第6戦を終え、チームランキング年間4位につけているLEXUS TEAM au TOM’S。残り2戦、逆転タイトルを狙う意気込みを、中嶋一貴/関口雄飛の両ドライバーが語る。

vol.5 LEXUS TEAM au TOM'S ドライバーインタビュー
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Part 1
中嶋一貴 / Kazuki Nakajima


2位、3位に興味はない
残り2戦きっちり戦いタイトルを狙う


今シーズンこれまで紆余曲折ありましたが、第5戦富士の優勝で辻褄は合わせることができた、と思っています。1勝することでシリーズ的には優位なところにつけられますから、SUPER GTのシーズンを戦う上では、まずは1勝すること、そして勝てないレースでいかにポイントを落とさないかが非常に重要になります。前半戦ではもっといい結果を出せたはずのレースもあり、そういう意味では少しポイントを落としてもいるのですが、優勝した富士は500マイルという長いレースでポイントも多い。そこで勝つことができたのでポイント的には帳尻を合わせることができました。どこかで1つ勝った上でいい位置につけて終盤戦のタイトル争いに絡むというのは、SUPER GTの戦い方としては定石です。そういう意味ではここからが本当の勝負です。


正直にいうと、最終戦のツインリンクもてぎは23号車(MOTUL AUTECH GT-R/MI)が速いと思っています。去年も予選で1秒も千切られてしまった状況は、簡単にひっくり返すのは難しい。そういう意味ではウェイトハンデが半減される第7戦のオートポリスが大事なレースになってくる。半減とはいってもうちのクルマは重たい部類に入ると思いますが、少なくともそこで表彰台を狙うところにいなければ、タイトル争いは厳しくなるでしょう。少々重くても前に行くぐらいの力強さを見せなければいけないと思っています。


GT500のマシンはベースシャシーがありますから、クルマだけで差をつけることはなかなか難しい。シャシーを含めていろいろな部分が共通化されているので、レクサス同士という意味ではなく、GT-RやNSX-GTも含めて、という意味です。ではどこで差をつけるかというと、やはりタイヤに寄るところが非常に大きいんです。クルマのポテンシャルのほぼ8割は、タイヤが決めると言ってもいい。ここまでの結果を見ても、シリーズランキングを見ても、ブリヂストン勢が上位につけていますが、これはブリヂストンタイヤの力に寄るところが大きいと思います。タイヤ開発競争の真っ最中で非常にシビアなところまで攻めた開発をしていますし、同時に耐久性もしっかり確保されています。耐久性とグリップの追求を繰り返しながら、しっかりと一歩一歩前に進んでいる実感があります。また、限られた時間の中でテストを行いタイヤ開発する中で、どうしてもぶっつけ本番でレースウイークを迎えることも多いのですが、そういう時でも事前にタイヤの試験やシミュレーションを行い、狙いどおりのタイヤに仕上げてくれるというのも大きな強みです。


タイヤのキャラクターとしては、ブリヂストンの強みは何と言ってもしっかりと耐久性を確保していること。優勝した富士を見ても、予選の一発というよりは決勝の耐久性をきちんと確保しています。富士ではだいたい1スティント35〜36周になりますが、そのラスト5周になってもしっかりタイムを稼ぐことができるし、その結果優勝することができた。これは大きな強みです。タイヤの開発競争が行われているレースは世界的にも多くありません。タイヤテストで1日に何セットものタイヤを履くことで、ニュータイヤでの一発のタイムの出し方やフィードバック能力を磨くことができますし、いろいろな種類のタイヤを履く機会は大切です。そういう経験を積み重ねることでドライバーとしての懐も深くなって行くと思います。


