Vol.27 au TOM'S GR Supra、2年ぶりのタイトルに向けて躍進!

開幕から3レースを終えて優勝1回、2位1回をマークし、偶然にもカーナンバーと同じ36ポイントを獲得してシリーズランキング首位につける#36 au TOM’S GR Supra。サーキットを問わず高いポテンシャルを見せている好調の理由、そして2021年に続くタイトル獲得の可能性をチームの皆様とブリヂストンのタイヤエンジニアに語ってもらいます!


●参加者
TGR TEAM au TOM'S
伊藤 大輔監督、坪井 翔選手、吉武 聡エンジニア


株式会社ブリヂストン
小川雄也タイヤエンジニア

2023_S-GT_016.JPG

――お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。第3戦を終えてシリーズランキング首位につける#36 au TOM’S GR Supraの皆さまと、その36号車を担当するブリヂストンのタイヤエンジニアに、好走の秘密や夏場に続く富士と鈴鹿、そしてタイトル獲得への意気込みをお伺いしたいと考えております。まずはこれまでの3レースを岡山からを振り返っていただきたいのですが、伊藤監督からお願いできますでしょうか?
伊藤大輔監督(以下、伊藤):開幕戦の岡山は雨絡みの天気でしたが、タイヤは十分に戦えるパフォーマンスがあると感じていました。決勝も天気が目まぐるしく変わる状況でしたが、ウェットタイヤもドライタイヤもパフォーマンスは非常に良かった。展開的には残念なピット作業ミスはありましたが、十分に優勝争いできる状況でした。
吉武聡エンジニア(以下、吉武):予選は雨だったので、赤旗中断等のリスクを考え早めにタイムを出す予定でしたが、実際にはコンディションが徐々に良くなって好転し、そこにタイヤの内圧を合わせきれずにQ1突破できませんでした。決勝はドライのペースも良かったですし、ウェットタイヤに交換してからも雨量が多いときは速かったし、減ったときもトップ争いをしていました。最後のピット作業が悔やまれますね。
伊藤:ドライもウェットも、雨の量やコンディションで差はありましたが、随時ペースは良かった。
坪井翔選手(以下、坪井):予選でQ1落ちしてしまったので追い上げる展開になりましたが、決勝のペースは本当に良くてトップまで追い上げることができました。逆に言えば雨が絡む展開だったからトップまで上がることができたという面はありますが、雨の量によって得意不得意が出る中で、苦しいときも耐え抜いて、コンディションが合っているときにはライバルを圧倒するペースで走ることができた。やれることはすべてやれたレースだと思っています。
――雨量が変化し、ウェットタイヤの総合的な性能の試されるレースでした。
小川雄也タイヤエンジニア(以下、小川):ライバルメーカーが新しいパターンのウェットタイヤに切り替えてからテストやレースで何度か走る機会がありましたが、報道を見ても雨量が多いとブリヂストンは速いが雨量が少ないコンディションでは劣勢という勢力図だと言われてきました。岡山は雨の影響で予選時間が延長されたり、決勝は逆に赤旗で終了したりと、全体的には我々が得意とするコンディションよりも、不得意なコンディションでの走行が多かった。それでも36号車はスタートからハイペースで、雨が降ってからもトップまで追い上げてくれた。我々が苦手と言われている雨量の少ないコンディションにおいてもライバルメーカーとほぼ互角のペースで戦えたことは、我々が提供しているタイヤのパフォーマンスを最大限に引き出していただいた結果だと思っています。
――今年のウェットタイヤはどのような部分が強化されているのでしょうか?
小川:雨量の少ないときの性能が課題でしたので、そこに重点を置いて開発を進めてきました。新しいパターンもテストしてきましたが、現状では我々の長所である雨量が多いときの優位性が低下すると判断し、投入を見送っています。ブリヂストンとしては雨量が多いときのパフォーマンスは絶対に落としたくありません。雨量が多いから走れませんとなってしまったらレースが成り立ちませんし、急に雨が強くなったときにクラッシュするような事態も避けなければならない。開幕戦で見えたように既存のパターンでもほぼ互角の戦いはできたと思っていますし、さらにゴムとの合わせ込みなど開発を進めて、今後も雨量の多いところから少ないところまでカバーできるタイヤパターンとゴムの開発を続け、どういう状況でも、すべてブリヂストンが勝てるウェットタイヤを目指していきます。
――今年36号車はドライバーの入れ替えもありましたが、開幕までにどのように体制を整えてきましたか?
伊藤:クルマに新たなアップデートはできませんからタイヤ開発が大きなポイントでしたが、それ以前に体制が大きく変わりました。ドライバーはふたりとも安心できるというか、ポテンシャル的に申し分のない組み合わせですから、後はドライビングスタイルの差やコミュニケーションはどうなのだろうと、最初は注意してみていましたね。ただ、ふたりのドライビングが完璧に合うことはなくても、互いにうまく調整しているというか、ふたりの会話の中でもそういう面が見て取れましたし、コミュニケーションに問題はないと感じていました。まあ僕の立場としては、エンジニアとドライバーのやり取りの中で、タイヤ選択や戦略が変な方向に入り込んでいかないか、その部分だけを注意していました。それさえ間違わなければドライバーもエンジニアも高いパフォーマンスを発揮できる面々ですから安心していますし、後はミスなくレースすることを心掛けています。
――実際、富士で優勝し鈴鹿でも2位。どのレースでもマシンパフォーマンスはとても高いですね。
吉武:2021年くらいから岡山と富士については、割合マシンが仕上がっている状況なので大きく変える必要はなく、毎年少しずつビルドアップしてきた結果が今のマシンだと思っています。ドライバーのコンビネーションにしても、F3でふたり一緒に戦っていた時代にエンジニアとして僕が担当していたこともあり、どちらか速い方のセッティングをコピーしてもうひとりが乗るというやり方を当然のようにやっていました。ですから互いにアジャストするのはふたりとも得意というか、結構慣れていると思います……が、どうですか坪井さん?
坪井:そのとおりです。多少好みの違いはありますが、その時々で、どちらかの意見を飲み込みながらドライビングを合わせ、ふたりで臨機応変にできていると思いますし、それが結果にも表れていると思います。まあ、宮田莉朋選手がどう思っているかは分かりませんけれど。(笑)

