『今年も数々の名シーンを生み出し、歓喜のなか幕を閉じた鈴鹿8耐
 ブリヂストンも16連覇を達成できたが、そんな偉業を支えてくれたのが現場でチームと向き合っているエンジニア達
 真夏のパドックでチームのために最善を尽くしている彼らこそがブリヂストンの原動力である』

今回は陰で日夜レースを支えているエンジニアについてご紹介します。
タイヤだけでは速く走れず、エンジニアがいるからこそマシンのポテンシャルが引き出されるということを知って頂きたいのです。16連覇を支えたのは強い現場力であり、常に前線に立って戦う彼らがいるからこそ私たちは勝利の喜びを味わうことが出来るのです。

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エンジニアとは

レースの世界において、タイヤメーカーの大きな役割はタイヤを【開発・供給】するだけではなく、それをいかに【使う】かが重要なポイントとなります。
レースの世界ではマシンのパワーを最大限に路面に伝えるためにタイヤにはグリップ力が求められますが、そのニーズに答えるにはドライ路面用、ウェット路面用、軟らかくてグリップ力の高いタイヤ、硬くて長距離を走れるタイヤなど目的に合わせて様々なタイヤがあります。鈴鹿8耐のような気温が高く長距離を走るなどレースでは、天候や路面、レース展開などの状況に合わせてタイヤを使い分けることが戦略の一つとなります。(JSB1000などスプリントレースではレース中のタイヤ交換がないレースもあります。)

ブリヂストンのタイヤエンジニアは、サーキットの現場で様々なデータを収集しながら、どのタイヤをどうやって使えばマシンの性能を最大限に引き出せるかなどタイヤ戦略をサポートする役割を担っています。テストや公式練習、レース中でもタイヤの温度や空気圧、摩耗状態、路面温度、マシンのラップタイムなどタイヤ選択やマシンセッティングに必要なデータを収集しチームと意見を交わします。

またタイヤガレージに戻ればタイヤ開発メンバーと情報交換を行い、チームからのフィードバックを次の開発につなぐ役割も果たしています。モータースポーツを観戦するときには、ピット内に映るタイヤとタイヤエンジニアにも注目してご覧ください。

エンジニアの業務とは?

【タイヤ搬送】
8耐では大型車4台で約2,000本のタイヤを運び、更にタイヤチェンジャーやエア充填機などのサービス機材を積んだ大型車1台を加えた合計5台のトランスポーターを運行します。タイヤにはスペックが何種類もありますので、倉庫から出す時と積み込む時の計2回のチェックを行い間違いがないよう細心の注意を払います。またサーキットでタイヤを運び出す時のことも考え使用頻度が高いスペックを入口側に積んだり、何よりタイヤに傷がつかないよう注意しながら積み込みの作業を行います。4台分積み込みにはスタッフ数人でもほぼ一日がかりの作業を行い、その後東京の倉庫から鈴鹿までは約7時間かかります。すこし時間がかかる印象かと思いますが、タイヤを傷つけないよう安全運転で且つきちんと休憩を取りながら大切に運びます。またサーキット到着直前には必ず洗車し、お越しになっているお客様にブリヂストンのトランスポーターが綺麗に映るようにし、ブリヂストンというブランドを運んでいます。


【タイヤ選びとリム組】
チームと話し合って決めたスペックを管理シートに記入し、この管理シートに従って在庫管理スタッフがトラックの中から組付するタイヤを運び出します。このタイヤにゼッケンやセットナンバーを記入し、タイヤの上にホイールを積み重ねて組付ラインにパスします。レース用のタイヤどれも外見が同じに見えるため組付するスペックの間違えないように、組付の前後に担当エンジニア自身でスペックをチェックします。またチームのタイヤ管理担当者にも受取時にダブルチェックして頂きます。

【タイヤデータ取り】
走行後にタイヤのトレッドに温度センサーを差し込んで、トレッドゴムの内部温度を測定します。ほかにもチームの担当メカニックが測定した空気圧のデータを見せてもらい、内部温度をチェックします。内部温度はタイヤがどれだけ仕事をしているかを把握する指標となり、タイヤのグリップが不足するとホイールスピンによる摩擦で温度が上がっている場合があるので温度の上がり過ぎには注意が必要です。またマシンが速くコーナーをクリアするにはどれだけタイヤを潰した状態で走れるかが重要なため、スペックや条件にあわせた適正な内部温度を把握し、走行時にその温度になるようセットアップの相談をします。あとは摩耗測定溝を常に注目し、摩耗の度合いをチームに報告します。摩耗の状態によって構造やトレッドゴムが異なる別スペックを提案しチームと協議します。

【ライダーコメント】
レースの中でピットに戻ってきたライダーの元に関係者が集まって話を聞いているシーンが時々映ります。2輪のマシンには無線が搭載されていないため、走行中に感じたことなどをライダーからフィードバックを受けている場面です。例えばライダーから『タイヤが跳ねる』とコメントがあった場合、その『跳ねる』という現象が起きているのが減速中・旋回中・加速中のどの場面なのかできるだけ正確に把握する必要があります。そのため『跳ねる』というコメントに対して、自分でその背景を想像しつつ『加速時?どこのコーナーの出口で起きている?』などと聞き返し現象の理解に努めます。この『跳ねる』部分がそのタイヤの改善すべき点なので、その情報を開発者にフィードバックします。エンジニアとしては想像して聞き返しより正確に理解しようとしますが、同時にライダーの性格や表現の特徴など人柄も含めて理解する必要があります。


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エンジニアの醍醐味/やりがいとは

チームに関わるエンジニアはたくさんいますが、ピットの中にいるエンジニアはタイヤ・サスペンション・ブレーキメーカーくらいで、ほかの部品よりもセッティング/使い方が重要なパーツばかりです。テスト~レース本番までピットの中で共に行動していると、常に一緒にいるのでチームの一員としての自覚が芽生えてきます。
チームがベストタイムを出せるようにその場で出来る最善のことを考え、ライダーの悩み/改善したいポイントに真摯に向き合い一緒に戦う仲間です。だからこそ、改善策やタイヤ選択がうまくいった時には自分のこと以上に嬉しくなりますし、それで勝つことが出来てチーム全員と喜び合う瞬間は他の何ものにも代えがたい最高の瞬間です。

ブリヂストンの16連覇は現場で活躍するエンジニア達によって支えられています。
良いタイヤが作れても、きちんとリム組を行うフィッターとチームと共にマシンを仕上げるエンジニアが居なければタイヤの実力を発揮できないこともあります。タイヤの性能をフルに発揮できるのは、現場の最前線で輝く彼らがいるからだということをご理解頂けましたでしょうか。


そんな彼らは束の間の休息のあと、またサーキットへ旅立っていきます。
チームとライダーの助けとなるため、そして多くのブリヂストンの勝利を支えるために。

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終盤の雨に翻弄されながらも、激闘の裏で彼らが活躍した2023年の鈴鹿8耐。改めてレースの感動をもう一度、決勝のレースレポートはこちらから。

タイヤエンジニアに少しでも興味を持って頂けた方は、ぜひレース中継などをご覧になる際にタイヤガレージやチームピットの中にいるブリヂストンのエンジニア達を気にかけて見てください。チームと共に戦う彼らにもぜひ温かい声援をお願いします!彼らが居なければブリヂストンは勝つことは出来ないので、勝利の立役者たちに温かい拍手を!