みなさん、こんにちは! ブリヂストンの山田宏です。
いよいよ8耐レースウィークに入りました。レースも直前となりましたが、今回は現場でチームと一体になって働いている、ブリヂストンのフィールドエンジニアについてお話ししたいと思います。

今年の鈴鹿8耐でブリヂストンがサポートするチームは全部で16。サポートチームに対しては、準備から実際の走行までの過程で、フィールドエンジニアによる技術サービスを提供しています。全日本ロードレース選手権および鈴鹿8耐のテストとレースの現場で、ブリヂストンユーザーチームをサポートするフィールドエンジニアに話を聞きました。

1.タイヤを運ぶ

ブリヂストンのレース用タイヤは、ブリヂストンのフィールドエンジニア達によって専用の大型車両(トランスポーター)で各サーキットへ運ばれます。『タイヤをサーキットに運ぶ』とはどういう仕事なのでしょうかか? 自身も全日本ロードレース選手権にライダーとして出場経験があり、現在はKawasaki Team GREEN等のチームサポートを担当する戸田正フィールドエンジニア に伺いました。

「8耐には大型車3台で約2000本のタイヤを輸送します。さらに、タイヤチェンジャーやエア充填機などのサービス機材を積んだ大型車1台を加えて、合計4台のトランスポーターが運行します。タイヤはスペックが何種類もありますので、倉庫から出す時と積み込む時の計2回、間違いがないかチェックします。またサーキットでタイヤを運び出す時のことも考え、より使用頻度が高いスペックを入口側に積んだり、安全上の理由で縦に積む本数に制限があったり、そして何よりタイヤに傷がつかないよう注意しながら、色々考えながら積み込みの作業をします。ですから、4台分積み込みにはスタッフ数人でほぼ丸一日かかります。東京の倉庫から鈴鹿まで6時間半か7時間かけて走りますが、これには社内ルールで定められた休憩時間時間が含まれます。またサーキットでお客様の目に、ブリヂストンのトランスポーターが綺麗に格好良く映るように、到着直前に必ず洗車 してピカピカにします」

Kawasaki Team GREEN担当としてのコメントももらいました。

「8時間は長いですし、ライダー3人だけでなくチームの総合力が重要なので、自分たちのペースを守って走ること・焦らずミスなく戦うことがベストかな、と思います。昨年実績のあるタイヤをベースにして、セットアップを進めてもらっているので、新しいライダーも含め順調に準備が進んでいます。チームワークは最高のチームだと思いますので、昨年に続きぜひ表彰台に登ってほしいです」

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2.タイヤをホイールに組付する

サーキットではまず、タイヤを各チーム所有のホイールへ組み付ける作業が、パドック内のブリヂストンのサービスブースで行わます。しかしDRY/WET、フロント/リア、構造違いやトレッドゴム違いなど、持ち込まれたスペックが何種類もある中、各チームのスペックはどのよう決定されるでしょうか? スーパーGTシリーズ・全日本モトクロス選手権・全日本カート選手権など、さまざまなレースでのサポート経験が豊富で、現在はヨシムラスズキMOTULレーシング等のチームサポートを担当する松下央フィールドエンジニアに説明してもらいました。

「前年の鈴鹿8耐・同年の全日本ロードレースの結果から、チーム毎にコントロールスペック(基準となるスペック)が大まかに決まっています。このスペックを基準として、直近テストでの結果や天気予報も加味して、レースウィーク走行用のスペックを決定します。もちろん、チームが試してみたいセットアップや、ブリヂストンの評価したいタイヤスペック等があれば、チームとの間でウィーク前に摺合せを行っておきます」

使用するタイヤスペックが決定すると、次はそのタイヤをホイールに組付する作業です。しかしスペックは違ってもタイヤはどれも黒くて丸いし、たくさんのチームがブリヂストンのサービスブースにホイールを持ち込んでいます。どのようにスムーズかつ間違いのない作業を実現しているのでしょうか?

「まずチームと話し合って決めたスペックを、私が管理シートに記入します。この管理シートに従って、専従の在庫管理スタッフがトラックの中から組付するタイヤを運び出してくれます。このタイヤにゼッケンやセットナンバーを記入し、タイヤの上にホイールを積み重ねて、組付ラインに流します。当然ですが、組付するスペックの間違いは避けなければいけませんので、組付の前後に自分でスペックをチェックし、またチームのタイヤ管理担当者にも受取時にチェックしてもらえるようお願いしています」

ヨシムラスズキMOTULレーシング担当としてチームについても聞きました。

「今年はスズキの新型車両のデビューですので、基本的にタイヤスペックは固定し、車両の方でタイヤ性能を発揮できるようにセットアップを合わせこんでくれていました。新車ということでやるべき事は多かった筈ですが、順調にセットアップ作業を進めてくださっていると感じていました。順位を予想するのは難しいですが、担当チームの好成績は自分のことのように嬉しいので、ぜひ優勝できるよう頑張ってサポートします」