_76A4968.JPG

――岡山は残念でしたが、第2戦の富士450Kmではドライコンディションのレースで圧勝。タイヤ本数が昨年よりも1セット減での長距離レースでしたが、その影響はいかがでしたか?
小川:昨年まではだいたい高温側のハードと低温側のソフトの2スペックを持ち込んで、公式練習でそれぞれを比較し、適した方を予選・決勝に向けて選ぶというのが一般的でした。1セット減ったことで、持ち込み方によってはどちらかひとつのスペックで公式練習から決勝まで走るしかないケースも出てきましたね。それだけに持ち込みタイヤの重要性が高くなっていますし、タイヤそのものもできるだけ幅広い温度域をカバーできることが求められます。来年にはさらに1セット減るという話もありますから、従来以上に幅広いコンディションでパフォーマンスを発揮できるタイヤが求められると思っています。
――チームによって持ち込みスペックを1種類に絞ったり、2種類に分けたりと戦略や考え方も分かれますね?
伊藤:難しいですね。どこのチームも条件は一緒ですが、やはり選択するタイヤを間違えるとレースウイークが台無しになってしまう恐れがあります。ただ現状、小川さんがおっしゃったように「幅広いコンディションで使えるタイヤ」を開発してもらっているので、そういう意味で助かっている部分があります。
とはいえタイヤ選択は本当に難しい。エンジニアは朝から晩まで過去のデータを解析してドライバーとやり取りしています。たまに寝ているときにピコンピコンと携帯が鳴って、見るとエンジニアとドライバーがやりとりしている、ということもあります。綿密な分析と天気予報で判断しながら決めていく難しさがあります。
吉武:去年までは土曜の公式練習で走って、どちらかいい方のスペックを選ぶことができましたが、1セット減ったことで僕の睡眠時間は確実に減りました(笑)。レースの1週間前ぐらいに持ち込みタイヤのスペックとセット数を決めるのですが、だいたい1カ月前ぐらいから天気予報と睨めっこしてハードとソフト、どちらを多めにするかを決めます。さらにサーキットの設営日にどちらのタイヤをマーキングするか決める。基本的に晴れだったらハードと決めているのでそれほど悩みませんが、土曜日に実際に走ってロングのフィーリングを確認して、予選、決勝という風に決めています。
――メインに選ばなかったスペックを決勝で使うこともあるのですね?
吉武:レースウイークに本当に雨が降らないという予報であれば決め打ちしてハード側だけ選ぶこともできますし、それが理想です。天気予報が安定して晴れだと嬉しいですね。富士のときは晴れが続く予報だったのでハード側を多めに持っていき、鈴鹿のときは天候が怪しかったので半々で持っていって設営日に選びました。
――半々で持っていったとすると、決勝ではメインでないコンパウンドも使ったのでしょうか?
吉武:鈴鹿の決勝では、ハードでスタートし、途中でソフトに切り替えました。
坪井:富士はハード側、決勝を見据えたタイヤ選びでしたね。オーバーテイクしやすいサーキットですし、決勝で強いタイヤを選んだのだからと心配はしていませんでしたが、ドライバーとしてはどうしてもタイムが出ないと焦ってしまう。予選でしっかり前に並びたいので、タイムの出る方のタイヤを選びたいのが本音です。結果的にQ1を突破して予選6番手。ブリヂストンのタイヤはドライバーがしっかりとタイヤを温めてパフォーマンスを引き出すことができれば、ハード、ソフト、どちらのスペックでもパフォーマンスを出せるので、Q1さえ通れば決勝で全部抜いてこられるという自信はありました。
――2スペックのタイヤがあるとき、それぞれに合わせてマシンのセッティングを変えることも?
吉武:基本的にはハードやソフトで前後バランスがそう大きく変わるものではないので、ちゃんと温度レンジに合っていればどちらでもパフォーマンスは発揮できると思っています。

