みなさん、こんにちは!ブリヂストンの山田宏です。
今年からブリヂストンは2輪耐久レースシリーズ、EWCに参戦するF.C.C. TSR HondaとYART Yamaha Official EWC Teamにタイヤ供給をすることになりました。
今年から鈴鹿8耐がEWCの最終戦として開催されるということを知っている人は多いと思いますが、EWCって何だ?という方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回はEWCとはどんなレースか?という話をしましょう。
FIMロードレース世界耐久選手権
というのが正式名称です。
EWCというのはEndurance World Championshipの頭文字です。
6時間から24時間までの耐久レースで、ライダーは2名か3名で戦います。12時間以上または1800km以上の耐久レースの場合は、さらに1名の補欠ライダーが認められます。
エントリーチームは鈴鹿の場合、最大70チームと規定されています。
1. EWCの歴史
世界史における耐久レースの起源は19世紀後半まで遡ります。当時は大都市の間パリ-ルーアン(フランス西部の都市)や、パリ-マドリッドなどを、公道を使って早く到着した者が勝ち、という単純なもので4輪も2輪も一緒に走ったそうです。
当然ながら、公道を使うこのレースは大変危険だったので、その後公道を封鎖して、4輪と2輪は別に開催されるようになりました。
最も有名なレースは1922年に開催されたボルドール24時間レースです。 当時のレースは、未舗装路の5kmのサーキットをライダー1人で走るもので、給油以外はピットインせず、バイクに乗りながら飲食をしたそうです!
この時の優勝者はTony Zindという人で、1,246kmを平均速度51.9km/hで走り切ったとのことです。また、この年にはサイドカーの24時間耐久レースも行われたそうです。100年近くも前にどんなバイクで走ったのか興味ありますね!
その後、場所を変えながらもボルドール24時間は開催され、第二次世界大戦後(1951年~)はベルギー、スペイン、イタリアでも耐久レースが行われるようになりました。
そして1960年にFIMの耐久カップという名で、4レースのシリーズ戦が誕生しました。
ボルドールの他、ベルギー、スペイン、イギリスで開催されました。
1978年にはルマン24時間と鈴鹿8時間が始まり、1980年にFIM世界耐久選手権シリーズが始まりました。
この年は年間7戦も開催されたのですが、ルマンもボルドールも入っていませんでした。アッセン(オランダ)8時間、ニュルブルグリング(ドイツ)8時間と1000kmの2戦、モンジュイック(スペイン)、スパ(ベルギー)、鈴鹿の各8時間、ミサノ(イタリア)1000kmの7戦でした。
翌1981年からルマンとボルドールがカレンダーに加わりますが、1989年に世界選手権の名が外れ、ワールドカップとして4戦(ルマン、ボルドール、鈴鹿、スパ)となり、1991年に再びFIM世界耐久選手権シリーズとなったのです。
2. EWCのシーズン
日本では鈴鹿8時間耐久レースが有名ですが、欧州では特にフランスにおいて耐久レースが盛んですね。
この世界耐久選手権のシーズンが9月から翌年7月まで、と変わったのは今年からです。
一昨年までは通常のレースカテゴリーと同じで、春から秋までのシーズンでした。
2015年からこの選手権のプロモーターに、ユーロスポーツが付きました。それまでは特にプロモーターは存在せずに、開催サーキットが独自にプロモーション活動を行っていたため、TV放映も広範囲には行われておらず、シリーズとしての人気も今一つ、マイナーなレースカテゴリーといった感がありました。
2015年にユーロスポーツが、鈴鹿8耐をヨーロッパでライブ放映を行ったところ、非常に盛り上がったといわれています。フランスのルマン、ボルドールの耐久レースでは観客も多く、人気があったのですが、鈴鹿8耐は海外の方にとって、ネットによる情報しかなかったのです。
鈴鹿8耐は、日本の4メーカーが力を入れており、GPライダーが参加したりするなど非常にレベルの高いレースです。世界的なTV放映が実施されたことで注目を集め、ユーロスポーツも鈴鹿8耐の人気の高さ、反響の大きさに目を付けて、鈴鹿8耐をシリーズの最終戦とする事を決めました。
