みなさん、こんにちは!ブリヂストンの山田宏です。
いよいよ8耐ウィークに入りました!公開テストの様子も前回報告しましたが、今回は各チーム練習に余念のなかったピット作業についてお話ししたいと思います。

耐久レースの見どころの一つがピット作業です。EWCではどのレースでもほぼ1時間に一回ピットインして、 ガソリン給油やタイヤ交換を行います。
前後のタイヤ交換を4-6秒、24リットルのガソリン給油を3秒足らずで行ってしまう早業は驚くばかりです。コース上でライダーが1周0.1秒のタイムを詰めるのは大変ですが、ピット作業でちょっとしたミスがあると、 10秒位はすぐに余計に掛かってしまうのと、鈴鹿8耐の場合最低7回のピットストップがあるので、ライバルチームより1回のピット作業で2秒遅いだけでも、レース全体では14秒の差となってしまうのです。その為に、各チームは作業のやり方を分析し、1秒でも速く確実に行えるように練習を重ねるのです。
まずは公開テスト時に行われた、#12ヨシムラのピット作業の映像をご覧ください。(この練習時には、実際にガソリンは給油していません。)

1.ピット作業についてのレギュレーション

ピット作業についても安全を確保する為に、いくつかの点がレギュレーションで定められています。 作業人員:マシンに触って作業する人は、登録された4人に限られます。登録されていないメカニックは、マシンから1.5m以上離れなければなりません。但しマシンをガレージに入れた場合は、作業人数の制限はありません。またガソリン給油要員、消火器待機者、停止サインボードを出す人等マシンに触れない人は4人には含まれません。 作業順:ガソリン給油の後に、マシンの作業を行ってはいけない事になっています。そして規則では、給油をする際にはエンジン停止し、スタンドを掛けた状態で、ライダーは降車してなければなりません。したがって実際の所、タイヤ交換と給油をする場合、下記の手順となります。 ライダーがピットインしマシン停止、エンジンオフ・ライトオフ→ライダー降車→スタンドでマシンアップ→フロント、リアのタイヤ交換→ガソリン給油→ライダー乗車→スタンド外し→エンジン始動・ライトオン、ピットアウト
 ちなみにライトは2系統独立した回路で、スイッチも別になければいけません。(エンジンと連動してはだめ)したがってライダーはライトのスイッチだけで2つをOn/Offする必要があります。

2.ガソリン給油とタイヤ交換を速くするための装置

ガソリンの給油装置と、タイヤ交換を速くする為の装置がEWCには不可欠です。これらの装置について解説しましょう。

(1) ガソリンタンク、ガソリン給油装置
ガソリンタンクは最大24リットルの容量まで可能で、オリジナルの搭載位置やタンクの形状を大きく変えなければ、材質も変更可能です。(但しカーボンやアラミド、グラスファイバーは使用禁止です。)
ガソリンタンクの給油口については、安全上レギュレーションで規定されています。 ewc_vol10_2.jpg
給油口の口径は最大で76㎜と規定され、多くのチームが使用している2口の給油口には、給油装置を外した時には蓋がロックされるようなシステムになっていなければなりません。(ロックシステムがない場合、漏れ防止のカバーを付ける必要がある。)
2口の給油口は、一方からガソリンを入れ、一方からガソリンタンク内の空気を抜くようになっています。
ちなみに#7 YART等EWCの一部のチームが使っている1口タイプのものもあります。これはF1で使用しているものと同じだそうで、給油タンクの口が2重になっていて、中心からガソリンを注入し、その外側から空気を抜くものです。
これには蓋のロックシステムが付いていないので、外に蓋を付けていてライダーが取り外しを行います。
給油タンクについては、EWCでは規定はないのですが、鈴鹿8耐では高さのみの規定があります。
地面から2.5m以上上げてはいけないのです。またルマン24時間レース時に使用しているような、固定式の給油タンクは使えず、携行式でなければいけません。
高さ制限を設けているのは、重力差で高い所から落とした方が圧力が掛かるのですが、人が支えるので高すぎるのは不安定だからです。この給油タンクも各チームさまざまな形をしているので、見比べてみて下さい。
勿論この給油口と給油タンク、ガソリンタンクは特注品です。24リットルのガソリンを、2-3秒で入れてしまうとは驚きですね!
セルフのガソリンスタンドでは、給油速度が1秒間に0.5~0.6リットルに設定されているので、24リットル入れるのには40秒以上掛かります!
また20リットルのポリタンクに水を一杯入れて、逆さにしても、ポリタンクを空にするには10秒じゃ無理でしょう。これらを考えると驚異的な速さです。
給油タンクには、圧力をかける事は禁止されているので、自重の落下でいかに速く落ちるか、渦をどう使うか等で内部構造が研究されているそうです。
またガソリンタンク内部にも、もの凄い秘密が隠されています!速い速度でガソリンを入れると、泡立ってしまいます。ビールをグラスに注ぐと、泡が出て溢れそうになりますが、時間が経ってその泡が消えると、ビールはグラスの半分くらいになってっしまいますね!
それと同じでガソリンが泡だった状態でガソリンタンク内に充填されても、その泡が消えたら容量は減ってしまうのです。ですからガソリンタンク内も、急速で充填されても泡立たないような特別の加工がされているのです。
最近のトップチームでも、「完全に満タンにならなかった!」という事がたまにあるようです。 残念ながらこれらの機構は企業秘密なので、どのような構造になっているか私も知りません!興味ありますね!