_D7A3871.JPG

――続く第3戦鈴鹿では40kgのサクセスウェイトを積んでいましたが、それでもポールポジションでした。
伊藤:正直、予想外な結果ではありました。公式練習からパフォーマンスは高かったので、いいところを狙えるとは思っていましたが、40㎏積んだマシンでよくがんばったと思います。
吉武:あのポールポジションはふたりのドライバー、宮田選手と坪井選手の腕でしょう。スーパーフォーミュラでも今絶好調ですし、それ以外には考えられません。もちろんタイヤに関しても去年のデータ、4月のテスト結果などを踏まえて温度レンジを間違えないように選んできましたから、そこもピッタリ合ったと思います。
――チームが想定していたタイムを上回った?
吉武:もう、圧倒的に速かったです。鈴鹿はぎりぎりQ1通過できればいいかな、ぐらいの感じでしたから。
坪井:いい意味で、自分でもかなり驚きでした。Q2を走るのは1年ぶりぐらいでしたが、走り出しからクルマも決まっていたし、タイヤも良さそうなので「これはワンチャン、あるかな?」と期待しましたが、やはり40㎏ですからひとつでも上のグリッドにつければという感じでした。ただ、他車のペナルティによる繰り上がりポールだったので嬉しさは半減しましたね。実は僕、GT500での初ポールだったんですが、結果を知ったのは夜の9時。決勝に向けてミーティングの真っ最中で、もう気持ちも決勝に切り替わってしまっていたので。
伊藤:36号車はここ2年間、鈴鹿はダメだった。ダメというか、我々が選択したタイヤのパフォーマンスを発揮させるのが、思ったより難しい状況だった、というのがあります。ブリヂストンが幅広いコンディションで性能を発揮するタイヤ開発をしてくれ、その上で小川さんと「鈴鹿に見合ったタイヤはこの辺りのタイヤ、だけどうちのスープラについてはその中でもこっち方面だよね?」ということを散々話し合って、要はきちんとデータ解析できたことが、鈴鹿での好調に繋がっていると思います。
吉武:クルマは一昨年から大きく変わってはいないので、タイヤ開発が良かったと思っています。温度レンジについても、いろいろ種類を作っていただく中で、今ひとつどれがベストか見極められなかった。徹底的にデータを見直して、このレンジがいいのでは? と選べるようになったことが効いていると思います。トムスには過去のレースの路面温度や気温を含めてすべてデータは残っているので、それをまとめたり、当時の天気予報を見直したり、ドライバーのコメントをおさらいしたり。なので、やっぱり睡眠時間がなくなります(笑)。
坪井:吉武さんは本当に寝ずに考えてくれますし温度レンジを外さないので、後はタイヤのパフォーマンスを出し切ることがドライバーの役割だと思っています。鈴鹿に向けてブリヂストンが幅広くタイヤを開発してきてくれ、それがしっかり結果として現れているので、かなり改善して鈴鹿を戦えたと思っていますし、ドライバーとしても大きな進歩を感じた一戦でした。
小川:鈴鹿ではずっとライバルにやられていましたが、昨年の第5戦でようやく勝つことができました。その上で今年も鈴鹿での勝利を開発目標に掲げ、まずはベストタイムを底上げしようと何回かテストして、4月の鈴鹿テストでは宮田選手に乗ってもらってコンパウンドを選びました。そこでベストタイムも出るし、タレも悪くなさそうなものを見つけて、あとは温度レンジなどをアジャストして第3戦に持ち込みました。まだまだ課題というか伸び代はあるので、第5戦の鈴鹿に向けてまさに今、取り組んでいる真っ最中です。
――チームからも、さらにリクエストがあるのでは?
伊藤:それはもう、タイムが出てタレないタイヤがベストです(笑)
いや、本当に近年はそれに近い感じになっているので、方向性は間違っていないと思います。僕は細かいことは分かりませんが、技術屋さんが考える方向で、さらに煮詰めていって欲しいと願うばかりです。

