みなさん、こんにちは!ブリヂストンの山田宏です。
今回はルマン24時間耐久で、日本チームとして初めて優勝し、日の丸を表彰台の真ん中に掲げたF.C.C. TSR Honda Franceの総監督藤井正和さんが、当社にルマン優勝の大トロフィーを持って凱旋帰国し、お話しを聞く機会があり、ルマン24時間の時のお話しを聞きました。

まずルマン24時間での劇的な勝利の映像をご覧下さい。

1.ルマン24時間勝利の意味と難しさ

藤井総監督が、第4戦後に欧州から凱旋帰国し、6/14にブリヂストン本社にルマン24時間の優勝大トロフィーと持ってきてくれ、ブリヂストンの役員達に優勝報告をしてくれました。 その時に行った藤井総監督へのインタビューです。インタビューアーは山田です。
山田:本日はお忙しい所、わざわざブリヂストン本社までお越し頂きありがとうございました。そして改めましてルマン24時間の優勝おめでとうございました。私も先ほど大トロフィーを運送業者から受け取り、その大きさと重さにビックリしました!こんなに重いトロフィーを、4人とはいえ表彰式でよく頭上まであげたなと感心しました。

藤井監督(以下藤井):そうなんです。ただ表彰台では興奮してたからか、重さは気にならなかったです。その後改めて見た時に凄いなと!このトロフィーは4輪のルマン24時間レースと同じだそうです!2輪用のトロフィーが日本の地を踏むのは歴史的に初めてで、今回真っ先にブリヂストンの皆様に見てもらえて光栄です。今年の4輪のルマン24時間では、トヨタさんが勝つだろうけど、そのトヨタさんより早く我々が日本に持ってこられた事は嬉しいです。

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藤井総監督が、ルマン24時間優勝大トロフィーを持ってきてくれ、当社役員達にお披露目してくれました。

山田:それでは今日はルマンについて色々とお話を伺いたいと思います。
TSRとして2016年に始めてルマン24時間に出場して、いきなり3位表彰台を獲得しました。この時の24時間耐久レースの印象はいかがだったですか?

藤井:我々は世界のレースを知っているが、想像している事とは全く違った。鈴鹿8耐も含め、レースは速さや技術を争うというように思っていたのだが、ルマン24時間は全く違う所だった。例えば気温が凄く低い所、2℃とか0℃近くの時に走らせた事はなかったので、夜中にその位寒くなったので、オフィシャルに「こんな状態でもレースやるの?」って聞きに行った位。常連の他のチームは夜中でも速く走っていたけど、我々は3秒も5秒も遅かった。やはりその部分が凄く強烈で、全く知らない別の世界に来た感じだった。

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山田:TSRとしては世界グランプリに1991年から12年間もの間、3クラス共に参戦の経験があり、海外のレースは良く知っていると思います。世界グランプリでも過去ルマンを走っているのですが、ルマン24時間のカルチャーは特別なものがありますか?

藤井:我々はグランプリでルマンに来ていたので、コースとGPのレース時の雰囲気は良く知っている。しかしルマン24時間は雰囲気が全く違った。東京と大阪、新宿と六本木等で町の色、雰囲気が違うが、同じルマンでもGPと耐久で全く違った。同じバイクレースのファンが集まるのだが、雰囲気が全く違ったのにまず驚いた。具体的に言うと、観客の質というか、耐久の客はがらが悪くて、近づくのが怖いくらいの感じがあった。GPの客は普通に熱狂的なファンという感じだが客の質が全く違う。
またサーキットでたき火を奨励しているのはルマンだけじゃないか?観客が観戦する場所に、たき木が積まれて準備されていて、それを観客が燃やしながら暖を取る。観客もキャンプをしながらの人が多いからという事情もあるだろうが。
レースへの参加チームも自分たちで楽しんでいる。一昔前の鈴鹿8耐もそういう雰囲気があったが、このステータスの高いレースに参加する事に意義を感じる人達が多いと感じた。アラン(テシェ)の父ちゃんが、ピットにワインを持ってきて夜レース中に飲んでいた。寒いからという事もあっただろうが、GPでも考えられない事だった!

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山田:ルマン優勝翌日の現地新聞等見せてもらいましたが、日本では考えられない報道の仕方ですね!
 これらの報道から更に実感が湧いたと思いますが、日本チームとして初めての優勝になりました。改めてルマンで優勝して変わった事はなんですか?
藤井:レースが終わって翌日片付けて帰るけど、スーパーやガソリンスタンドで、おばちゃん達が声掛けてくれた。「あなた達、昨日ルマンで勝った人だよね?」って。レキップ誌(現地の新聞)では、今年のルマン24時間は、MotoGPのアメリカGPと同日開催だったが、MotoGPで勝ったM.マルケスより、我々のアランの写真の方が大きく載っていた!勿論フランス人だから、というのもあるが、今年のフランスGPに招待されてルマンに行ったが、パドックを歩いていると盛んに声を掛けられた。これは鈴鹿以上でしたね。その位ルマン24時間が文化として根付いていいるというのを、改めて感じた。