(2) タイヤ交換システム
8耐のピット作業で、最も重要といわれるのが、タイヤ交換です。上位チームは、ピットイン毎にほぼ毎回、フロント、リア共にタイヤ交換を行います。
バイクのタイヤ交換をやった事のある方ならお分かりと思いますが、車のタイヤ交換と比べてかなり面倒な作業ですよね?
それを耐久レースでは、何と4~6秒という驚異的なスピードで変えてしまうのです!フロント、リアタイヤの交換を速くするために、マシンとリムに加工がされているのでそのシステムを紹介しましょう。
ピットインしてからの作業手順は上記に書いた通りです。チームによって多少タイヤ交換のシステムと手順が違いますが、多くの場合の作業員の役割と手順を説明してみましょう。
・作業員はフロントとリアにそれぞれ2名ずつが配置されます。 ・更にマシンにスタンドを掛ける人と、アクスルシャフトを抜く/入れる人が1名ずつ分担されます。
スタンドを掛ける人は、その後マシンからタイヤを外し、新しいタイヤを入れます。 フロントとリアでは作業手順は同じなので、時系列を追ってAさんとBさんの仕事を書いてみましょう。
1.Aスタンドを掛けてマシンを上げる。 リムを所定の位置に回転して合わせる。(*後で説明します。)
2.Bインパクトレンチでアクスルシャフトを抜く。 
3.Aマシンについているタイヤを外し、後ろで構えている人に渡す。 
4.A準備している新しいタイヤをマシンに装着する。 
5.Bインパクトレンチにて、アクスルシャフトを入れて締め付ける。 
6.Aスタンドを外す。(リアは給油中掛けたままで、給油後に外す)
この一連の1~6の作業を、フロント、リアタイヤ交換を同時に行い、何と4~6秒でやってしまうのです! メカニックの熟練さも大きいのですが、市販車のCBR1000や、YZF-R1そのままでは、勿論このように速くは交換出来ません。
ewc_vol10_3.jpg 一般車と何を変えているのかというと、フロントについては、
①ブレーキキャリパーは、ディスクが抜けると左右に開くようになっている。(タイヤがすぐ抜けるように)②アクスルシャフトを固定(締める)ボルトは使用しない。③リムが定位置に入って止まるようにガイドを付けている。④フロントフォーク下に、スタンドを掛けやすくするガイドを付ける。(フォークにスタンドを掛ける場合。)
リアに関しては、EWCではトップチームの多くが、スプロケットがホイールではなく、スイングアームに残るシステム(通称ペンタゴンという。)を採用しています。このシステムだと、チェーンを外さなくて済むというメリットがあります。
なぜペンタゴンと言うかというと、ホイールとスプロケットの内側の合わさる所が、5角形の形をしている為です。(5角形を英語でPentagonといいます。)
ペンタゴンのシステムでも、リムが抜ける場所が1か所決まっているので、担当のAさんは、スタンドを掛けた後に印の付けたその位置に回転して合わせる必要があります。
ちなみに#634ハルクプロ、#21ヤマハファクトリー、#5TSR、#11チームグリーンはペンタゴンを使っていません!
通常にスプロケットがリムに付いていて、チェーンを外したり掛けたりしています。
勿論チェーンを外して掛けるのがやり易いように改造されていますが、全く引けを取らない速さには驚きます。この機構についても、#12 ヨシムラのマシンで説明した映像をご覧ください。


各チームタイヤ交換の4人と、給油担当の役割分担は決まっています。
タイヤ交換担当は、スタンドの掛け損ねや、シャフトがスムースに抜けない、フロントのキャリパーがすんなり入らない等、ちょっとした事ですぐに数秒のロスをしてしまいます。
マシンはかなり熱くなっているので、練習時とは違う状況も想定されるし、何しろ凄いプレッシャーの中で、落ち着いて素早く作業が出来るか?まさにチーム力が問われるのです。

又給油担当は、40kg以上もの給油タンクを抱え、タイヤ交換作業中はガソリンタンクの上に浮かせた状態で待機し、合図と共に給油口に合わせてピタリと入れて、
ガソリンが入ったと同時に素早く引き抜くという、まさに力と合わせる繊細さが必要です!
ライダーもピットイン、アウトに合わせて、多くのスイッチを操作する必要があります。
このように10秒程度で終わってしまうピット作業も、速く確実にする為に多くの技術と工夫が投入され、熟練した作業員達が、この日のしかも7回の作業の為に1年掛けて準備しているのです! いかがでしたか?ピット作業を見る目も変わったのではないでしょうか?
ぜひ今年の8耐では、ピット作業にも注目してみて下さい。