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タイヤという点では今年からチームメイトになった関口雄飛選手は、去年まで違うチーム、違うタイヤで走っていました。僕らがある意味、「ブリヂストンはこういうキャラクターだから当然」と思っている部分についても、彼にははっきり見えるようです。彼の声を聞くことで、改めて考えなければいけないと認識が変わることもあって、これはとても興味深い。タイヤというのはどこかを攻めればどこかが落ちるものですが、幅広く多角的に考えながら穴を埋めて行くいい機会かもしれません。
基本的なマシンの好みというのは関口選手と大きく変わりませんから、そういう意味では組みやすいパートナーです。ただ、僕よりも彼の方がクルマに対して感じることが、コメントを含めてすごく繊細だと思います。僕はどちらかというと、ある程度クルマがまとまった状態であれば、あとはタイヤを比較して、余裕があれば予選に向けてクルマをいじろうかというぐらいで、実は大雑把な面があります。関口選手はもっとクルマを突き詰めて行こうとするので、それは僕にとっても参考になる部分ではあります。テストでは本当に僕が気にしないようなことまで指摘しているので、逆に僕はその部分を彼に任せてもいいとも思うし、お互い気になるところがあれば、それはどんどん消していけばいいと考えています。アグレッシブなイメージもありますが、彼、実はレースでのアクシデントはほとんどないんですよ。バトルは強いけどぶつけない。これはとても大事なことで、ペナルティを受けることなく、クルマの性能を出し切った上で、攻めるところは攻める。とても頼りになる相棒です。



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SUPER GTでタイトルを争うには、まずはぶつからないこと。これはすごく基本的なことですが、GT500同士の競り合いもそうですし、GT300のトラフィックを掻き分けて前に出ていかなければなりませんから、実は相当難しいんです。バトルに強くなければダメだけどぶつけてもダメ、という非常にシビアなところが求められるレースです。特にGT500同士のバトルでは、アウトラップから1、2周の間とか、タイヤが垂れてきたスティント終盤とか、抜けるタイミングを見極めて一発で仕留めることが重要で、それがレース結果を左右することになります。いつでも簡単に抜けるわけではないので、タイトル争いを演じる上でも、そう言った“ちょっとした差”が最後に大きな差になる気がしますし、実際にこの数年間、そういうチームがタイトルを取っている。マシン性能はもちろん重要ですが、やはり人間の力がすごく重要だと思います。


レースで走る以上は優勝を目指さなければいけないし、シーズンを戦う以上はシリーズチャンピオンを取らなければいけない。この思いはずっと変わりません。逆に言えばそれ以外には、あまり思う所はありません。多くの人は、レースは誰が勝った、チャンピオンを取ったという結果しか記憶しないでしょうし、2位、3位になることに大きな意味はないとさえ思っています。自分自身は第2戦を欠場しているのでドライバーズタイトルの可能性はありませんが、チームとして、昨年は同じトムスのKeePer号がタイトルを取っているので僕らも負けてはいられません。残りの2レース、取るべきポイントをしっかりと取って、チャンピオンに向かって頑張っていきます。





中嶋一貴選手より終盤戦に向けた一言


(コラム)
初参戦でル・マン優勝
アロンソはやっぱり“持っている”


ル・マンというのは“持っている”のと“持ってない”というのがすごく出ると思うんですよ。ある意味僕らは“持っていない”人間の集まりだったので(笑)アロンソが初めてのル・マン参戦でいきなり勝つというのは素直に流石だなと感心しました。
もちろんパフォーマンス的にも何も言うことありません。ル・マンまでは、最初は彼もいろいろと学んでいましたが、本番にしっかり合わせてパフォーマンスを発揮してきたのはすごいと思います。実際、ル・マンでは文字通りノーミスで、夜中のスティントでも活躍してくれました。また、勝つことへの貪欲さは誰よりも強い。勢いチームへの要求も高いものになりますが、それもチームの和を乱すようなものではありません。見ていても心強くもあるし、刺激にもなりました。
自分としてもチームとしても、そしてトヨタとしてもル・マン制覇は長年の大きな目標でしたから、それを達成することができてホッとした気分でした。ただ、ル・マンの後もレース続きで、余韻に浸るような余裕はあまりありません。まずル・マンに勝つことができたので、次の目標はWEC、世界耐久選手権のタイトルです。チームとしては一度取っていますが、僕個人としてはまだ取っていないし、ドライバーにとって世界選手権のタイトルはとても大きなものですからね。





