第6戦SUGOで待望の今季初優勝を挙げ、シリーズランキング首位の座に躍り出たRAYBRIG NSX-GT。山本尚貴、そしてジェンソン・バトンのふたりに、残り2戦に賭ける意気込みを伺いました。
――まずは第6戦SUGOでの優勝、おめでとうございます。
山本尚貴(以下、山本):JB(ジェンソン・バトン)と組んで参戦6戦目にして初優勝することができ、とてもうれしいです。SUGOらしいというか、セーフティーカーが入ったり終盤にコースオフするクルマもあってすんなり終わるレースではありませんでしたが、うまくレースを組み立てることができました。JBはもちろん、チームがいい仕事をしてくれて感謝しています。
ジェンソン・バトン(以下、JB):SUGOについては事前にいろいろと聞かされていたけれど、全部本当だったね。クレージーなレースだった。GT500とGT300合わせて44台ものクルマが狭いコースを走るのは本当に厳しい、とんでもない経験だった。僕自身にとっては2012年以来6年ぶりの久しぶりの優勝となり、それだけに感動的な勝利となった。
――バトン選手ご自身、最終コーナーでは危機一髪でしたね?
JB:あれは怖かった! 事前に尚貴からも最終コーナーは特に注意するよう言われていたんだけれど、自分としてはそこまで攻めているつもりはなかったんだ。前にGT300のマシンがいて、それを抜こうと少しだけラインを外したら、まるでウェット路面みたいに突然フロントのグリップを失ってしまった。すぐにグリップが回復してコースに戻ることでできたのはラッキーだった。
――開幕戦の岡山でいきなり優勝争いをした上での2位。第3戦の鈴鹿でも2位。もっと早く勝てると思っていましたか?
JB:何戦目で勝てるとか、そういう期待はまったくしていなかった。F1から来たんだからすぐに勝てると思うのは間違いだよ。SUPER GTはとてもコンペティティブなカテゴリーだし、クルマを走らせるのだって決して簡単なわけじゃない。今も色々と経験し、勉強している最中さ。
山本:JBと組む初めてのシーズンということで、皆さんの期待も大きいし、大きいがゆえにもちろんプレッシャーもあります。SUPER GTはパートナーとのコンビネーションが重要なレースなので、そう最初から結果は望めないだろうと思っていたんですけれど、開幕戦で2位、鈴鹿でも2位と表彰台に上がることができ、確実にポイントを重ねるレースを続けてきているので、とてもいい流れが続いていると思います。
――SUPER GTはウェイトハンデもあり、毎戦非常にコンペティティブな戦いが続いています。その中でポイントを勝ち上がっていくために必要なものは何でしょう?
山本:やはりポイントを取りこぼさないこと。これが第一です。あと、本当に速いクルマはウェイトを積んでいようが燃料リストリクターで絞られていようが上位でレースを終えていると思います。
JB:僕はまだSUPER GTを学んでいる過程にいるわけだが、ここまででずいぶん自信を持つこともできた。尚貴がチームメイトで助かっているよ。どれだけレース経験があろうとSUPER GTはとても特殊なレースだし、それに合わせこんでいくには時間が必要だと思う。実際、3ヶ月前と比べたら今の自分はとても“強く”なっていると感じている。
――元F1ドライバーのあなたから見ても、SUPER GTは厳しいと?
JB:F1と比べてSUPER GTのクルマは400kgも重いから、それを意識して走らないといけない。それにタイヤのメカニカルグリップが強大なのも特徴だ。空力はまあ、オーケーかな。とにかく慣れなければならないことがたくさんあるんだ。何年も経験を積んでいる日本のドライバーは、既にそういった事に“ファインチューン”されているし、そもそも才能あるドライバーも大勢いる。そんなドライバーが集まってシビアなレースを繰り広げる。それがSUPER GTの魅力なんじゃないかな?
