するとクルマが前のめりになる。この時の状態は「フロントに荷重がかかってる」って表現するんだ。別名「フロント(前)荷重」ともいう。そして信号が青に変わってアクセルを踏むと今度は前が上がり、後ろが下がる状態になるよね。これを「リアに荷重がかかってる」といい、「リア(後ろ)荷重」って表現するんだ。コーナリングの時はクルマがどちらかに傾いてるわけだから、「横荷重」とか「右(左)荷重」っていう。さらに細かくいえば、ブレーキしながら(前荷重になりながら)曲がって(横荷重)行くと、左右どちらかのフロントに最も荷重がかかっていて、その対角線上の逆側が一番荷重がかかってないって事になる。

さて具体的な説明に移る前に静止状態の荷重を定義しよう。

■■静止状態の荷重■■(F:フロント R:リア)
左F:50 右F:50
左R:50 右R:50
厳密にいえば車種やセッティングによってもこの数値は変わるんだけど、判りやすくするためにこう仮定しよう。

これをスポーツドライビングの右コーナーの場合で考えてみよう。第9回の『ブレーキング』の中のタイヤのグリップタテとヨコの関係を思い出しながら読むと理解できるぞ。

1.進入手前のストレート<アクセル全開>
左F:30 右F:30
左R:70 右R:70
最初は左右のリアタイヤにかなり荷重がかかっている。もちろんストレートでもステアリングがきくわけだから、アクセル全開でも前にも荷重がかかっているよ。

2.進入のフルブレーキング<フルブレーキング>
左F:80 右F:80
左R:20 右R:20
一気にフロント荷重へ。加速時よりも減速時の方がスピードの変化は大きいから、フロント荷重もアクセル全開時より強烈にかかる。

3.右コーナー進入~クリッピングポイント<曲がるためのブレーキング>
左F:70 右F:60
左R:40 右R:30
フロントタイヤの荷重が減少。最近の傾向としてタイヤはヨコに比べてタテ方向のグリップが強い。そのためタイヤが直進状態だったらかなりの荷重をかけてもグリップするんだけど、ステアリングを切ってヨコ方向のグリップを発生させるとなると、それでは強過ぎるんだ。だからそのために荷重を気持ち抜いてやる必要があるんだよ。もちろん「2.」のフルブレーキング時のフロント荷重が「70」程度だったらステアリングを切っても曲がっていくぞ。

14-1.jpg

14-2.jpg4.クリッピングポイント<ブレーキからアクセルへ移る瞬間>
左F:60 右F:40
左R:60 右R:40
コーナーに対してアウト側、つまり左の前後輪に荷重の大部分がかかる。ただしコーナリングスピードに応じて左側の荷重は変化するよ。スピードが高ければそれだけ横Gがかかるからね。ステアリングはここで一番切られている状態だ。

5.クリッピングポイント~コーナー出口<ハーフアクセル>
左F:50 右F:35
左R:65 右R:50
徐々にリアタイヤへ荷重が移動してゆく。ステアリングを戻しながら、アクセルをじわ~っと開けていく。ここで「じわ~っ」ではなく「ばんっ!!」って一気に踏むと、駆動タイヤが急激にグリップを失い(路面を捉えず空転しちゃう)、外へ外へと流れて行ってしまう。リア駆動だったらリアが、FFだったらフロントがアウト側へ逃げて行ってしまう。これをそれぞれオーバーステア、アンダーステアっていうんだ。必ずしもリア駆動だとオーバーステアになりFFだとアンダーステアになる、というわけではないけどね。

6.コーナー出口<アクセル全開>
左F:30 右F:30
左R:70 右R:70
左右のリアタイヤに均等に荷重がかかる。もちろんステアリングは直進だよ。「1.」のストレートと同じ状態だね。

 つまりクルマって、常にどこかに傾きながら動いてるってことだね。傾いてるってことは、荷重がかかってる部分のタイヤが路面に押しつけられてることを意味してるんだよ。そしてこの「押しつけ具合」でタイヤの性能をコントロールすることができるんだ。それをするのはもちろん、ドライバーってわけ。アクセルをほんのちょっと踏めばリアタイヤが路面にちょっとだけ押しつけられ、ブレーキを「ガンッ!!」って踏めばフロントタイヤがつぶれそうになるぐらいギュッて押しつけられるわけだ。

 ちなみに荷重の移り変わりを「荷重移動」っていうんだけど、これはスポーツドライビングだけでなく街中の運転でも非常に重要なことなんだよ。第1回の『「速い」?「うまい」?』でも言ったけどナビシートの人の首が動かない運転って、つまり荷重移動がスムーズってことなんだ。「下手な運転」は荷重移動が不規則で、ナビシートの人の首があっちこっちに不必要に振られちゃう。そんな運転してたら誰もキミのクルマに乗ってくれなくなっちゃうぞ。Gの移り変わりをなだらかにしてあげるのがナイスドライビングだ。

 スポーツドライビングではそれぞれの荷重のかかり方はタイヤが浮き上がっちゃうぐらい大きいけど、荷重移動の方はスムーズであることが要求されるんだ。スムーズじゃないとスピンしたりすることはもちろん、何よりタイヤが早く痛んで本来の性能を発揮できない。それだとライバルに勝つことはできないからね。

 余談だけどラリーでよく使われる「フェイント」って知ってるかな? サッカーとかバスケットなんかだと、「あっち行くフリして実はこっち」っていう相手をほんろうする技をいうよね。モータースポーツの場合は直前のコーナーとは逆方向(右コーナーだったら左)に一度ステアリングを切って、荷重をコーナーに対してイン側に寄せてから通常のコーナリングに入る技をいうんだ。これはいったんイン側にかかった荷重が、反動でアウト側に移る力を利用して、一気に荷重を移動させてるんだね。路面のコンディションが不安定で一度の操作で荷重移動しにくいようなダート路面や雪の路面で使われることがあるんだよ。

 でもね、ひとつみんなに知っておいてもらいたいことがある。"荷重移動させよう"と思いすぎると、タイヤのグリップやライントレースに集中できなくなってしまうことがある。「荷重移動」ってやつはあくまでも「操作の結果」として表れるものなんだ。あまり考えすぎないほうがいいぞ。

 いずれにしても、「荷重」って、タイヤとはすごく密接な関わりがあるんだ。次回はそのタイヤとドライビングとの関係に触れてみようか。

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