みなさん、こんにちは! ブリヂストンの山田宏です。
今回は、EWCのチャンピオンを目指すF.C.C. TSR Honda France をサーキットで専任サポートするブリヂストンのエンジニア、大庭裕史さんに、お話を伺いました。

(山田) EWCでF.C.C. TSR Honda France(以下「TSR」)を担当するようになった最初の時期のことを教えてください。

(大庭) 2018年初からEWCを担当することになりました。今シーズンのEWCは、2017年9月の開幕戦ボルドール24時間(フランス)から2018年4月の第2戦ルマン24時間(同)まで半年以上のインターバルがあり、TSRが国内外で積極的にテストを行っている時期です。最初にテスト現場で感じたのは、「これまで担当していたモトクロスと比較して、車両運動性能やレース結果に対してタイヤが占める割合が非常に大きい」ということでした。自分が行う仕事に対する緊張感もこれまで以上に高くなったと感じています。

(山田) 最初のEWCレースからTSR専任となり、チームが悲願の優勝を飾ったルマン24時間について聞かせてください。

(大庭) ルマンに対しては、路面温度が低い条件下でのタイヤの作動性と摩耗に課題があると認識していたので、インターバルの間にコンパウンドとタイヤ構造の両面から開発を進めました。それらのタイヤを2回のルマン事前走行テストで確認し、最終的なレースへの投入スペックを決定しました。
 ルマンは24時間の長丁場ですから路面温度はレース中に大きく変化します。フロントタイヤ・リアタイヤともに1スペックのみで24時間をカバーできるのが理想ですが、そうはいかない。24時間中のどこかのルーティンストップでスペックの切り替えを判断しなければいけない。そのため、レースウィークに入ってからは、走行セッション毎に走行コンディションとライダーからのタイヤ性能フィードバックを精査して、様々なコンディションにおける最適なタイヤスペックを判断するための材料探し・基準作りの作業を行っていました。これはルマンに限った話ではないですが、コンディションの変化幅が大きい24時間レースでは、この作業の重要度が増します。
 15時に決勝がスタートして、序盤のレース展開は落ち着いていたのですが、夜になって気温・路面温度が下がってくると、1スティント内でのグリップの落ちがより大きくなっていきました。そこで、その時の順位や前後とのタイム差も考慮して、藤井監督や他のチームスタッフと話し合い、ピークのグリップはやや落ちるものの、1スティント内で比較的安定したラップタイムを維持できるタイヤスペックを使用することにしました。
 トップを走っていたライバルチームが転倒して優勝争いから脱落し、2位を走っていたTSRがトップに立った瞬間からピット内の雰囲気がガラリと変わりましたね。「これは行けるぞ」という感じで、藤井監督から日本人・フランス人スタッフまでみんなの目の色が変わったのを非常に強く感じました。

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(山田) その後、スロバキアリンク8時間で3位・オシャースレーベン8時間(ドイツ)で2勝目と、シリーズチャンピオンに獲得に向けて着実に進んでいきました。専任エンジニアの目から見て、チームの各レースへの臨み方に何か変化はありましたか?

(大庭) 僕がルマンでTSRの専任になった時、藤井監督は常に「チャンピオンを目指す」と言っていました。従ってルマンで優勝して以降は、1つでも上の順位を目指しながらも、着実にポイントを獲得する傾向は強まっていったと感じます。スロバキアでは堅実な戦略で3位表彰台を獲得しました。オシャースレーベンでも、同様に堅実な戦略をとりながらも、結果として2勝目を挙げ、「ランキングTopで日本へ帰り、最終戦の鈴鹿8耐を迎える」というこの時点までのチームの目標を達成することができました。

(山田) 長年、全日本モトクロス選手権でチーム・選手のサポートを担当してきた経験は、現在EWC担当として活かされていますか?

(大庭) タイヤ開発においては、モトクロスタイヤと比較して、取り扱うタイヤデータが非常に多く、加えてマシンそのものの理解もより重要になってくるという点で難しさを感じています。しかし、現場でのチームやライダーのサポートに関しては共通点も多くあるので、その点ではこれまでの経験が活かされていると思います。

(山田) TSRというチームのシリーズチャンピオン獲得に向けての思いを聞かせてください。

(大庭) ポイント差やTSRというチームが鈴鹿で持っている潜在能力から考えて、チャンピオン獲得の可能性は高いと思っています。ですから僕個人としては、予選でトップ10トライアルに残り、決勝でも上位でフィニッシュして、格好良くチャンピオンになって欲しいという気持ちもあります。もちろんチャンピオン獲得を最優先事項としてサポートするつもりですし、耐久レースなので何があるか分かりませんから、あらゆる状況に対応できるようにブリヂストンも万全の準備をしています。

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大庭裕史:
大学院前期博士課程修了後、2011年㈱ブリヂストン入社し、MCタイヤ開発部配属。2輪車メーカー納入用ツーリング系タイヤ設計を担当し、その後モトクロス用タイヤ設計に従事。この間、全日本モトクロス選手権の最高峰IA1クラスで、2015年小島庸平選手(当時TeamSUZUKI所属)・2016年成田亮選手(TeamHRC所属)のチャンピオン獲得をサポートし、平行してブリヂストンの現行市販モトクロスタイヤBATTLECROSS"X"シリーズを設計。2018年初よりEWC担当に変更となり、レース現場ではF.C.C. TSR Honda Franceの専任エンジニア。