山本:たしかに展開を読めないのがSUPER GTの難しさでもありますね。JBにとってはレースで走ったことのないサーキットが続く終盤戦は厳しい戦いになると思います。でも、SUPER GTは一人で走るレースではありません。彼が大変な思いをする部分を、彼よりも経験の多い僕が、何か少しでも手助けできればと思うし、二人で力を合わせてチームで戦うのがSUPER GTです。お互いの弱いところ、強いところを生かしながら終盤戦に臨みます。
――元F1チャンピオンドライバーと組むにあたり、山本選手はプレッシャーを感じることもありましたか?
山本:F1の世界チャンピオンと組むなんて、誰でも経験できることではありませんから、そういう意味では多少は緊張した部分もありました。でも、実際にテストを重ねてレースするようになって、そんなことは気にならなくなりました。JBが結果を求めてレースする姿勢にはとても共感できますし、彼から学べていることも多い。今後自分がひとつステップを上がるうえでも貴重な存在です。それに、彼と組むことで宿泊や移動など、かなり優遇されています。楽させてもらってうれしいというのではなく、日本のレーシングドライバー全体のステータスや存在価値を引き上げていくきっかけになれば。贅沢することが必ずしもレーシングドライバーの目指すところではありませんが、JBの存在がメディアやスポンサー含めて皆がレベルアップできるひとつのきっかけになるかもしれない。そう思うと彼がSUPER GTに来てくれた意義は大きいと思います。
JB:どのドライバーもSUPER GTに出るとなればパートナーが必要だ。英語ではこれを「フォースカミング・ウィズ・インフォメーション」と言うんだけど、相手はたくさんの情報を持ってきてくれ、新たな学びを手伝ってくれる存在なんだ。尚貴のヘルプはファンタスティック! 彼とチームの指示を受けて走るたびに自分がインプルーブしているのを実感している。予選の尚貴はいつも最大限の走りでチームの期待を上回ってくるから、自分達のクルマの性能を正確に知ることができる。一緒に仕事をするスタイルはもちろんだが、この速さにおいて彼以上のチームメイトはいないだろうね。岡山と鈴鹿で2位に入ったけれど、あそこでいちばん悔しがっていたのが尚貴なんだ。誰よりも勝利を切望していて、皆が尚貴のファイトとその姿勢から多くのことを学んでいる。
――お互い認め合ったドライバー同士ですが、同じクルマに乗る者同士、ライバル意識もあるのではないでしょうか?
JB:ここに来て尚貴の走りを見て、データで彼がどう走るのかも見た。もちろん彼が速いドライバーというのは知っていたし、まずは彼に追いつき、同じ速さを備えることが最重要だと思っている。
F1のようなシングルシーターでは、まずは自分がいちばんに速くなければダメだ。チームメイトの方が自分よりも速かったら、誰も自分の声に耳を傾けてくれなくなってしまうだろう。でも、SUPER GTはそもそもまったく違うレースだ。SUPER GTを耐久と言っていいかは微妙だけど、耐久レースのチームの雰囲気は大好きだし、そこで成功するにはドライバーの関係がとても重要な鍵となる。
山本:もちろんまったく気にならないわけではありません。自分の遅いところ、彼の速いところを把握した上で次のセッションに臨めばスキルアップにもなりますし、速い相手と組むことはお互いにとっていいことではあります。でも、ひとつ間違えるとドライバーとしての我が強く出て関係にヒビが入ったり、チームの輪を乱しかねない。そういう意味では同じレーシングドライバーではありますが、シングルシーターとは違うメンタリティで取り組まないとうまくいかないことが多いと思います。JBはF1のキャリアが長いので、どういう風にしたらチームがうまく機能するかを理解しているし、非常に大人です。そういう意味でも、走っていない時間も彼から学ばせてもらっていることは多いと思います。そもそも元F1チャンピオンとしてSUPER GTにやってきて、当然まわりからの期待も多く結果を残さなければいけないというプレッシャーの中で、そういうプレッシャーを力に変えてのびのびとレースしている姿は素晴らしいと思います。それは自分にも必要な部分だと思いますね。
――ところで、SUPER GTに参戦するにあたり、ホンダ勢の中でチームクニミツになった理由をお聞かせください。
JB:去年の鈴鹿1000㎞で無限チームから初めてSUPER GTに出たわけだが、ファンタスティックな経験でとても楽しむことができた。で、今年に向けてSUPER GT参戦についてホンダと相談したときに僕がいちばんにリクエストしたのはブリヂストンタイヤを履くチームということだった。それ以外の情報は僕にはあまりなかったしね。で、多くの人に「誰と組むのがいいんだ?」と訊いてまわったんだけど、皆が「尚貴だ」と答えてきたよ。それともうひとつ、大親友のクリス・バンコムがテストしたこともあって、チームクニミツのことは昔から知っていたというのもある。タイヤ、尚貴、クリス。この3点がチームクニミツに来る鍵となった。
――では、そのタイヤについて。SUPER GTではタイヤ同士のメーカー競争も熾烈ですが、どのような印象をお持ちでしょう?