鈴鹿8耐は真夏のレース、7月の最後に行われることで定着しています。
同じように、9月開催が定着しているボルドール24時間を開幕戦として、2016/2017年シーズンが始まりました。
2016/2017年シーズンのスケジュール
Rd.1ボルドール24時間(2016.9.16-18)
Rd.2ルマン24時間(2017.4.15-16)
Rd.3オシャスレーベン8時間(2017.5.19-20)
Rd.4スロバキア8時間(2017.6.23-24)
Rd.5鈴鹿8時間(2017.7.28-30)
3. EWCのポイントシステム
EWCではチーム、ライダー、コンストラクターズ(バイクメーカー)にポイントが与えられ、それぞれのランキングが決定します。
EWCのポイントシステムは、レース時間によって変わるし、24時間レースの場合は途中経過順位にもポイントが加算されるなど、やや複雑なシステムになっています。
基本ポイント
1位から20位までに与えられるポイントで、レース時間が8時間以下と8時間を超え12時間以下、12時間を超え24時間までのレースで3段階のポイントとなっています。
1位はそれぞれ30点、35点、40点と時間が長いほどポイントが多く、20位が1点となっています。
このポイントは、今シーズンから最終戦が1.5倍になるので、鈴鹿8耐の優勝者には45点が与えられる事になります。
次に12時間以上のレースの場合、8時間と16時間経過時の順位にボーナスポイントが加算されます。
その時点の1位が10点で、10位が1点となります。ですから24時間レースでは、例えば16時間までトップを走っていたら、その後リタイアしても20点獲得となるのです!
このボーナスポイントは、チームとライダーに与えられるもので、コンストラクターには与えられません。そしてコンストラクターのポイントは、各コンストラクターの上位2チームのポイントが加算されます。
4. EWCのタイムスケジュール
EWCはレースの時間によって、タイムスケジュールは若干変わりますが、大まかなスケジュールは規則によって決まっています。
初日:
受付、車検
2日目:
120分のフリープラクティス。
3時間インターバルの後、各ライダー20分の予選1回目。
ナイトプラクティス1時間以上。
3日目:
予選2回目、各ライダー20分。
レース日:
レース前に45分以上のウォームアップで、終了後2時間以上のインターバルを置いてレーススタート。
レーススタート時刻は、鈴鹿の場合11:30で19:30ゴール。
ボルドール、ルマン24時間の場合、土曜の15:00スタートで、日曜日の15:00ゴール。
オシャスレーベン8時間は、14:00スタートの22:00ゴールです。
5. EWCのレギュレーション
EWCのレギュレーションについて、概略の説明をしましょう。
(1) マシン
EWCにエントリー出来るマシンのカテゴリーは、4種類となります。
① Formula EWC(EWC)
② Superstock(SST)
③ Supertwin(STW)
④ Experimental(EXP)
メインとなるEWCマシンの規則については、JSB(全日本JSB1000クラス)にかなり近いものとなっています。
SSTは更に改造範囲が狭く、スタンダードに近いマシンです。欧州ラウンドでは、SSTの参加が多くなっています。
STWとEXPは鈴鹿8耐には無いのでなじみが薄いですが、STWは2気筒で750~1350ccのエンジンで、改造範囲がEWCより広く、EXPは過給器やハイブリッドシステムも認められたさらに改造範囲の広いカテゴリーです。
EWCとJSBの最も大きな違いは、EWCで夜間走行の為のライトが装備されるので、最低車重が少し重くなっています。
このベースマシンはFIMによって認可を受け、通常は公道を走り、購入出来るバイクであり、販売価格の上限や、最低生産台数が決められています。
WSB(ワールドスーパーバイク)のレギュレーションと比較すると、ベースマシンは同じながら改造範囲がWSBの方が広くなっています。
EWCとJSB、WSBのレギュレーションを比較したのが下の表です。
(2) タイヤ
