Vol.28 2024年シーズン NEWブリヂストンドライバー紹介 PART1 ~#23 MOTUL AUTECH Z~

SUPER GT 2024シーズンも間もなく開幕! どんな素晴らしい戦いが繰り広げられるのか、今からとても楽しみです。特に今年は、NISMOチームが加わって、GT500では全15台中、実に12台がブリヂストンPOTENZAを装着することに。さっそくニッサンの代表チーム#23 MOTUL AUTECH Zのドライバー、千代勝正選手とロニー・クインタレッリ選手に、シーズンへの意気込みと、何よりもブリヂストンPOTENZAの印象を伺いました。


「もう20年、ブリヂストンに片思い」
千代勝正選手


「タイヤ開発競争の最前線をサーキットで」
ロニー・クインタレッリ選手

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――お二人は去年まで、長らくブリヂストン勢の強敵という存在でした。また千代選手は3号車から23号車へと移籍し、二人揃ってドライバーコンビネーションも変わっています。今シーズンこれまで何度かテストも行っていますが、まずはマシンの仕上がりやタイヤの印象をお聞かせください。
ロニー・クインタレッリ選手(以下、RQ):私たちは去年までずっとライバルとして反対側からブリヂストンを見ていましたが、その性能へのリスペクトもあって最初のセパンテストはとても楽しみでした。コンパウンドや構造など、膨大なスペックのタイヤが用意され、走り始めこそタイヤの温まり方に多少違和感はありましたが、その後は問題もなく、タイヤのフィーリングはとても良かったですね。セパンでも国内のテストでも、ブリヂストンタイヤは暑い時も寒い時もロングランが安定しています。一発のタイムも出せますし、ロングランでタイム落ちがない。さすがだ、と改めて感心しました。
――嬉しい言葉をありがとうございます。
RQ:僕は1999年にカートでヨーロッパ・チャンピオンを取った時にブリヂストンタイヤを履いていましたし、2002年のカート世界選手権でもずっとブリヂストンでした。あの年は3勝してランキングは2位。当時ブリヂストンはF1に参戦していて、そのエンジニアの方々がよくカートのレースにも来てくれていましたから、ブリヂストンのことは若い頃からよく知っていたんです。日本に来てF3でもチャンピオンを取り、当時のフォーミュラ・ニッポンもずっとブリヂストン。この13年間はSUPER GTでライバルメーカーのタイヤを履いていましたが、カートでトレーニングする時にはブリヂストンタイヤを使っていましたよ。
千代勝正選手(以下、千代):多分、ブリヂストンさんから見たら僕らは厄介なライバルだったと思いますし、僕らもブリヂストンを強く意識していました。自分はこれまでブリヂストンと縁がありませんでしたが、SUPER GTで経験を重ねてきた今、タイトル争いの相手であったブリヂストンと一緒に仕事できるのがとても嬉しいです。去年までブリヂストンの強い部分を嫌というほど思い知らされてきましたが、その中身は知らなかった。オフシーズンからのテストで実際に走り、そのキャラクターを感じて、やはり技術力を痛感しましたし、勉強になることも多いです。

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――外から見ていた部分と実際に走っての感触を擦り合わせたりも?
千代:先入観を持ってしまうとシンプルに感じられなくなるので、あまり想像はしませんでした。人から聞く話も多々ありましたが、ゼロベースで担当エンジニアの話を聞き、実際に走らせて感じたことを伝えるよう心掛けています。ロニーさんも言っていますが、ブリヂストンのタイヤはカートを始めた頃からの憧れで、アルバイトしたお金でレースに新品タイヤを投入する時は毎回、そのグリップが楽しみでした。一緒に仕事することはありませんでしたが、ある意味もう20年くらい僕は片思いのままで、逆にライバルだったからこそずっと履いてみたかったタイヤです。自分のカートトレーニングではブリヂストンタイヤを買って履いていましたが、GT500でも似たフィーリングがありました。
RQ:それはあるね。
千代:カートで結構な時間走っていましたからね。それがGT500ですぐに馴染むことができた理由のひとつかもしれません。
――そのキャラクターについて、もう少しご説明ください。
RQ:路面の温度やコンディションの変化に対しての対応幅がとても広い。岡山の公式テストで予選シミュレーションをやりましたが、2周連続でタイムアタックできるのでドライバーとしては大変助かります。練習走行で十分に走り込めずに予選でイチかバチかの一発勝負になる時もありますが、そういったミスの許されない状況で「2本目のアタック」が残されているのは心強い。また、ロングランで路面温度が変化しても、幅広いレンジで走ることができるので使いやすいですね。
千代:キャラクターはロニーさんの言うとおりです。それに、付け加えればタイヤの動きが素直で感じ取りやすいですね。タイヤの動きにピーキーなところがなくマイルドなので、ドライビングをアジャストしやすい。これもコンスタントにタイムを刻める要因だと思います。
――お二人それぞれにドライビングのタイプがあると思います。レースを戦う上で、ブリヂストンタイヤと共にどうクルマを開発し、どう戦おうというイメージはありますか? 例えばクインタレッリ選手は序盤からアグレッシブにポジションを上げてくるイメージがあります。
RQ:それ、千代選手も一緒!
千代:二人共スタートドライバーだったので、今年はどちらがスタートをやるか相談しないといけないですね。もちろん、どっちもできるというのは強みだと思っています。
RQ:そう。このコンビネーションはレース戦略にも生きてくるはず。ドライビングスタイルも似ていて、どっちも「突っ込み気味」の乗り方。コーナー進入で突っ込んで、そこでのタイヤの接地感を求めるタイプです。今のところブリヂストンのタイヤは、去年までの走りと同じ乗り方で突っ込んでいってもちゃんと反応してくれる。もちろん開幕までにさらに煮詰めていくつもりですが、とにかく突っ込んでもタイヤがしっかり反応してくれ、グリップが抜けてアンダーが出るとか、急にオーバーが出るとかがない。それがいちばん嬉しいですね。
千代:ロニーさんとは本当にドラビングスタイルやクルマの好み、セットアップのバランスの好みが似ていて、ここまでとても順調です。タイヤはブレーキング時のスタビリティに優れていますね。あと、僕らは結構冗談っぽく「ストレートが得意」って言ってます。ストレートって何もないけれど、やはりコーナーの立ち上がりがとても大事なので、コーナーの立ち上がり、タイヤの横と縦のグリップの合わさった、本当にポテンシャルが現われるところでクルマを前に進められている気がします。前へと蹴ってくれる。だからストレートが得意、ストレートを生かせるんです。