JB:タイヤについても今年、多くのことを学んでいる。17年間もF1で走ったドライバーにとっても、まだまだ学ぶことがこんなに多いとはね。でも、だからこそレースは魅力的なんだろうな。もしも全てを知ってしまったら、もうエキサイティングなものではなくなってしまうかもしれない。
SUPER GTのタイヤで重要なことは2つ。ウォームアップ(冷えたタイヤを走行することで発熱させること)とピックアップ(タイヤから剥がれたゴムの塊がタイヤに付着してしまうこと。グリップダウンにつながる)だ。自信をもってプッシュできるようにタイヤを温めることが大切なのはもちろんだけど、ピックアップには悩まされるね。これまでのレース人生でこんな経験は初めてだよ。ピックアップを落とす走り方とか、尚貴からもいろいろと教わってはいるけれど、まだ学んでいる最中だ。
タイヤの基本的な性能としては、ブリヂストンタイヤは濡れた路面で素晴らしい性能を発揮するし、長い距離を走ったときのコンスタントさやデグラレーションの少なさなど、安定した性能が素晴らしい。
山本:ピックアップについては、何をしたら解決できるのかを模索している最中で結論は出ていませんが、多少は運転の仕方で解消できたり、あるいはドライバーによって気にしなかったり、気にならないクルマもあったりします。車体とのマッチングやドライバーのスピードコントロールの仕方によっても差が出るので難しいですね。
SUPER GTではテスト毎に構造やコンパウンドが進化したタイヤを持ち込んでくれるのでやりがいがあります。世界的に見てもタイヤメーカーがしのぎを削っているレースはこのカテゴリーだけなので、タイヤ開発戦争の真っただ中にいるということがSUPER GTで走る醍醐味のひとつだと思います。
JB:やはりタイヤ戦争の存在が、SUPER GTを特別なレースにしているんだろう。ラップタイムがそれを証明している。タイヤを理解し、どう機能させるかを理解することは、大きなアドバンテージになる。僕らはブリヂストンタイヤについてよく理解しているとは思うが、それでもさらに理解する必要がある。
F1では一度タイヤにダメージを与えてしまうとすぐにダメになり始める。SUPER GTのタイヤは仮にオーバーヒートしてコーナー2つが厳しくなっても、その後に復活してくるんだ。使い方がまったく違うし、その分、SUPER GTではよりアグレッシブに走ることができる。この点は素晴らしいね。昔、ブリヂストンがいた頃のF1を思い出すよ。
山本:NSX-GTも昨年度より進化していますし、さらに速くする余地もあります。残り2戦、ライバルが手強いのは分かっていますが、クルマを進化させ、ふたりでミスなくいい走りができればシリーズチャンピオンの座も近づいてくるでしょう。せっかくJBと組んだ初めてのシーズンにタイトルの可能性があるんですから、プレッシャーを感じながらそれを楽しみ、レースしたいと思います。
JB:3つの自動車メーカーがどこもタイトルを狙っていて、サーキットによってそれぞれに速さを見せている。それも異なるタイヤでね。だからこそ、このSUPER GTは偉大な選手権だと言えるだろう。僕たちの目標ははっきりしている。勝つこと。そしてタイトルを取ること。残りの2戦、NSX-GTに合ったコースだと思うし、いいレースができることを期待しているよ。