とはいえ、開発会議に至るまでには相応の事由が必要になります。つまり開発会議の前段階ではあちらこちらで雑談が行われ、その雑談に意義が感じられるひとが増えると打ち合わせが増え、その後会議に発展するのです。スポーツタイヤユーザーはグリップの高いタイヤを常に追い求めています。タイヤメーカーは優れたタイヤをつくるために、サーキットテストを繰り返します。しかしながら、ラップタイム短縮に成功すれば開発終了...というわけではありません。ユーザーに好まれるタイヤを目指すとき、様々な目的を 広く網羅する必要があり、究極の妥協も必要になってきます。
ラップタイムはもちろん、ウォームアップ性能、ウェット性能、気温および路面温度への依存度、グリップ安定性、限界時のコントロール性、耐摩耗性、転がり抵抗度等々、クリアすべき領域は多岐にわたります。ちなみに私が最も気にするのは"四輪での接地バランス"です。タイヤは決して単品で動くことはなく、常にクルマと一体になり4つのタイヤのグリップや転がりをバランスさせながら走っています。ブリヂストンの開発メンバーは過去の膨大なデータを解析しつつ、新しい要素を組み込み設計したテストタイヤをつくります。その設計されたタイヤをクルマに装着し、開発メンバーとともに評価していくのがサーキットという現場での開発業務です。グリップし過ぎるとクルマは止まってしまう。転がり過ぎるとクルマは滑ってしまう。つまりタイヤは同時両極性を持っています。「走る、止まる、曲がる」を繰り返すクルマの性能を高次元で支えるタイヤを作り上げることがいつの間にか私の得意分野になっていました。

あるとき、POTENZAの優位性が低くなっていると感じることがありました。ユーザーが徐々に減ります。タイヤの情報や市場の変化をいち早くブリ ヂストンに伝えるのも私の役割。食事中の雑談で何気なく伝えることもあれば、打ち合わせ時につらい話を心を鬼にしてブリヂストンに訴えることもあります。
数年間に渡り訴え続けたある日、ブリヂストン本社ビルに呼ばれました。第1回目の開発会議でした。モータースポーツ部門、開発部門、マーケティング部門、ブランド戦略部門...総勢20名あまりの大きな会議で、POTENZAの歴史とともにPOTENZAブランドの在り方を問います。とても嬉しい日でした。なぜなら、それまで感じていたユーザーや私の想いや期待が共有され、そこから始まる未知の将来に向け、"史上最速のPOTENZAを世に送り出すこと"を全員一致で団結したからです。のちにPOTENZA RE-71Rという名称に決定し、日本はもとより世界各国で発売になるタイヤとなりました。逆に考えると、この開発会議が存在しなかったらRE-71Rは世に出てこなかったことでしょう。

雑談は火種。その火種が徐々にアンケートやインタビュー、市場調査などリサーチに繋がり、必要とされるメンバーで会議が開かれる。開発会議はとても有意義ですが、実はまだまだスタートライン。企画や準備を経て、サーキットテストが開始されるまで6か月近くかかります。

Yamano4.JPG