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3.タイヤのデータを採る

ホイールに組付されたタイヤを装着し、マシンがサーキットで周回を重ねてピットに戻ってきます。タイヤが冷えないようにチームのメカニックがウォーマーをタイヤに巻いてしまう前に、ブリヂストンのフィールドエンジニアはセンサー等でタイヤのデータを採取し、同時にタイヤの状態を観察します。実際に何のデータを採って、そのデータをどのように活かしているのでしょうか? MuSASHi RT HARC-PRO等のチームサポートを担当し、またホンダの8耐用レース車両の開発テストにも立ち会っている安田武人フィールドエンジニアに教えてもらいました。

「タイヤのトレッドに温度センサーを差し込んで、トレッドゴムの内部温度を測定しています。加えて、チームの担当メカニックが測定した空気圧のデータを見せてもらいます。内部温度は、タイヤがどれだけ仕事をしているかを把握する指標になりますが、タイヤのグリップ不足でホイールスピンによる摩擦で温度が上がってしまっている場合もありますので、温度の上がり過ぎにも注意が必要です。マシンが速くコーナーをクリアするには、どれだけタイヤを潰した状態で走れるかが重要ですので、スペックや条件にあわせた適正な内部温度を把握していますし、それを目指してセットアップを調整してもらったりもします。あとは、摩耗測定溝を常に注意して観察し、摩耗進行度合いをチームに報告しています。摩耗の情報に基づいて構造やトレッドゴムの異なる別スペックに変更することもあります」

MuSASHI RT HARC-PROについての仕上がり具合についても聞いてみた。

「使用するホンダの車両が今年は完全な新車ということで、全日本ロードレースでの実戦データを蓄積したこととも考慮して、17インチのタイヤをチームは選択しています。過去の実績データが豊富な16.5インチに比べても、17インチの特性をより生かせる部分も出てきていますので、レースでもその部分を十分に引き出せるように全力でサポートしたいと思っています。新車なので、ぜひ優勝という大きなところに届いてほしいですね」

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4.ライダーのコメントを聞く

ピットイン後に採取したタイヤ内部温度やラップタイムなど、数字で出てくるデータも重要ですが、同じくらい重要なのが走っていたライダー本人からのコメントです。ブリヂストンのフィールドエンジニアは、各走行後のライダーのコメントにも注意深く耳を傾けます。実際にマシンを走らせているライダーは、そもそもどのようなコメントを発するのでしょうか? この道30年以上の大ベテランでフィールドエンジニア達を統率する立場にあり、また鈴鹿8耐2連覇中のヤマハファクトリーレーシングチーム担当、中須賀選手からの信頼が厚い渡辺清フィールドエンジニアに話を聞きました。

「たとえば、よくライダーは『タイヤが跳ねる』とコメントします。しかし、その『跳ねる』という現象が起きているのが、減速中なのか・旋回中なのか・加速中なのかをできるだけ正確に把握する必要があります。そのため、『跳ねる』というコメントに対して、自分でそのコメントの背景を想像しつつ、『加速時?、どこのコーナーの出口で起きている?』などと聞き返して、現象の理解に努めます。この『跳ねている』部分が、そのタイヤの特性の改善すべき部分と言えますから、その情報を次の段階の開発に向けてフィードバックします」

つまり、サポートエンジニアが想像し・聞き返し・より正確に理解しようとするとき、ライダーのコメントの上手さも重要になります。渡辺フィールドエンジニアが担当するライダーのコメント力は?

「野左根選手は、自分の予期しない挙動をバイクが示したときに、その事実を端的にコメントしてくれます。こういうタイプのライダーには、『じゃあどうなの?』とより掘り下げて聞くことが大事です。中須賀選手はタイヤについて、『●●●がいいけど、■■■が足りないね』という順番で、エンジニアが現象をイメージしやすいコメントになるように考えてくれている印象を持っています。でも本当に悪い時は、『▲▲▲がダメ』とはっきりコメントするので、よく分かります。ライダー自身の好みもしっかり主張します」

最後に担当するヤマハファクトリーチームについてコメントしてもらいました。

「実績のあるチームパッケージですので、テストの進捗は順調だったと思います。あとは3人のライダーが上手く融合していけば、自ずと好結果が出てくるとは思いますが、ライバルチームも仕上がりが良いので、チームは"気が抜けない"状態のように、私には見えます。3連覇に向けてしっかりサポートしていきたいです」

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今回紹介したフィールドエンジニア達が、チーム・ライダーと信頼関係を築き、共に好成績を目指して日々努力しています。
彼らがサーキットで吸い上げた貴重で詳細な情報が開発エンジニアに伝えられ、その情報を元にさらなる新しいタイヤが開発されていくのです。
彼らが担う責務は非常に重要であり、ブリヂストン装着チームの鈴鹿8耐11連覇も彼らの地道な努力がなければ成し得なかったものでしょう。

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