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Part 2
関口雄飛 / Yuhi Sekiguchi


攻めるけれどクラッシュしない
自分でも今が最高に乗れていると思う


シーズン開幕前のテストから序盤の2レースぐらいまでは物事がうまく噛み合わず、チームとして本来の実力を出し切れていないと感じていました。自分達が本来いるべき順位ではなく、期待していたよりかなり下の方にいて、「なんでこんなところ走っているんだ?」という気持ちもありました。手応えを感じ、噛み合ってきたなと思えるようになったのは第3戦の鈴鹿からです。結果はアクシデントがあり表彰台に乗ることはできませんでしたが、レースの内容はとても良く自分のスティントをとても速いペースで走ることができましたし、自信にもなりました。あとは結果さえついてくればと思って臨んだ第4戦のタイも、いい走りはできた。ただ、トラブルで結果を残せなかったのが残念です。


そういう流れの中、シーズンを考えれば第5戦の富士はどうしても勝たなければいけない一戦でした。年間8戦しかない中で、あそこで取りこぼしたらチャンピオン争いから脱落してしまうことになる。もちろん、それは分かっているし、どのレースも毎回勝たなければ、頑張らなければという気持ちで戦っていますが、それで結果に繋がるかどうかは別の話。ライバルチームも皆、手を抜くことなく必死に戦っている中で自分の置かれている状況を客観的に見た時に、あの時の富士は本当に負けられない状況で、そこでようやく勝つことができたというのが正直な気持ちです。


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今年からTOM’Sに移籍し、タイヤもブリヂストンに代わりました。クルマは去年もLEXUSでしたから車体やエンジンは変わりませんが、チームによってやり方も異なりますし、何よりもタイヤメーカーが変わったのはいちばん大きな変化です。初めてマレーシアのテストで乗っていきなりトップタイムを出しましたし1発の速さはすぐに出すことができましたがレースにおいてタイヤの暖め方、ピックアップが付かない走り方等、タイヤが変わった事で今までとは多少違った走り方も必要でした。


去年までのチームはメーカーと一緒にタイヤを開発していたので、自分から「こういうタイヤを作って欲しい」と積極的に意見を出していましたし、チームに対しても「こういうタイヤだからクルマはこうしてくれ」とリクエストしていました。でもブリヂストンに来たらLEXUSだけでも5台、ドライバーは10人もいるわけです。皆がそれぞれに意見を出しているのだから、相対的に自分が発言する機会は少なくなりましたね。もちろん、僕が気づかないことを他の誰かが指摘してくれることもあるわけですから、自分にとって良い面、悪い面、両方あるわけです。また同じLEXUSと言っても、チームによってセッティングが異なるでしょう?同じ36号車でも中嶋選手と僕では細かい部分は異なりますし、同じTOM’Sチームの中でもau号とKeePer号ではセッティングは異なります。ましてや他のチームとなれば、もっとクルマ作りやセッティングのコンセプトが違いますから、クルマによってフロントの入りが強かったり、あるいはリヤの安定を重視したりと差が出ます。ポンと同じタイヤを装着したところで、クルマのキャラクターによってドライバーのコメントはまったく変わってくるんです。そんなベースの異なる情報を収集して意見をまとめ、開発を進めるのですから、いろいろ意見が多いとタイヤメーカーも時には苦労するでしょうし、それだけにタイヤ開発は大変な仕事だと思います。例えばうちの36号車は、セットアップの方向性は基本的にリヤのグリップ重視です。どちらかというと予選一発の速さよりも決勝を得意としています。長い決勝レース中にリヤが不安定になってアクセルを踏めなくなる、ということが起こりにくいクルマになっています。対照的なクルマとしては、6号車はフロントの入りが良く、回答性を高めることを意識しているように見えます。あくまで外から見ている印象ですけれどね。ブリヂストンは基本的に年間を通じて安定感があり、バラツキであるとかいい時と悪い時の波や差が少ない。1年を通して安定感があります。またレースでも長い距離を走ったときの耐久性がありパフォーマンスが落ちません。この安定感がいちばんの強みですし、この特徴は去年までライバルとして外から見ていた印象と変わりません。