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――タイヤメーカーが変わったことでセットアップやドライビングなど、どのような変化やアジャストが必要でしたか?
RQ:タイヤが変わったことで何かこれを変えなければいけない、ということはまったくありませせん。それよりも今年はレギュレーションで予選でのタイヤの使い方が変わったので、そちらへの対応が必要です。
――タイヤセット数が減り、予選Q1、Q2を同じタイヤで走りますね。これは公式テストでもシミュレーションしましたが。
RQ:ええ。ユーズドタイヤでのアタックは懸念していたほどには影響ありませんでした。去年まではQ1もQ2も新品タイヤを使っていて、特に Q2でタイムアップするワクワク感が大きかった。千代さんも僕もずっとQ2を担当していたので、その楽しみがなくなるのは残念です。岡山では千代さんがQ1、僕がQ2を担当しましたが、千代さんがタイヤを温存してくれたせいか、Q2でもまだ多少グリップは残っていました。ブリヂストンはユーズドタイヤでのタイム落ちが少ないと感じています。
千代:予選ではQ1からQ2でどう内圧が変化するのか、Q2に向けてどうタイヤをウォームアップさせるべきか、その時マシンバランスはどう変化するのか等々、路面や気温の変化などを細かく合わせ込まなければなりません。そういった要素に対してタイヤの落ち幅も考え、一個一個データを拾っていく作業で、ブリヂストンのタイヤエンジニアとのコミュニケーションを密に重ねている段階です。僕らが伝える言葉、例えば「1」と言ったら相手がそれをちゃんと「1」と受け止めてくれるように、その合わせ込みをしている段階ですが、テストを重ねるごとにコミュニケーションも良くなっているので、これからさらに良くなると思います。

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――まさに昨年まで、そうやって私たちを悩ませてきたお二人が、今度は私たちと共にタイヤやクルマの性能を引き出し活躍していだけると期待しています。
RQ:今年はまず、千代選手を迎え入れたことがチームとしては大きな変化です。そして同じタイミングでタイヤもブリヂストンになった。ブリヂストンのキャップを被って表彰台に上がるのが楽しみですし、ファンの皆さんにその姿を見てもらいたい。
千代:こうして一緒に戦うことになり、ブリヂストンには今後も共にモータースポーツを続けて欲しいと願っています。僕はヨーロッパでも色々レースしていますが、向こうでも昔DTMでブリヂストンを履いていたドライバーは口を揃えて「またブリヂストンを履きたい」って言うんです。ヨーロッパの人たちにベストタイヤと評価され、世界で認められているタイヤメーカーですから、もっともっとモータースポーツに力を注いで欲しいと期待しています。もちろん、僕も一日も早く表彰台でブリヂストンのキャップを被りたいですね。
RQ:僕はもう20年以上ずっと日本で走ってきましたが、SUPER GTのようにタイヤメーカーがハイレベルなコンペティションを繰り広げているレースは世界でも類を見ません。だからこそ、さっき千代さんが言ったように海外から日本に来たドライバーも一様に「こんな素晴らしいグリップは味わったことがない」と絶賛するわけです。競い合いながら素晴らしいタイヤを開発し、その技術を市販タイヤに反映する。そうすることでブランドが育っていく。その最前線で戦う僕たちの走りを、ぜひサーキットで目の当たりにして欲しいと思います。
千代:多くの方がロニーさんのことを「SUPER GTでいちばん情熱的なドライバー」と思っていると思いますが、モータースポーツに賭ける情熱では僕も負けません。これだけハイレベルなレーシングカーで、これだけ自動車メーカーが関わって、タイヤメーカーが関わって、ドライバーとしては本当に恵まれた環境で走らせてもらっています。だからこそ、自分の365日、すべての時間をレースに賭けています。ロニーさんだけでなくチームも、もちろんブリヂストンも、皆が同じ方向を向いて勝利を目指している。厳しいコンペティションですが、技術の進歩もドライバーの成長もライバルがあってこそ。本当に大変ですがこんなに楽しいレースはありません。自分のすべての情熱を注いで戦います。