使用するタイヤは、競技専用の公道走行不可(NOT FOR HIGHWAY USE=NHS)のタイヤか、公道走行可の場合は規格に則っている必要がありますが、通常はNHSのタイヤを使用します。
トレッドパタンについては規制がありませんが、メーカーが製造したもののみ使用可能で、グルービング等の溝追加加工等は認められません。
ウェットタイヤに関しては、メーカーが図面を提出し認められたウェットタイヤは下記本数制限にはカウントされません。
EWCのイヤ使用本数制限は、予選と決勝で使えるタイヤの数が決まっています。上記にも書きましたが、8時間耐久レースでは20本、24時間耐久レースでは45本です。
具体的にはタイヤのサイドに貼るステッカーが各チームに渡され、予選、決勝走るタイヤには、必ずこのステッカーが貼って無ければいけません。コースイン/アウトの時に、オフィシャルがタイヤステッカーの確認をします。
フロントタイヤとリアタイヤの区別はないので、8耐の場合各10本でもよいし、フロント8本、リア12本でもよいのです。
また、一度使ったタイヤ(ステッカーが貼付けられた)を何度使っても良いので、Usedタイヤ(一度使用したタイヤ)をどう使うかが大事な戦略となります。
(3) ライダー
ライダーは2名か3名で走る事となります。24時間レースに関しては、さらに1名の補欠ライダーが認められていて、スタート前までにその中から3人を選んでレースに臨みます。各ライダーの走行時間に関しては、以前は一人の連続走行時間に制限がありましたが、今はありません。
(4) ピット作業
レース時ピットインした時、マシンを作業するために触れることが出来る人は、特定の4人と決まっています。ただしマシンをピットボックスに入れた場合は、作業人数の制限はありません。ガソリン給油はピットアウト直前に行い、ガソリン給油中はマシンの作業を行ってはなりません。
また、レース中のピット作業に関しては、消火器の準備やピット内保管のガソリンの量、タイヤウォーマー使用法や電源プラグ使用の位置等、安全に関する項目が細かく規定されています。
(5) 予選
各ライダー20分の計時予選が2回行われます。
それぞれのライダーのベストタイムを出し、チーム全員(2名または3名)の平均タイムがそのチームの予選タイムとなり、グリッドが決定されます。 ただし鈴鹿8時間耐久レースでは、恒例のトップ10トライアルが実施されるので、1位から10位までのグリッドはトップ10トライアルの結果が適用されます。
上記予選後ライダーの平均タイムによる順位で、1位から10位までのチームがトップ10トライアルに出場し、各チーム2名のライダーがトップ10トライアルを走って、そのベストタイム順にグリッドが決定します。
いかがでしたか?
EWCについて駆け足でご紹介しましたが、興味をもっていただけましたでしょうか。
ブリヂストンにとって、EWCの参戦は、これまでに経験したことのない新たなチャレンジといえます。
もちろん、鈴鹿8耐の11連覇というのは私たちの実績としては充分に戦えるレベルにあると言えるかも知れませんが、ただ、条件やレギュレーション、天候、風土、時間などまだまだ解決しなければならない未知の世界が広がっています。
さらに、私たち日本人が経験したことのないヨーロッパの耐久レースの歴史や文化は、技術開発やライダー、チームの戦略だけで補えるものではない「大きな見えない壁」として立ちはだかっていることも事実だといえます。
ですから、このチャレンジは鈴鹿8耐の11連覇の延長ではなく、まったく新人の挑戦者としてこのシリーズに取り組んでいくつもりです!
さて、さっそく、4月15日はRd.2フランス・ルマン24時間の決勝レースがスタート。
ルマンといえば、昨年、藤井聡総監督が率いるF.C.C. TSR Hondaが3位表彰台という日本人、日本チーム史上初の快挙を達成したレース。
否が応でも期待せずにはいられません!
さらに、私たちがタイヤ供給をするもう1チーム、YART Yamaha Official EWC teamも過去にEWCタイトルを獲得した名門チームで、昨年の鈴鹿8耐で4位入賞した実力のあるチームです。
私たちブリヂストンサポートチームにご声援のほど、よろしくお願いいたします!