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チームに対しては、プロフェッショナルな意識を持ったレース集団、という印象です。メカニックやエンジニアなど、それぞれが自分の仕事に自信を持っている。まあ、それは今までいたチームも同じですが、やはりプライドを持ってレースに取り組んでいるというのが伝わってきます。もう1台のKeePer号も含めて、これまで中嶋選手や平川亮選手、ニック・キャシディ選手が築き上げてくれたものがありますから、郷に入っては郷に従えではないですけれど、自分のスタイルを追求するのではなく、TOM’Sというチームのキャラクターに合わせて行こうと意識しています。中嶋選手とはもともと共通の知り合いもいてプライベートで会うこともありましたが、同じチームで戦ったことがなかったので、ドライバーとしてはわからない面もありました。でも普段の性格どおりで、一緒に組んでいていてもピリピリしてないです。予選前でも自然体ですね。でも、普段は穏やかですが、いざとなると人格が変わって結構熱くなる一面もあります。パートナーとしては全面的に信頼できます。ミスもしないし、第4戦のタイのレースもそうでしたが、スタートして前半に順位を上げてきてくれる頼もしい存在です。


僕自身はというと、どんな状況でも失敗を恐れずに行くタイプだと思います。予選と違って決勝ではどうしても他車とのバトルになりますが、そういった時に気が引けちゃうような感覚はない。自然と闘志が湧いてくる。カートを始めたときからずっと変わりませんが、辛い状況でも気を強く持って戦えるのが自分の特徴だと思います。もちろん人間ですから苦しい状況ではやはり苦しいですよ。でも、どんな状況でもとりあえずできる事をしようっていう気持ちの切り替えはすぐにできます。今年31歳なんですけれど、最近は勢いだけではなく、いろいろ経験してきたのでミスが減ってきました。年齢を重ねると通常、勢いがなくなってくると思うし、走りにしてもミスしないようミスしないようにと、まとまってしまうのではと思います。一方で若いときはただがむしゃらに攻めてしまう。攻めるけどクラッシュしまくったりするようなことがない今、良い感じでバランスが取れているんじゃないかと自分では思っています。


SUPER GTとスーパーフォーミュラに出ているので、まずはその二つのタイトルを取りたい。SUPER GTはタイトル争いの圏内にいますから、残り2戦、ただベストを尽くすだけです。スーパーフォーミュラは実質的に厳しい状況ですが、もちろん諦めることはありません。ベストを尽くして、それでダメだったら仕方ない。また来年戦います。あまり先のことはイメージできませんが、まずは両方でチャンピオンを取りたい。そのためには、その時々の状況でできる限りのことをする。毎回毎回全力で100パーセント出し切る、それだけです。





関口雄飛選手より終盤戦に向けた一言


(コラム)
トヨタ、フェラーリ、日産、そしてトヨタ
ヨーロッパにも遠征した波乱の経歴


15歳でTDPのオーディションを受けて合格し、2年間フォーミュラ・トヨタで走りました。元々ヨーロッパでレースするつもりでしたから高校もインターナショナルスクールです。スクーデリア・フェラーリの育成ドライバーになったり、日産のドライバー・ディベロップメント・プログラムにも加入していましたが、2014年からはトヨタで走らせて頂いています。20代を少し過ぎる頃まではF1にこだわっていたので、F1に近づける道を選んできたし、海外にも行きましたが、最終的にリーマンショックの影響でGP2参戦費用の約2億円を捻出出来ずに帰国しました。帰国して直ぐには自分の居場所はありませんでしたが、色々な方のご協力により今は日本の最高峰カテゴリーに参戦させて頂いています。