2023_S-GT_019.JPG

――ありがとうございます。最後に、これからの中盤戦、そして後半戦に向けて意気込みをお聞かせください。
伊藤:いつもと違うことは何もしません。このレースで重要なことは、シーズンを通じて安定したリザルトを残していくこと。それがタイトル獲得への近道だと思っています。レースウイークではどんなタイムが出たか、何位になったかがフォーカスされますが、あれだけ混雑する中でドライバーがミスなく走り、ピットもミスなくマシンを送り出し、そして戦略もミスしないように、と様々なことが求められています。しかもレース前から過去のデータをきっちり解析して天気予報から目を離さずにタイヤを選び、マシンのセットアップを出す、ということをずっと続けている。監督として、エンジニアがじっくり考えたこと、それに対してドライバーが思っていることをしっかりと把握して、常に安定したセットアップとタイヤ選択、そしてレースウイークの戦いを維持することがチャンピオンへの一番大切なポイントです。すべてをしっかりとこなすことができれば、タイトルは必ずついてきます。
吉武:坪井選手でも宮田選手でも、夜中の相談は大歓迎です。どうせ起きてますから全然大丈夫。後半戦に向けて、戦い方は何も変わりません。一戦一戦、僕らは勝ちを狙いますし、手を抜くこともない。あとは自分たちの立ち位置を見失わないことだと思います。サクセスウェイトを積んでいることを踏まえて、ひとつでも上のポジションに上がれるようにコツコツと戦うだけです。そして最終戦でサクセスウェイトがなくなったときにきっちり勝って、チャンピオンを取りにいきます。
坪井:ドライバーは毎戦、GT300との混走で毎周異なるシチュエーションの中で状況判断を迫られています。そこでミスすることなくパフォーマンスを発揮すること、これが何より重要です。ここからはサクセスウェイトも重くなり、それを意識したレースになりますが、富士も鈴鹿も相性のいいサーキットですからしっかりとポイントを重ねていきます。2年前のタイトルはランキング5位という、追う立場からライバルの順位もあっての大逆転でしたが、今年はしっかり自力でタイトルを取りたい。
小川:昨年、シーズンが終わって坪井選手、宮田選手のラインナップが発表されたときから、36号車のパフォーマンスには期待しています。ふたりとも一発はもちろん速いし、レースでもとにかく強い。かつ、今年は450kmレースが多いので、そういう意味でもふたりのパフォーマンスを助けられるタイヤを用意すれば、サクセスウェイトが重い中でもきっちりとポイントを積み重ねてくれるはず。今年はブッチギリでブリヂストン装着チームがタイトルを取れるようにしたいですね。そのためにも、僕としては間違ったタイヤを出すことだけはないように、しっかりパフォーマンスの高いタイヤを毎戦毎戦、エンジニアとドライバーと打ち合わせしながら供給していくだけです。それさえできれば絶対にタイトルは取れると信じています。


レースが開催されるのは予選日と決勝日の2日間ですがその手前から、テストはもちろんデータ解析などチームは綿密な準備に取り組み、そうして仕上がったマシン性能をドライバーが限界まで引き出す。そんなレースの背景が垣間見えた座談会でした。もちろん、その足元をしっかりと支えるために、我々ブリヂストンも決して開発の手は緩めません。ブリヂストン装着チームの活躍にぜひご期待と熱い声援をお願いいたします!