山田:耐久レースとして考えた時、TSRとしては鈴鹿8耐に3回の優勝経験があります。鈴鹿8耐は世界一レベルの高い耐久レースだと思いますが、ルマン24時間に勝つのと、鈴鹿8耐で勝つ為の取り組み、準備等何が違いますか?
藤井:ルマン24時間を経験するまでは、鈴鹿8耐が耐久レースという感覚だった。朝スタートして夜チェッカーを受けるのだが、8時間は長いから大変っていう感覚だったけど、24時間をやると8耐はあっという間に終わる!24時間耐久レースには、1日とはどういうものか等全てが入っているし、もっと言えば人生の縮図という感覚がある。24時間と8時間では同じ耐久レースでも全く違う。
具体的にマシンやハードの話をすると、8耐マシンのエンジンはフルパワーだが、24時間に使うエンジンはそれでは持たないので、回転数を押さえて使う。チェーンやスプロケットも、耐久性が必要なのでサイズも違うし、ブレーキパットも減ってしまうので、ブレーキキャリパーごとに、今はレース中2回交換している。24時間でもレースのペースが年々速くなっているから、色々な部分が厳しくなっている。
ヘッドライトもかなり明るいものを付ける。とにかく夜が長いので、夜にペースを落とさないか、逆に上げるくらいのつもりでヘッドライトも明るくする。鈴鹿8耐でもライト点灯は必要だが、19:30ゴールで日没はだいたい19時くらいだから、本当に暗い時間は短い。ピットの照明とかも夜の作業を迅速に出来るように、ピット前の作業エリアを照明で照らす。

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2.ルマン24時間制覇までの道

山田:ルマンでは、予選2回目はタイヤ温存の為にアタックせずに予選6位でした。予選までの感触では、かなり良かったのですか?予選までのマシンセッティングは、3選手の間で上手く行っていたのですか?誰を中心にセッティングしたとかありますか?またタイヤ性能の見込、満足度はどうだったのですか?

藤井:予選ポジション自体はそれ程重要とは思わない。勿論各ライダーの持ちタイムが実力となるのだが、無理しての一発タイムは必要ではない。予選までにマシンのセッティングはある程度仕上がっていたので、予選2回目は別に走る必要は無かったし、その点は皆分かっていた。今年の場合フレディー(フォレイ)が一番経験あり、自分から2回目は走らなくてもいいか?と言って来た。ライダーもその辺りは分かってきている。
ルマンの時も予選までにライバルの実力も分かっていたので、優勝できるポジションで我慢してレース出来れば、勝てる感覚は持っていた。残念ながらルマンでは、相手を蹴落として勝てる位置にはいなかったので、相手がミスをするのを待つ戦略となった。ライバルは#94 GMT94、#7 YART、#2 SERT、#111 Honda EDの4チームと見ていた。
マシンの仕上がりとしては、65点位だっただろうか?タイヤのポテンシャルも生かし切れず、耐久性が厳しく走行後半のタイムダウンが理想より大きかった。

山田:レースは序盤3位を走り、4時間過ぎにトップ争いをしていた、同じブリヂストンサポートチームのYARTが転倒して2位に浮上しました。しかしその後トップとの差が少しずつ広がり、折り返し12時間の時点では2-3周の差が付いてしまいました。この辺り監督としての心境はどうだったのですか?無理せずに我慢してキープするのか、何とかして前との差を詰めようとしたのか?

藤井:2位というポジションは予定通りだった。トップとの差は2周あったが、800周の中の2周は大した事はではないし、何かあればその位の時間はすぐにロスしてしまう。ペースアップの指示をした所で、速くなる訳ではないので、特にそのような指示はしていない。


山田:残り6時間辺りでトップに浮上しました。レース終盤となってトップに立ったのですが、マシンは順調だったのですか?又トップに立って2位とは2周程度の差を付けていたのですが、この時の心境はいかがでしたか?

藤井:マシンは特にトラブルの兆候も出てなかったが、前にも言ったが仕上がりは完璧では無かったので、余裕はなかったし終盤は特にライダーは厳しかったと思う。
トップに立ってからは無理はするなという指示はしていたが、終盤にはライダーの疲労の問題で、ローテーションも変えざるを得なかった。フレディだけが問題無かったので、沢山乗ってもらった。
終盤2位との差は2周あったが、逆にいうと何かあったらすぐ逆転されるので、後続との差を広げてマージンを確保する事は必要だったので、その為にラップタイムを落として、徐々にマージンを少なくする事は考えなかった。

山田:残り少なくなり、2位との差も2周とマージンを保ったまま推移しましたが、勝てるだろうと思ったのはいつ頃ですか?やはりゴールするまでは分からなかった?

藤井:戦略通りに終盤トップに立てたので、その時点でこのままいけば勝てるという感覚はあったが、勿論最後まで気を抜く事は出来なかった。

山田:今回のルマンでの勝因は何ですか?また次に向けての反省点や改善点はありますか?

藤井:ルマンでは戦略がうまく当たった。ライダー、マシン、チーム全てが強くなる必要があるが、ルマンではそのパッケージの実力が、そのレベルにまで上げられたという事。勿論マシンのポテンシャルをもっと上げられるし、タイヤだってもっと良く出来るし、まだまだ上げられると考えている。
来シーズンのボルドール(2018年9月予定)に向けては、もう色々な準備をしている。実際に鈴鹿8耐が終ったらすぐにマシンを送る必要があるので、マシンに関してはかなり先まで計画を立てている。ライダーに関しても共に来シーズンの契約を含め準備をしているし、お蔭で乗りたいと言ってくれるライダーが多くいるので、その中から強いパッケージを作って行きたい。

山田:本日はありがとうございました。