS-F(現HRS-F)はブリヂストンタイヤでしたが、それを除けばカート時代にちょっと乗ったぐらいです。
――先ほど、「全部変わるので不安も」という言葉がありました。
大津:タイヤメーカーが変わるのってけっこう大きな変化だと思います。去年までは他社タイヤで2台体制でしたが、今年のGT500では10台のマシンがブリヂストンタイヤを履いていて、その、同じタイヤを使う中での競争になります。どれだけタイヤを使いこなせるのか、すぐに馴染めるのか、多少ですけれどそういう不安があったんです。でもいざ履いてみたら、とても走りやすいキャラクターですぐに馴染むことができました。
――逆に言えば大津選手には、ライバルメーカーで3年間タイヤ開発に関わってきた経験があります。
大津:はい。当時のチームメイトの伊沢拓也選手はそれまでブリヂストンでタイヤ開発に関わり、素晴らしいノウハウを持っていました。タイヤ開発について多くを学ばせてもらった3年間でした。そういう意味ではその経験を、今度は僕がブリヂストンと共に生かすことができると思います。ブリヂストンのタイヤは特に低速域やトラクションは強烈に掛かりがいい印象があり、メーカーによってそういうキャラクターの違いがありますね。

2023_S-GT_Test_Fuji-15.JPG

――タイヤメーカーによってキャラクターの違いがある?
大津:特性の違いだと思います。例えば富士スピードウェイであれば1コーナーとかBコーナーとか、1速や2速まで速度を落としてから全開で立ち上がるようなところで本当にトラクションが掛かる。セクター3のように低中速コーナーが続くセクションでの横グリップやゴムの粘着力も同様で、それがタイム差に表れます。
――そういうキャラクターの違いに合わせて走り方も変わりましたか?
大津:そうですね。僕が3年間培ってきた感覚からすると、ブリヂストンタイヤは低速域や中速域で懐が深いというか限界が高い。走りを変えるというよりも、そこをどう使い切るかを、かなり意識して走っています。例えば低速コーナーでは、ある程度横Gが残っている状態でアクセルを踏むときに、タイヤがズルッと滑るかどうか、そこの余裕が全然違います。ある程度横Gが残っているところで大丈夫かなと思いながらアクセルをバンッと踏んでいってもまだまだ横滑りしないで前に進む。そういった使いどころの差はあります。
――今回の富士合同テストではウェットタイヤもテストできましたね?
大津:ウェット路面で驚いたのが排水性の高さです。これはもうびっくりしました。こんなに濡れているのに普通に走れるんだと。ゴムの粘着力も高く、水に乗って浮いたときにもまだ路面にくっついているというか、完全に路面から離れてしまわない。クルマが暴れて滑ったとしても、4輪のうちどれかはまだ粘ってくれているので、コース上に留まることができます。完全に4輪が浮いてしまうとドライバーにできることはなくなりますからね。

2023_S-GT_Test_Fuji-29.JPG

――ありがとうございます。改めて、今シーズンを迎えるにあたり、チームとどのようにクルマを仕上げ、戦っていこうと思われているのか、意気込みをお聞かせください。
大津:テストで好調でもレースになれば、きっとまた何か新しい問題に直面するはずです。例えばピックアップなどもよく言われる問題ですが、そういう課題にどううまく対応できるかが、SUPER GTで勝てるかどうかのカギになります。ここまでのテストで、一発では結構いいタイムを出せていますが、ロングランでは中の上ぐらいという印象なので、そこを底上げしてロングランでどう戦っていけるかが本当のカギになると思います。開幕戦の岡山までに、福住選手、チームと力を合わせていいクルマを作っていきたいと思います。
――8号車はどういう存在でしょう? 共にマシンを速くしていく仲間? それとも手ごわいライバル?
大津:両方ですね。もちろん手ごわいし、同じ条件で走っている8号車に負けたくないという気持ちは強くあります。かといって敵対視するわけではなく、そこはチームとしてデータ共有し、セッションの進捗に合わせてコミュニケーションを取り、2台体制のメリットを生かしていきます。
――我々ブリヂストンにできることは何でしょう?
大津:今のところ、ウェットでもこんなにグリップするんだ、ロングででもこんなにタイム落ちせずに走ることができるんだ、というブリヂストンタイヤの良さを体感していますが、ただ、その同じタイヤを履くクルマが何台もいるので、逆に自分たちに合ったタイヤを見つけるのが難しい。ライバルを見てあのタイヤが良さそうだからといって、僕たちのクルマにそのタイヤが最適とは限らないですからね。まあ、ピックアップが付かず、コンスタントに速く走れるタイヤをお願いします。ピックアップについてはタイヤだけでなくマシンのセッティングやドライバーの走らせ方など、様々な要因があると思いますが、ブリヂストンが想定するタイヤの使い方と、クルマに適した走り方が違うとまったく走れなくなってしまいます。去年までは用意されたタイヤにクルマを合わせることしかできませんでしたが、今年はタイヤもクルマに合わせてもらえるので、そこはある意味、選択肢が広がると思います。
――持ち込みタイヤセットが減ることについては?
大津:基本は本命タイヤを多く持ち込むわけですが、それを外してしまうことが不安です。ブリヂストンタイヤは幅広いレンジに対応できるので、低温でも高温でも大外ししなければ走れるという印象はあり、そういう意味では仮に外してしまった場合でもあまり心配ないのかもしれませんが、やはり短いセッションの中でニュータイヤを履けないまま予選を走ることになる場合もあるかもしれないと思っており、それは結構困るな、というのがドライバーとしての正直な感想です。

――今シーズンへの意気込みは?
大津:とにかく速さを追求していきたい。これまでポールポジションを取ったことはありますが、優勝はまだありません。まずは福住選手と一緒に1勝を目指します。その上で無駄なレースをなくしてタイトル争いに絡んでいきたい。シリーズタイトルに向けて、すべてのレースに集中していきます。これまで「ドライバーとして相手をツブすぐらいでいかなきゃダメだ」と言われることも多く、そういう意味では今年はもっとアグレッシブに戦わなければと思っています。やさしくて真面目なドライバーというキャラクターだけでは嫌なので、強力な体制だからこそ、アグレッシブに。もちろん自分の性格は変わりませんが、攻め方は変えられる。今年はがんがん攻めていきます。


2023_S-GT_Test_Fuji-25.JPG


福住選手と共に真面目なイメージの大津選手ですが、「それは猫を被っているだけです」と声を揃えるふたり。「アグレッシブに攻める」という言葉どおりに、熱い戦いで今シーズンのSUPER GTを盛り上げてくれることでしょう。ブラック基調にカラーリングを刷新した“夜の16号車”の活躍に、どうぞご期待ください。